怪しいよね?
今週に入って幸平の動きが怪しい。
昼になると学食に行くのだ。
普通でしょって?
わざわざあたしのお弁当を前夜に断って行くんだよ。
怪しいよね?
「千種、幸平くんを縛り過ぎ」
「そんなことないもん」
「男の付き合いだってあるでしょ」
「家から一緒で学校で隣の席で、ついでに部活まで一緒ならうちならストレス溜まるけどね。もし千種が幸平くんにべったり張り付かれたらどうか想像してごらん」
想像してみた。朝一緒にご飯を食べる。一緒に登校して、昼一緒にご飯。放課後一緒に部活して下校したら一緒に晩ご飯。ときどき幸平の家で入浴して別々の部屋で就寝することもある。あたしが自宅で寝るのは週に半分くらいだ。
「今と変わらないけど」
がっくりとヒメは頭を垂れた。
「じゃあさ、席替えあって幸平くんと離れたりしたらどう?」
想像してみた。寝てる幸平。寝てる幸平。寝てる幸平。
「今と変わんない」
「それはうちも思う」
「怪しいよね?」
「じゃあさ、千種が幸平くんを泳がせたらいいんじゃない?」
「幸平速いんだもん、追いつけないよ」
「なんのこと?幸平くん水泳経験者?」
あ…………。
「泳がせるって言うか、少し千種、幸平くんから離れてみたら?」
反省したあたしはヒメの意見を採用した。
学食から帰った幸平に
「ごめん、用事できたから今日は先に帰るね。晩ご飯ひとりでいい?」
と伝えると、幸平はどこか安心したように小声で
「ちょうど良かった。俺も今日用事で寄り道するし、晩飯用意しなくて大丈夫だよって言おうと思ってたんだ」
あれ?
「どういうこと?」
とヒメに視線で尋ねる。
驚いてるヒメも首を振るばかり。トイレでも行くのかまた幸平は教室を出ていった。
「「怪しい!!」」
今日初めてヒメと意見が一致した。
夜。
歩いて5秒の幸平宅を伺う。
「なにしてんだ?千種」
帰宅したお父さんを威嚇する。
「あっち行って」
幸平の家から笑い声が聞こえる。
うん?女性の声が混じっていたような。
もっと近くに行かねば。
「千種、今日よ…」
ダッシュする。
「あいつ落ち着きなくなったなあ」
そんなお父さんの声を聞いてる暇はなかった。
窓にへばりつくと長い髪の影。
真っ黒過ぎ、幸平。
あたしは静かに鍵を開けて、灯の点いた部屋に近づく。
途端に嬌声。
「やだっ幸平ったら」
あたしだってまだ抱かれてないのだ。
怒りで部屋に突入する。
「なにやってんの!幸平!」
見ると頭を抱える幸平と意地悪そうに笑む師匠。
「葉…さん?」




