強美人
衝撃の告白ってほどではないだろう。
だけど確かに監督の言う通り、微妙な縁と言えばそうなのかも知れない。
あの年…春夏と甲子園で優勝したチームの中心選手、遊佐晶と依田日向は間違いなくドラフトの目玉であった。
全球団OKの姿勢を見せた遊佐晶に対し、依田日向はある条件を出したのである。
投手としてまず自分を評価する球団に入る…打者としても卓越した才能を持ってるがゆえ、明らかに球速が落ちる投手としては、打者より低い評価にならざるを得ない。
依田日向は投手にこだわる姿勢にこだわった。
…と言うのが姉から聞いた当時の状況である。今から8年も前のことだからね。
依田日向が今年夏にモデルチェンジした理由…は語られたことがない。同時に結婚したので、もしかしたら玲先生が関係あるのかもしれない。
それは二人だけの…。
そんなことを思っていると、監督から
「早名?どうした?」
と声がかかり我に返る。
「あーすみません。いただいたお話が大きくて思わず…」
まさか自分のこととは思っていないだろう玲先生は
「そうね。相談したい人もいるでしょうし。急がなくていいわ。でもできたら…」
正直答えは決まっている。この場で答えても二人には差し支えないだろう。だが…。
「お似合いの奥さんがいるんですよ、早名くん」
ちょ、先生。
「はあ?早名…おまえまだ16だろ?」
監督は千種のことをはっきりとは知らない。だからかなり驚いている。
「もちろん、まだ籍とか…のお話ではないですけど。なんて言うか…夫婦だなって感想しか出ないんですよ」
「なんだかなあ…高校生の分際で…俺だってまだ…」
仕方ない、慰めよう。
「こればっかりは縁ですから」
「煽ってるようにしか聞こえないわよ、早名くん」
「思い出したが羽田のかみさん、とびっきりの美女だって噂だったな」
監督は俺の顔を眺めつつ、深くため息を吐く。
ふと、玲先生がなにかを思いついたように監督に向かう。
「同年代の方で子供さんがいらしても良いですか?」
「あ?なんだ、誰か紹介でもしてくれるってーの?」
「少し気丈な方で料理はプロ級…プロなのですかね…はっきりとした京美人が知り合いにいるんですが」
「言っとくが俺はばつなしのこの年まで独身だぞ」
あれ、監督その気になっちゃいました?
「男一人で40超えるとなあ…寂しいもんだぞ」
ちょっと想像できないけど、そんなものなのかな。
先生の提案はなんとなく監督のボヤキで腰砕けのまま終わった。
たぶん、橋本家の核弾頭、薫さんを紹介しようとしている。最近料理で絞られている腹いせ?
天下の北玲がそんな小さなことで企まないだろう。
薫さんは強美人である。




