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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第12章:冬来たりなば

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夕焼け色のリボン

 車内ではほとんど太郎と俺が話していた。

「幸平さん、英語できるんですね」

「もともと生まれはアメリカで8才までいたんだ」

「どこに住んでたんですか?」


 父が所属したチームが変わる度に引っ越したから特に長かった土地の名をあげる。

「確かお父さんはプロ野球選手でしたよね」

 すると運転していたトーマスさんが

「そうなのか?名前は」

「羽田一太です」

「Itta…外野手の…足が速かった…」

「ご存知で?」

「半年だがチームメイトだったことがある。3Aで…そうか一太の」

 マリーさんにも数度会ったことがあると言う。


「あの時の子供が…そうか。縁があるものだな」

 どうやら俺が幼い頃にトーマスさんやマリーさんとも出会ってるのだ。

「まさか、あの子がねえ…」

 マリーさんは感慨深そうに俺を見た。


 千種は優しく俺の手を握る。


 畑に着いて車を降りるとそこはキイロバナの一群。時期は遅いため落葉し、来年に備えている。

「ガラスハウスでは通年で栽培してる。後で見ていくといい」


 それから一時間、栽培ハウスでヒメさんが用意してくれたレジュメをもとにいろんな質問をした。

 どうにか話が聞けた頃、マリーさんがお茶を持って現れた。

「終わったのかしら?」

「はい。ありがとうございます。どうにかまとまりそうです」

「どう?おなたはこのキイロバナ…好き?」

「実は半年前からここに住むようになったので、あまり思い入れはないんですよ」

「あなたはどう?」と千種に向かう。


「あたしは…ずっとここで育ちました。だからキイロバナはあって当たり前で…」

「ここでしか栽培できないなんて不思議な花よね」

 なにかに困ったように千種は髪のリボンを触る。

「初めて会った時から思ったんだけど、あなたのリボン…いい色ね。キイロバナの…色かしら」

「キイロバナの染料で染めたものと聞いています」


 トーマスさんが不意に話しかける。

「わずかなんだが変種らしいキイロバナがあって、そこから染料を作ったんだ。良かったらプレゼントさせてくれないか?」

 そんな貴重なものを、と辞退しようとしたんだけどトーマスさんは

「ずいぶん遅くなったが一太に渡してくれないか?太郎が生まれた時のお祝い返しがまだ…」


 それならば…仕方ない。太郎一家に両親の事故を伝え、母の姓を名乗っていることを話した。

「そうか…もう…」

 トーマスさんは沈黙。太郎も俯く。

 静寂の中マリーさんが千種に話しかける。

「リボンはこうへいさんから?」

「…はい」

「あなたはもう出会ってしまったのね」

「…え…」

「大好きなのよね」

「かけがえのない人です」

「それなら、私たち家族からのプレゼントよ」

 そう言ってマリーさんは、先ほどトーマスさんの言った「変種のキイロバナ」の染料で染めた…夕焼けのようにオレンジ気味の綺麗なリボンを千種に渡す。

「綺麗」

「あなたたちに祝福がありますように」


 千種はそれから俺の贈った黄色と、いただいた夕焼け色の2つのリボンを大切に使うようになった。


 さて、文化祭も体育祭もいよいよ来週だ。

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