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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第4章:サナノキ

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サナノキ

 母と私は姓が違う。弟もだ。

 母が二年前にたたき出した男が私を連子として母に会わせた。あの男が実父なのかも私には分からないし、母も聞かなかったと言う。

 弟も似たようなものだ。

 どのようにしてか、母は私と弟の姓を自分と合わせた。

 その頃には母の病の兆候が現れ、私たちは見る間に貧しくなった。


 サナノキとはなんだ?

 母は語らない。

 本当に喋らなくなった。

 心を閉ざしたのか、じっと私の目を見つめるのみ。

 駅に降り立ち、車椅子を押す。

 どこへ向かえばよいのだろう。


 迷う。


 駅で通りすがりの人に尋ねても、およそ首を傾げるばかり。

 死地の場所すら迷うのか。


 ふと金髪の肩幅のある姿で制服姿の女の子が通りかかる。

 雨上がりの晴天。

 ミニから大胆に露出した足が、しなやかな筋肉を主張していた。

 おそらくアスリートなのだろう。

 生々しい性を感じさせず、強く生命を主張していた。

(見たくない)

 昨夜の自分との落差に本能的に彼女の頭の上に視線をやる。それでも私は止めない。


「すみません、サナノキをご存知ですか?」

 女の子は足を止め、無遠慮に母と私をじろじろ眺めた。ふと問われる。

「あなた大杉美樹?」

 驚いた。いくら私が長身とは言え、それ以外に特徴もないはずなのに、見も知らぬ場所で私を知る人がいたとは。

 なぜかカバンの中のケースに入った包丁が気になる。


「えっと…あなたは…」

 今日私は初めて言葉を口に出した。

「覚えてないか」

 金髪の女の子はため息を吐くと

「サナノキなんでしょ?あたしは分からないけど…えーっと時間ある?」

「…はい…」

 ずっと母を車椅子に乗せたままは気になるのだが、私の覚悟を優先した。


 女の子は誰かと電話している。

「とにかくさっさと駅に来て。千種ちゃんも一緒に!サナのことなら千種ちゃんの方がよっぽど詳しいでしょ?…急がないとあんたの家にあたしが住むわよ!」

 会話相手と事情があるのだろうか。

 勢いが眩しい。


 ほんの少しあとに男女の高校生がやって来た。制服が同じだから、友達だろうか。

 男の人に見覚えがある。そしてその隣の綺麗な人視線が移る。

(まるで湖みたいだ)

 佇まいがどこか傑出したものを感じさせる。


 明るめのブラウンの髪に本当に綺麗な黄色いリボンをしていた。

 二人は金髪の女の子に向かい、一言二言交わし、私に近づく。

「大杉だろ?」

 彼が初めて口を開いて私に話しかける。

 同時に母がポツリと言う。リボンを見つめながら

「サナノキ」


 私を知る人と何かを知る母。

 血が巡りはじめた。


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