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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第12章:

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212/216

元さんとコーチ

 翌週のことだ。

 月曜日に相原コーチはやって来た。

「ここで幸平は暮らしてるのか」

 愛車から降りて挨拶もそこそこに、コーチは辺りを見渡す。

「あんまり向こうと変わらないですよ」

「少しは暖かいのか?」

「たぶん寒いんじゃないですかね。まだ経験してないですけど」

「そうだな。こっちじゃ幸平が先輩だ」

 とコーチは変わらない笑顔で言う。


 大杉元さんの入院するここ…高良大学付属病院の駐車場で待ち合わせた。

「遠かったですか?」

 千種が挨拶代わりの質問をする。

「車ならまあドライブくらいに思ってたら着いたよ」

 と、苦にはならなかったようだ。


 元さんとはそう面識があるわけではない。今日美樹を誘ったんだけど、それなら千種を連れてってほしいと頼まれた。

 知る限り千種も元さんと親しいわけでもないのに…。

「光太郎が、幸平さんが母と会うなら奥さんが一緒の方が良いって」

 光太郎はすっかり俺たちを夫婦認定しているようだ。

「結局私は母にすぐ会うし、幸平くんは千種ちゃんといた方が私が安心できるから」

 んー…なんだかな。

 学校をサボる(令先生の非公式)許可をいただき、コーチと合流したわけだ。授業のノートは美樹に頼んだ。


 ・・・

「はじめまして。相原浩一(こういち)と申します」

 ベッドの上の元さんに対して、コーチは頭を下げた。

「あらあ、優しそうな方で」

 この時のこの言葉をしばらく忘れられそうにない。どこか神経を直接触られるような、脆くて不安になりそうな…適切な言葉をむりやり探すなら「無垢」だ。

 なぜだろう。この人を守るためなら身を惜しむのも厭わない…そんな感じを抱かせる響きを持っていた。


 そっか。美樹が無表情に近いのは溢れる自分の感情を無理に閉じ込めているからだろう。零すわけにはいけないものに蓋をして。自らの体を売ってまで助けようとしたのは、この無垢だからこそではないのか。

 母だから。

 あるいは個としてか。


 コーチと元さんの会話は淀みなく流れていく。

 気が合うと言うよりは、お互いに大人としてどういうスタンスで向き合うか…それを探り合ってるのかもしれない。


 しばらくの会話の後、どうやら元さんは大丈夫と判断したようだ。元さんだって急に降って湧いた今回のことに戸惑っているに違いない。自分に何ができるかをまだ輪郭すらつかめていないだろう。


「では実行者として私は動けばいいですね」

「そのように…ぜひ」

「都度確認をとらせていただきます」

 それくらいから俺と千種は病室を出て、近くにあるロビーのようなところに落ち着く。

 給与だとか生臭い話は聞かない方がいい。コーチはああ見えて法学部の出身だ。おかしなことにはならないだろう。


 しばらくしてコーチが俺たちを呼ぶ。

「それではこれからよろしくお願いします」

 と挨拶をして、一足先に出て行く。

 千種は柔らかく

「いかがでしたか?」

「ありがとう」

 と一言、元さんは言葉を漏らした。

「あなたたちは本当に家族の恩人ね」

「それと金髪の()。優しくていい娘だわ」

 どうやら橋本は病室に時々来ているらしい。


「これからも美樹と光太郎をよろしくお願いします」

 とベッドから頭を下げた。


 千種とは別の意味でこの人を守らなきゃいけない…そんな気がした。


 コーチはその後不動産や千種邸(アパート予定地)を俺たちと見て回った。

「何回か引っ越し前に来るよ」

 別れ際にコーチはそう言う。やらなければいけないことがたくさんあるんだそうだ。


 元さんは正確な数字に基づいてか不明だけど(かなり確実性がある根拠だとコーチは言った)、今のコーチが得ている収入の、倍の給与金額を伝えてきたそうだ。



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