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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第3章:ツガイ

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葉の危機感5

「早名女って単なる特別感です。早名姓の者しかなれない巫女。昔、女性が成人してから他者より優位に立つ機会は多くなかったと思います」

「そうだろうね」

 論文発表のようになってきた。

「緩やかな鎖です。病気も災害も、願う者側から動かなければなりません。巫女が自分から厄介事を買う仕組みはありません」

「巫女はよそへ引っ越しできません。夫をもつ巫女もたくさんいたようですけど、全員がこの地で生涯を終えています。少なくても私の調べた限り」

 聞き入る行朝夫妻。

「おとぎ話はハッピーエンドが好まれます。ツガイのことです。唯一の愛され、愛する人との幸福な一生。素朴な人…ほどシンプルに信じたくなります」

「人生の幸運と不運が同量でしょうか?ついてない日の次の日は同じだけの幸運って来ますか?」

「私は…」


 さあもっと。

「私は信じません。ツガイだって言葉遊びです。それどころか…有害です」

「ありふれた話ですけど、素朴な言葉のイメージを追い越すほど時代が進んでしまった、と言うことです」


 ため息を吐く夫妻。

「葉くんの言うことは…わからない。判断の保留と言うか、真実は一生分からないと思う。できれば地元にこんなことがあると信じたくないが…。千種を可愛がってくれた葉くんが、千種を傷つけてまでなにかをしようとしてくれているのは感じる」

 千紗さんに目をやると…

「外から来た私には分からないことが多すぎるけど…寄り合いとか冠婚葬祭の場で、似たようなことをほんの一部だけ聞いたことあるわ」

 そうなのかと行朝さん。

「ほんとに一部ね」

 おそらくはサナメノツガイの利権のことだろう。


「明日、産婦人科の前から出発します」

 はっとする二人。

「深刻そうに三人いたらまず勘違いされますよね?」

「それでは千種が…」

「イジメとかあったら、私のところによこしてください。そうでなくても弟にすべて守らせます。今さらですけど…もうたぶん離れられませんよ、あの二人」

「確かに…幸平くんをなくすことを考えると…」

「いいんじゃない?あと三年したら離れちゃうのよ、どうせ」

「それにしても…」

「私もひとりっ子なの知ってて結婚したの誰?」

「…そうだな」


 利を得ず、いかにマイナスを少なくするかとの共通認識を確かめ、再度目的を明らかにする。

「サナメノツガイ」からの解放。

 クソッタレの装置から逃げだすのだ。 

 私は弟と婚約者を守れればいい。次の巫女が誰になろうが知ったことではない。

 美也子ちゃんを幸平に薦めることで千種ちゃんの飢餓感を煽る。私が嫌われようとも二人の結びつきはきっと強くなる。

 もし……千種ちゃんが幸平を選ばないのであれば……幸平()()を守る。千種ちゃんとの楽しい10年の思い出を無駄にすることになっても。


 幸平の結婚相手の家族に約束を取り付けた。千種ちゃんへの手向けだ。

 一晩で話がまとまるくらいには、巫女などと言うもの、厄介なものらしい。

 それとなく両親もどこかで危惧していたのかもしれない。 

 そもそも安全地帯の人間が生贄指名とか狂っている。


「ではこれで…」

 三人の明日の行動計画を伝えた後、辞去しようとした私は宿を尋ねられた。

 これから探すと答えると、家に泊まれと勧められた。私は昔を思い出しながら、およそ足りないかもしれない謝意を伝えた。


 懐かしい匂いの布団に入り考える。

 ね、幸平。そして千種ちゃん。

 あなたたちは家族になるのよ。もう少し、もう少し我慢して。

 15歳のあなたたちのおかしくてクソッタレの未来を私は見守るだけのことなんてしない。

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