重い女
「どうやらこの県にも今来てるらしいのよね」
橋本のレーダーに引っかかったらしい。
数は少なくもののSNSにつぶやきが流れているとか。
「興味あるでしょ」
「「「ない」」」
光太郎以外は一様に否定。
「知らないかもしれないけど、今のプール公営みたいなもんなのよね」
「町がお金出してるの?」
「補助金は出てるみたい」
ワクワクした顔で橋本は
「あたしたちのプールにも現れるかもね」
秘蔵録画が底をついたようで、行朝さんの強引な解説は落ち着いている。
落ち着かないのはむしろ俺と千種だ。
毎夜復習、予習に付き合わされる。
入試こそ互いにトップだったけど、一学期の中間テストでは俺は平均点にやっと届くかどうかだった。千種も学年二桁と面影がない。
そこで一念発起した千種に発破をかけられて、学力向上をと夜な夜な二人向き合うのだった。
(それにしてもどうしてこんなに信用してくれるんだろう)
端正な顔立ち。長い明るい色の髪。
アルトの声は風に負けず俺の耳に届く。
同じ屋根の下にいて、次第に惹かれていく自分の心が不思議だった。
そしてまた、この美人が無条件で俺を受け入れたことも不思議だった。
「なによ、じっと見て。進んだの?」
「!! あんまり……」
「あたしが美人で惚れ直したか」
ニヒっと笑う千種。
「それはないけど…」
「なんですって?」
「少しだけ…」
「あたしはさ…」
「10年待ったけど、そうでなくてもあなたを見つけていたと思う」
心を読まれたかとドキッとする。
「片割れの半分みたいな気がするんだよね」
「双子じゃあるまいし、そんなことあるかなあ」
奇遇だね、俺もそんな感じをたまに受けるんだ。
「葉さんと御地に行ってからかなあ。あたしあそこで意識なかったでしょ?」
千種はあの時間の記憶がないと語っていた。あのことを言っても誰も信じてはくれないだろうし、その場であったことと言えば、姉ちゃんと千種に身を借りた誰かが会話しただけだ。多少の不自然な現象はあったとしても。
誰なんだろうな、あの昔みたいな喋り方する人。しかもなんか千種に憑いてるっぽいし。
口が裂けても本人にも、他の誰にも言えないけどね。
「担いでくるのに結構大変だったんだ」
「重いって言いたいの?」
シャーとばかり猫の威嚇を繰り出す。
「幸平いないと考えられなくなるくらい、違う意味で重くなってるけど」
「光栄です、千種様」
「幸平だって最初の印象から変わってるよ」
「カッコよくなったと」
「それはないけど」
と笑う。
「あなた少し思慮深くなった」




