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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第13章:新しき人々

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あなたのことはあたししか分からない

 放課後沢村に断ってからプールに向かう。

 千種に宣戦布告するためだ。


 千種に会いに行くとき以外、プール立入禁止とかふざけんなって…あれ…俺それ以外で行く用事あるか?

 橋本だって、みささんだって特に会う必要ないもんな。


 …あー、もしかして…俺やっちまった?

 なんか久しぶりに頭に血がのぼって、判断をミスってしまったような。


 さあて…。

「ん。いいよ」

 あっさりと千種は認めた。

 もう白旗を掲げて練習前の千種に説明する。なんとなく業腹だけど、こういうミスは早く訂正しないともっと惨事になりかねない。


「あたしも間違ってたし」

「だろ?」

 ギロって睨むのはやめて。シンプルに怖い。

「プールならあたしの目が届くしね」

「先生に断ってくる」


「あなた…ほんとは気になるんじゃないの?」

「だから他の人に目をやるつもりなんて…」

「そうじゃなくて。マリー先生に教わったらまだ伸びるタイムが気になるんじゃ?」


 そんなこと。

 気になってた…わけ…。

 北玲の高み。

 個の高み。

 知らない世界は諦めていた世界だったか?


 なあ千種。

「ん?」

 おまえは選手として喜びを感じたいとか思ったことないのか?つまり自分が当事者として、感情のたかまりだとか、爆発だとか。

「んー…たぶんない」

 そうか。お盆のとき晴さんと陸上で競っても、競技には関心ないって言ってたもんな。


「でもね、みんなが喜ぶ姿を見るのが好き。あなたが準決勝で最後の回に登板して、最後の人を打ち取ったとき、あたし泣けて仕方なかった」

 あのときか。

「あたしの旦那だ…って気持ちは…もちろんあったけど、グラウンドのみんなも、応援してるみんなのことも嬉しかったり満足できたり」


 千種は心優しい女だった。


「それとね、最後の回のとき沢村くんマウンドにいたでしょ?」

 あーいたな。

「何を話したの?」

 いや大した話はしてねーぞ。

「でも、ライトに走っていく沢村くんに『ありがとな』って言ってたよね」

 声に出したっけな?つーかあの距離でおまえだけに聞こえるわけが…。


 不思議な話だが、千種なら聞こえても不思議でもないような気がする。

 なんなんだろうな、この感覚。


「あなたのことはあたししか分からない」

 他の人なら傲慢に聞こえるぞ、その言葉。俺は理解できるけど。

「それでいいでしょ?」

 …まあ、そうだな。


「あたしは嫁」

「俺は…旦那か…」

「なにか不都合ある?」


 否定する気は全然ないし、他の誰かが千種に代わるわけでもない。

 千種は俺の右腕を抱き、なんだか俺は久しぶりの安心感に包まれる。


「それにしても先生になんて言おう」

「野球と水泳で最強の助っ人目指しますって言ったら?」

 ああ。それが望んだ答えなのかもしれない。

初の夫婦喧嘩の幕切れです。この章最終話とさせていただきます。

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