収束5 了
あの時以来の御地。
キイロバナの群生地でありながら、なぜか人影がない。
斑に咲きほころび始めたキイロバナは美しい。
「引っ越して来たのが高校入学のときね。去年、ここに来たときは全然咲いてなくて。悔しいから来年もう一回来ようってさゆりと話してたんだ」
みささんが説明する。
「来たばっかりでよく知ってたね」
「パパが誰かから聞いて来たんだよね」
「千種ちゃんのリボンってもしかしたら?」
さゆりさんが千種に質問する。
二人のコミュニケーションって初めて見るぞ。
「幸平から約束のリボンだって」
「きゃっ!」
あの二人乙女か?
「けっ」
なぜかそっぽを向くみささん。橋本みたいなひねくれ方するんだな。
の割には橋本と性格が合わないと思うんだけど。
同族嫌悪か?
ひとり大杉だけがぼーっと辺りを眺めている。
なんで姉ちゃん、大杉を連れていけって言ったんだ?
まっ確かに綺麗な花ではあるけど。
しばらく美しい群生を眺め、満足したのか先輩たちは俺たちと別れて降りていった。
「もう少し先」
千種が不意に言葉を放つ。
どこか常とは違う雰囲気にまたかとヒヤリとする。
他に違和感を感じる人がいないせいか、みなぞろぞろと動き出す。
「こっち」
千種がいつしか先頭に。
いやそっちなにもないだ…あ…
なぜそんなことを思う?
その先にはキイロウラムラサキにしては巨木。
いったい何年自生してきたんだ?
無数の花をつけ。
泣くように歌うように揺れる。
意思があるがごとく風に吹かれる。
他者を拒絶し、しかし求める。
他人を見ずしかし咲き誇る。
矛盾。
ぐるぐると胸の中にこみあげるもの。
何かを感じたのか涙を流す千種。
「無沙汰した twe-yo」
千種の発した言葉の後半。とよ?てぃよ?
そして。
一瞬の風が吹き、千種の髪とリボンが舞う。
刹那。
巨木は普通より少し大きい普通のキイロバナに見えるようになった。
気がつくと神社の境内。いつの間に降りてきたのか。
なんだか風に巻かれてここまで運ばれたみたいだ。
解散して帰り道。
大杉はぽつりと漏らした。
「お母さん会いに行きたかったのかなあ」
「あれサナノキ」
千種が答えた。
顛末は千種が姉ちゃんに報告した。
『贖罪とか別れとか』、そんなことを姉ちゃんは言ったらしい。当事者が来れないのならば、一番近しいものがあの大木に行く必要があったとのこと。遠い昔に関わることらしく、推し量ることは俺には無理だった。
橋本は再追試をどうにかクリアしたとその夜報告してきた。俺も千種もその時点まで再追試のことを知らなかった。




