出入禁止令
翌朝、どうしてだろう…プール出入禁止令が千種から発された。
あまりの横暴さに抗議したい。
千種に会えないじゃないか。
「その時は入れてあげる」
どうしてそんなに?
「あなたいろんな女の子と関係もちすぎ」
すっごく納得いかないんですけど。
「そんなに言うなら、あたしとした次の日ならいいわ」
高校生男子の底力をみくびるなよ。
「じゃあずっとダメ」
昼休み、昨日の返事をしがてら体育準備室を訪れる。ついでに千種の暴挙を訴えたい。
「先生聞いてく……」
「あらあ、早名くんじゃない!」
なんだ?とんでもなく上機嫌の先生。ずいぶん昨日とは違って弾むような感じだ。
これは…依田さんがこっちに来ることになったからに違いない。良かったなと、
「依田さん、いつ来るんですか?」
「来週よ」
もうシーズンオフだもんな。依田さんは夏以降セットアッパーを務め、リーグ優勝に貢献した。防御率は1点台、時にストッパーすらこなして、球速を150km台にのせていた。惜しくも日本一は逃したが強気な剛腕として、あらたなファンを獲得している。ちなみに義兄、晶さんは途中不運な離脱はあったものの、首位打者、打点王の2冠に輝いた。
「いつまでこちらに?」
「自主トレを始めるお正月明けくらいまでかしら」
おそらく先発と中継ぎでは疲労の仕方も違うだろう。こっちは山国だから温泉も数多い。いい休養になればいいなと思う。
「薫さんに教えていただいていて良かったわ」
…ああ、大前監督への紹介?はそのお礼とでも言うべきものなのかもしれない。
「大前さん、頭いいのね」
と、姉と同じ出身大学をあげる。へえ、あそこからプロに。
「今は本職がリハビリの医者なんだそうね」
確かそんなことを言っていたような…。有給へのこだわりとどう関係するかは知らないけど。
「夫に紹介するつもりなの」
監督は元プロだ。良い相乗効果があるかも。
「ところで昨日の件ですが…」
先生は浮かれた調子から改め、真剣になる。
「突然にごめんなさいね。ほんと無理しなくて…」
それがですね、と訪問の核心に入る。
実はですね、千種に出入禁止を言い渡されまして…。
「なにそれ」とたまらず先生は笑う。
それがどうやら本気みたいで。
「どうしてそんなことに?」
北玲を信じるからこそ、最近あったことを隠さずに話す。
「私は個々人のプライバシーを管理するのは反対なのよねえ…」
つまり不介入と?
「そこまで徹底的ではないけど…恋は叶っても破れても、意味のないことではない、うーん…そう思うんだけどな」
さすが純愛マスターです。
「やだ、うまいこと言ってぇ」
それでですね、俺もプールに入る名分を持とうかと。
「へえ…どうするつもり?」
やだなあ。先生が昨日提案してくれたじゃないですか、男子チームが発足するから手伝ってって。
「え?じゃあ」
参加させてください、男子チーム。嫁に目にもの見せてくれようぞ。
「喧嘩したわけじゃあるまいし。まあでも意見をぶつけなきゃ成長の余地は少ないわよ」
北玲は教育者、だ。
ということで、千種に内緒で参加が決まる。あくまで水泳教室の男子チーム助っ人として。
なんか野球部と似た境遇だけど、まっ気のせいだ。
仲の良い二人でもそれぞれの世界がある方が健全だと思います。




