超鬼、真鬼
『驚くようなお話ね』
『いずれは…と言うことでしょう』
『学校を私物化すると言う批判が付きまとわないかしら』
『校長をオープンで求める限りは起こり得るでしょう』
『校長はとにかく…教育者を必要とするなら私は行動するわ』
『変わらずにいらっしゃることが本当に…』
私の支えであり誇りです、と玲は断言した。
『まずはこの地の塩に』
『私にはまだ覚悟がありませんが、引退を意識する年齢になりました』
『あなたはここで?』
『夫が…ここの出身なんです』
『そう。それでチームを立ち上げたのね』
『いつまでもチームは仲良くあってほしくて「なかよし水泳会」と名付けました』
『苦しいの?』
『私は未熟です。できましたら、先生にお力添えを』
『あなたは教え子でも特に優秀だった。東洋だと…縁?かしら。ここであなたと共にあることは神の予定にあるのかもしれない』
『日本は八百万ですよ』
『一人くらい混じっても害意がなければ…入れてもらえないかしら』
難しい話は分からないと玲は首を振る。
『いいわ』
マリーの一言を持って再び師弟となる。
玲よりも数段厳しい教育者が誕生する契機となったのは、変哲もない秋深い夕暮れだった。
・・・
「みなさんに紹介します。一昨年のオリンピックで優勝したアメリカのメンバーのお一人、マリー・スティーブンスさんです」
競泳をする以上、必要ないくらいの肩書。
ほえーと選手全員が虚脱したようにマリーを見る。さくらはある種の予感がするのだろう、結菜の手を握りしめている。
「私は至らないところが多くみなさんにご迷惑をおかけしました。ご縁がありスティーブンス先生に」
「マリーでいいわ」
「…マリー先生に私も含めてご指導いただきたいと考えています」
やはりかと脱力して結菜にもたれかかるさくら。
慌てて結菜は手を添える。
「みなさんは私の自慢の生徒、玲の教え子です。幸運なことを喜びましょう。そしてまた私もみなさんに会えて幸運です。私はみなさんと共に進めていけたらと思います」
流暢な言葉でマリーは自己紹介を終えた。
「優しそうな方だよ」
意気消沈したさくらを気遣い、結菜はそう言う。
変わりつつある結菜の姿だった。
「玲先生が鬼なら、マリーは超鬼、真鬼なんだよ」
年齢順にさくらから…なにかを悟ったのか、さくらはシンプルに名前のみをマリーに告げた。
マリーの瞳はその姿を映し、次々と自己を述べるメンバーを眺めた。
最後に千種。
「マネージャーなどの用事をこなしています、早名千種です。よろしくお願いします」
ふーむ、とマリー。ここで初めて口を開く。
「年齢は?」
「15歳…三月に16になります」
「相応のような…私よりもよっぽど…」
「なにか?」
「あなたに、私よりも年上のようだ…と言ったらこの国では失礼になるのかしら」
「…言われたことがありませんので、あたしからは」
マリーは笑みを浮かべ
「そうね。選手でない方にそれ以上は不要ね。ごめんなさい」
マリーは玲に向き直り
「気に入ったわ。個人の目標はみなさんで違うでしょうけど、望む方は一緒に世界一を目指しましょう」
ええっと結菜。そしてさくらが小声で教える。
「そのためのメニューが組めちゃうの。違う世界に行きたければたぶん適任…でもね」
「絶対苦しいわよ、それ」
あくまで母のため帰国したさくらさん。




