新人獲得
「光太郎の野球仲間…なんだな」
「転校してきたのが野球部の最終戦のあとでしたからね、強いて言うならキャッチボール仲間ですか」
「よく光太郎が野球すごいって見つけたな」
「俺らが遊びでやってるの見てたから、やるか?って…流れですかね」
流暢に喋るくん君。最内校で俺と同い年の兄貴は割と無口で、どちらかと言うと…なんだろうな、職人肌とでも言うようなタイプだ。それに対してくん君は、そう、みささんみたいに喋る方だ。ただし、みささんもそうだが字面通りには…あるいは額面通りには受け取らない方がいいかも知れない。
「連合チームの…早名さんですよね?」
「うん、そうだけど」
おおっと他の二人と揃って声をあげる。
なんだ?
「俺ら見に行ったんですよ、準決勝」
一条弟が言う。
「コントロールえげつないっすね」
菅弟。
「な?すごいだろ?」
と、光太郎。続けて
「体が小さいのにあのスピードとコントロール。打撃も地区大会通して5割。おまけにあの守備。ついでに…」
と隣に座ってきょとんとしている千種を見て
「こんな綺麗な奥さん」
ちょっと待て!
光太郎、おまえそんなキャラだっけ?
これじゃまるで…
「なによ?」
唐揚げを皿に盛り付けて運んできた橋本が不満そうにこっちを見る。
そうだ!橋本みたいじゃないか。
あ…美樹が言ってた「なんか光太郎が誰かと内緒でメッセージのやりとりしてる」って…。
何かがつながる。
おいおい、嘘だろ。同じ部員の弟を…。
……まあ自由か。
「高良校に行くとこんな綺麗な人が彼女になってくれるんですか?」
千種…なんで俺の右腕に巻き付いてるのかな?
なぜか沢村の顔がちらついて…。
「頑張り次第だな」
と、いたいけな少年たちをその気にさせる俺。
「まじっすか」
と、受け取る一条弟(後に分かるが綾人)と菅(同じく陽凪)。くんは…あー笑顔だけど、みささんだ、うん、みささん。
「二人は分からないけど、くん君、捕手か?」
「あーよく分かりましたね」
こいつは田所、袋井とは別のタイプの捕手、いわゆる食わせもの、だ。
「小さい頃、みささんにべったりだったろ?」
「分かりますか。りく兄はさゆ姉でしたけど」
分かりやすすぎるだろ。千種が下を向いて笑いを堪えている。
あれ?光太郎…はいつの間にか橋本と仲良く唐揚げを摘んでいる。
光太郎…胃袋掴まれちまったか。
意外とお似合いの風景ではある。
「早名さん、まだ野球続けるんですか?」
「とりあえずセンバツは出ろって各方面からやかましくてさ」
主に行朝さんだけど。それと…義兄晶さんからも姉経由でメッセージをもらったばかりだ。
センバツ頑張れ…と。
「おまえらどうする?」
突然、くん君が仲間に問う。
「高高に行くしかないだろ」
「ああ」
いや、みんな最内に兄貴いるんじゃ。
「別にどっちも学費同じだし、学力も変わらないっす」
と一条綾人。
「それなら光太郎や橋本さんに…」
橋本?
「銀髪の」
ああ、妹の由麻さんの方ね。
光太郎が付け加える。
「六条さん、幸平さんの妹分らしいぞ」
えっ!と二人が正座する。
「あの」
「六条さんの…」
美也子は学校でどんな扱いされてるんだか。
「ちなみに幸平さんの奥さんは、六条さんのあこがれの人らしい」
「ええっ」
あらまあ…ついにくん君まで正座した。
「絶対に」
「高高に」
「「「行きます」」」
沢村ぁ…新人ゲットだぜ。俺は何もしてないけどな。
いよいよ200話!




