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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第3章:ツガイ

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おかえりなさい

 万年ドラフト候補だった父は20代半ばでようやく下位指名された。打力が際立つわけではなく俊足好守のプロにありふれたスタイルが、その年のある球団の戦力構想にマッチした偶然だったようだ。指名直後に母の妊娠が分かり、二人はすぐに入籍した。父は羽田から早名へと変えたが、プロ入り後は旧姓の羽田のまま…しかも2年目に一太(ITTA)にさらに変えて首位打者と盗塁王を獲得したことでイメージは定着した。好不調ありながらいくつかの記録を残して、父はメジャーに挑戦することになる。姉は父のプロ1年目に生まれ、メジャー挑戦の年まで両親と暮らしたが、そこで日本に残った。小学校低学年の娘の選択が果たして誰によるものなのかは聞いてない。

 渡米後に俺は産まれた。母は西海岸の田舎町に住み、メジャーとマイナー、球団を移り続ける父をいつも応援していたそうだ。

 ずいぶんアメリカで粘った末に父は家族で帰国した。俺が小2のときのこと。その頃姉は既に大学生として俺たち家族から独立していた。両親が他界したのはわずかに4年後のこと。脇から一時不停止の車にぶつけられ少しだけ進路が変わった先に対向車のトラックが…と言うことらしい。

 通夜の日、俺は泣いた。母側の見舞いはなく、わずかに父の親戚がかけつけてくれただけだ。縁者と言えば和田家…父の妹一家のみ。姉も叔父さんたちも急な出来事を片付けるため…今になって思い返せば大人として当然なんだけど…二人に付き添ってくれないことが堪らなく悲しかった。亡くなった二人のことを思うよりも。

 泣きじゃくる俺をずっと抱きしめてくれていたのは近所の同級生…明日引っ越してしまう、折井若葉だった。

「こーちゃん」

 ことあるごとに呼びかけてくれてずっと側に寄り添ってくれた。そう言えば若葉は一度も泣かなかったな……無理を言って予定ぎりぎりまでいてくれたけど…。

 たぶん俺のためにずいぶんと我慢をしてくれたのだろう。別れ際で初めて大声で泣いた。


 長くて短い夢から覚めると、だいぶ大人びた若葉がいた。まだ夢の中なのだろうか。


「すぐに目を覚ましてくれてありがとう。おかえりなさい、こーちゃん」




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