最初に持つべきもの
今話は挿話ですので軽く読み飛ばしてください。
翌日からマリーはやって来た。しかもなかよし水泳会だけでなく、週一の昼(通称スケベジイコース)と夕方に不定期に開催される体験コース(通称ダイエットコース)に、週一昼(通称浮気人妻コース)もすべて見ると言う。
『名前はなんとかならなかったの?』
マリーの呆れたような感想に、玲はその身体を縮こませる。
(私が関わる前からなぜか付いてたし、そもそもこっちは何も関わってないのに…)
命名は千種なのだが、もう誰も覚えているはずがない。
『せっかくこんないいプールなのに…』
マリーはため息を吐く。
『管理はどこで?』
『最高市の管理と聞いていますが』
『行政なのね』
『たまたま高校に設置されましたが、市の箱物なんです』
『週に1回ずつの、時間に余裕ある者へのコースが二つ、不定期の体験…月イチとして、余りにも少ないかしら』
『もちろんチームとしては毎日…』
『等しく恩恵を受けるのはみんな同じよ』
『と申しますと』
『熱意のある市の職員を知らないかしら?』
『あいにくと知り合いは…』
『なら高校の関係者に市との橋渡しをお願いできる方は?』
『おそらくは校長先生かと』
『ああ、代理の』
『あなたの熱意を地元に返しなさい』
『どのように…でしょうか』
『この国のトップ選手が数名いて、有望な選手もいる。だけど女子だけ』
『はあ…』
『さくらの妹、由麻さんだったかしら。それと美人の子の他にチームに所属、あるいは進学予定の選手は?』
『詳しくは聞いておりませんが、進学は他にもあるかもしれないとだけ。チームには予定ありません』
『なるほど…』
『最年少の二人だけで終わりなのかしら?あなたはその後もチームを継続する意思を持っている?』
『できれば長くありたいと思います』
『つまり…この町を水泳の町にすることでしょう』
『できるでしょうか』
『最初に持つべきは、意思よ』
この後、マリーは泉田と面会し、市への働きかけを始める。やがて管理事務所が置かれ、複数の責任を持つ職員、指導者が招かれる(もちろんマリーが筆頭ではあるが)。動き始めた水流は留まらず、大きなうねりとなるのだが、マリーの生涯をかける事業に成長していくのはまた違う時間軸で語られることになるだろう。
今の段階では二人ともまだ意思しかなかった。
気になっていた権利関係を整理しました。どこかに水泳の町、あったらいいな。




