千種の嫉妬
外交官デビューした俺は複雑な気分で教室に戻った。
あ、千種いるじゃん。
「大丈夫だったか?」
「今日は同じ中学の人だったからね。私の顔見てさ、またかみたいな顔してた」
千種にしたらほんとヒメさんに頼ってるな。
「決着ついたんだ」
「OKだったよ」
「え?」
「無事納得してもらってOKってこと」
「ああ、そっちの」
「千種がはっきり恋人がいるからって言ったことに驚いてたけど」
「なら噂になるかな」
「幸平くんも有名人デビューだね」
ニシシとヒメさんは笑った。
「幸平は?」
「後で話す」
「夫婦で秘め事かい?うらやましいねえ」
俺がたまたま優勝できたのなんか秘密にするほどのことなのか分からなくなってきたぞ。それほどに、入学三日目の告白は千種のモテ具合を証明していた。
放課後の帰り道。
「ゆなちゃん大丈夫だった?」
「圧力外交は後で歴史検証が必要だな」
「条件があったの?まさかゆなちゃんになんか迫ったんじゃ」
「逆。水泳部のコーチしてくれって」
「あれ、コーチいないの?」
俺と同じ発想な。
「決まるまでの代行でってさ」
「それなら協力してあげたら?」
「もう少し学校のこととか知ってから考えてみるか。橋本結構可愛いしな」
ピタッと歩みを止める千種。謡曲の姫くらい炎が立ち昇る。
「あたしも昨日知ったんだけどさ」
気が付かず呑気に返事をする。
「どした?」
「あたし、独占欲が強いみたい」
横を見て思わず1m後退りした。
「心頭滅却………」
「甲斐までいかないけど…………うまくコントロールできない」
優しく接してくれる面しか見てないから意外だった。
「晩飯さ」
「うん?」
「一緒につくろ」
「ご機嫌とり?」
「歴史の芥にするだけ」
「そんなの分かる高校生いるかなあ?」
今日は昨日より曇天の空。




