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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第3章:ツガイ

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葉の危機感2

「姉ちゃん忙しいんだろ?どうしていきなり来たんだ?」

 荷物を携えて彼は問う。

(らしくなければ)

 胸が痛む。

「やっと暇を作ってきたのに。私の家に私が帰ってきたの」

「そっか。俺借りてるんだった」

「ほんとは千種ちゃんの家とか思ってない?」

「………うすうす」

「ラブホにしてない?」

「な………!」


 情を大切にする子たちだ。間違いはほんとに間違った時だろう。

「学校はどう?」

「不本意だけど…寝ている」

(想像外の因子だ)

 やはり来て良かった。おそらくたくさんの予想外があるだろう。


 弟の家に着くと、外観に安堵する。

 人が生活している…そんな気配に満ちている。普通があふれてることが、千種ちゃんが腐心した苦労を想起させる。どんな思いで庭を手入れしたのか、残酷なことに私はそれを推し量る能力がない。

「綺麗にしてるじゃない?自分で手入れしてる?」

「現状維持はしなさいって。千種に教えてもらってる」

「そう」

 満点すぎる。それが私は気に入らない。


 中に入るとやはり手が行き届いている。

「やっぱり現状維持なの?」

「んー」

 不服そうに彼は同意する。我慢できなくなり、ついに発する。

「嫁かよ」

「えー」

 丁寧に繊細に千種ちゃんに弟をプレゼンし、環境を整えてきたつもりでも、胸に生じるムカつきは人類共通のものなのだろうか。

「小姑かよ」

 うん、大きな主語いらない。


 いつの間にか弟は料理を覚えたらしい。

「ごめん、まだ覚え始めたばかりでさ」

 いい加減嫉妬しても仕方ないと思い直す。

「幸平にご飯作ってもらえるなんて、春が来るわけだわ」

「地球って地軸の傾きあって良かったよね」

 独特の外し方は私の十八番。

 そして私が二人に贈れるプレゼント。


 料理が並ぶ。普通においしい。

「すごくおいしいね。幸平くん、天才?」

「作り方と順番を守れば誰でも同じ味だよ…になるらしいよ。手順変えたり、素材が変わったらどうしたらいいか、さっぱり」

 私の99の発汗(冷や汗)と1のインスピレーション(がさつさ)は無駄なのだろうか?

 たぶん千紗さんの教えが孫弟子にきちんと伝わっているのだろう。


 誰に弟子入りすべきか難題に懊悩していると

「これ」

 と言って、彼が一皿の煮物を追加する。

 なにげに一口食べて思い出す。

(お母さんの煮物だ)

「驚いた?」


「食べて泣けるって幸せなのかな?」

 姉ぶらず弟に尋ねる。

「分かったら姉ちゃん教えてよ」

「エジプトの文献に残されてるか調べてみる」

 私らしくならこういう風に。


 窓の外に気配。そろそろだろうと思ってたら案の定。

「幸平、いや。こんなところで…私たちきょうだいなのよ」

「はあ?」

 また姉ちゃんの発作が始まったと弟は頭を抱える。私は声のプロだ。今のところファミリー向けしか経験ないけど。


「やだっ幸平ったら」


「なにやってんの!幸平!」


 飛び込んできた千種ちゃんに挨拶する。


「こんばんは、千種ちゃん」


「葉…さん?」

 嬉しそうに近づく千種。

「久しぶりね。今日は幸平にお嫁さんを世話しに来たんだ」

「「…………」」

 声の出せない二人。

(ごめんね、千種ちゃん)

 私らしく。

「千種ちゃんは知らないかな。美也子ちゃん」

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