千種邸の出会い
週末になった。夫婦でお出かけの日だ。
一応バスかなんかの交通手段を考えていたのだが、どこで話が回ったのかローゼ家の車で迎えに来ていただけることになった。
約束の時間通りに一家はやってきた。白のありふれた…いや汚れたワンボックスカー。
「愛車(軽トラ)に5人は乗れなくてな」
はじめましての挨拶のあと、トーマスさんはそんな風に笑った。あいにく行朝さんは不在で千紗さんが代わりにトーマス夫妻に会うために玄関にいた。千紗さんに会うためにトーマス、マリー、太郎家族がぞろぞろと中に。
「うっ」っとトーマスさん。
いつぞやの誰かと同じで、やっぱり義兄遊佐晶の等身大パネルに身を引く。
みんな驚く遊佐晶。
「驚かせてごめんなさい。家の人が大ファンで」
千紗さんが謝る。そして俺に話していいか?と目で問う。ついに千紗さんともアイコンタクトできるようになった。
「構わないですよ」
と、言葉で答える。
千紗さんは頷くと
「娘が幸平くんと正式に籍を入れたら…親戚になるんです」
トーマスさんは軽く笑う。
「今じゃ日本のスーパースターですね。どのようなご関係に?」
「俺の姉が晶さんと結婚していて」
ぽかんとしたトーマスさんと太郎。驚いたようだ。もしかしてこのネタ使える?
…いやなんにだよ、と自分に突っ込みつついると
「昔わたしが所属したチームに今いらっしゃいますよね」
と、衝撃?の言葉。太郎と違って紳士的な言葉遣いだ。
「その時はずいぶんご活躍でしたよね」
千紗さんはそんな風にトーマスさんを知っていた。太郎は…まだ俺と晶さんが兄弟の事実を消化できないようだ。
「妻のマリーです」
と家族を紹介。太郎も続く。
ずっとマリーさんは笑みを絶やさない。水泳関係者くらいしか知らないだろうが「微笑みのマリー」の異名もこの人にはある。
「千種が今度からお世話になるそうで。よろしくお願いします」
と千紗さんはマリーさんに頭を下げる。
千紗さんってほんと揺るがないよな。動揺しないって言うか。もしかしてとんでもなく器の大きい人なのか?
少々の世間話を交わし、それではと千種亭を発つことに。騒いではいないけど、音を聞きつけたのか前の家から(もはや姉の持ち家か大杉宅かも曖昧だ)光太郎が出てくる。遅れて橋本も。
…橋本?
「どうしたんだ?」
光太郎が問うと、太郎が
「なんか幸平先輩が家の仕事のことでインタビューなんだと」
と無造作に答える。
一方橋本は…フリーズしてた。マリーさんを見つけたからだ。
「あら、ゆなさん。お休みの日に会うなんて、今日はいい日ね」
橋本は…なんとか言葉を絞り出しつつ
「お友達の家にきてたんですよ」
と言い訳。
軽く微笑んだマリーさんは
「男女の友情は大事になさい」
と言葉を残し車に乗り込んだ。
橋本はただ頷いていた。
千紗さん政治家に向いてそう。




