児島みさのルール
一緒に生まれたんだもの、絶対に離さない。
いつからかあたしはさゆりをそんな風に思うようになっていた。
水泳の成績こそあたしは他人に自慢したいことだったけど、さゆりはあたしだ。他人なんかじゃ絶対にない。
だから、中学三年で転校すると親に打ち明けられた時、迷わず一緒に行くことを選んだ。水泳よりさゆりがいない方がこの世の法則に反する…摂理だと思う。惜しむ人には冗談めかして答えた。
「水泳だけをするために生まれたんじゃないもの」
高校入学して一年が経ち室内プールができた。弟たちは野球が大好きなようで、手がかからなくなった。同時にあたしは生徒会から誘われて少しならと返事をしたら、結果副会長などと言う面倒なものを押し付けられた。
水泳の片手間でよければ、と承諾してはみたもののやはり休んで生徒会のことをしなければいけないこともよくあった。
結菜と一緒にいることが多い少年、幸平くんが今年の日本選手権の優勝者だと知ったのは偶然。
それからはなんとはなしに彼が気にかかって、気づかれないように観察した。
…本当に彼は千種ちゃんにべた惚れなのがよく分かる。
周りは千種ちゃんを女神様などと理解できない形容をするけれど、あたしからはべらぼうに綺麗なだけで、恋をする下級生の女の子…としか見えない。
そして。彼の優しさがほしくなっていることに気付いてしまった。
ないものねだり…なんだろうか。あたしはまだ成長中で、自分の心が説明できない。これが恋なのか、それとも別の名前を付けられるのか、きちんと自分に向き合うことにした。
受験は来年。だから進級までの数ヶ月、三学期で生徒会の役員も終わるから、その間だけ全力で彼に対してみよう。
結果は端から分かりきっている。
だけど今しなければもう経験できることはないかもしれない。
こういうの横恋慕って言うんだっけ?
とにかく、さゆりは速くなった。美樹に迫る勢いだ。そしてりくは最内で甲子園へ(偶然か幸平くんもいる)、くんは(これもなぜか彼が絡んで)志望校を高高に変えた。あたしたち家族は変わっていく。
思い出作り、と言ったらあたし以外のすべての人に失礼だろう。
あたしはあたしの真ん中にいる。
あたしの中のルールで生きていく。
だから…。
幸平くんと(千種ちゃんが一緒だったのはフェアプレーの精神だ)、校舎裏に行く時に。
あたしは彼の左腕を掴んだ。
千種ちゃん、あなたの居場所は奪わないから。
書いていて思ったのですが、千種ちゃんの最大のライバルはみささんですね。




