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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第1章:最弱選手権者

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史上最若、最弱

 決勝は選手入場時が派手だった。思い思いに選手がテレビカメラに向かってパフォーマンスする。僕は深々とお辞儀した。照れくさいし、何も考えてこなかったから。


 スタート台に上がり、場内は静寂。

 やおらスタート音。

 瞬時に体が反応する。後に記事で見たら反応速度は決勝で僕が一番だったらしい。

 僕は右オープンで端っこのレーンだから全部の選手が見える。恐らくブレスは一桁回。水を掌、腕に感じながら自ら理想とするピッチで体を前に引っ張っていく。

 キックが気持ちよく入る。伸びている感じがある。

 最後の10mをノーブレスで泳ぎきれた。右手のタッチが計測板をきっちり捉えた。


 終わった、と一度水に潜る。永遠のような感覚が途切れて満足感があった。レースではあるけど、今回は単独泳として自己ベストを目指す、それがコーチからの指示だった。僕も無論異議はなく、あえていまは掲示板を見なかった。先ほどのレースを順位と言う番号ではなく、感覚に刻みこもうとするために。


 プールサイドに上がって一礼をして帰ろうとしたところで後から話しかけられた。

「おめでとう」

 あ、勝者に祝福しなきゃとあわてて見渡してから誰が勝ったか確認を初めてする。

 掲示板には「8」が一番上にあった。


 ドクンと心臓が一鳴き。

(え?)

 僕は自己ベスト。そしてコンマ2秒の中に8人がいて、僕が勝った…?


 すぐ前に声をかけてくれたのは僕より身長で20cmも高そうな金髪のお兄さん。今回出場した数少ないオリンピック経験者だった気がする。テレビ越しでしか見てないし、正直個人メドレーの選手しか顔を覚えていない。

 両足を揃えて頭を下げる。

「ありがとうございます」

 あっけにとられたろうお兄さんは初めて笑うと手を差し出してきた。年上と称え合う握手は初めてだ。やはり僕には眩しすぎる世界。

 そしてあっさりとお兄さんは行ってしまう。


 その後、テレビクルーに優勝者インタビューを受けるよう促される。

 場所に着くと若そうな黒縁のメガネをかけたアナウンサーに「ここでお願いします」と誘導してもらった。


「放送席、放送席。こちら史上最年少で50m自由形を制した和田幸平選手に来ていただきました。まずは史上最年少で優勝した感想をお願いします。」

 さっきから足下がグラグラして言葉が出てこない。こういうときはまず「そうですね」と言いながら考えるんだっけ。なんかの研修会で教わった覚えがある。

「そうですね…」と言って絶句してしまう。

 言葉が出ない僕をアナウンサーがすかさずフォロー。さすがプロ。

「この喜びを最初に伝えたいのはやはりご両親?」

「あ、いえ…」

 まだ言葉が出ない。

 慌てたように「では最後に会場とテレビを見ている方に向けて」

 僕はなにかを振り絞って「ご声援ありがとうございました」と答えて放送事故寸前のインタビューは終了した。


 後日このインタビューの内容に、黒縁の円城寺さんの名前をからかうがごとく批判が繰り広げられた。両親がいないことを調べもしないで無遠慮に質問するなど杜撰過ぎる。曰く放送事故の炎上寺と。


 ちなみに女子の優勝はイヤホンを渡してくれた大柄の少女だった。表彰式ですれ違った際に、チラッと視線を向けると、それはとても虚ろげで無表情であったのを記憶している。それは、器が大きいとかそんな印象をまったく覚えない異質さを感じさせた。

 同学年であると後に知るのは数ヶ月先になる。

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