派遣栄養管理士
「橋本、お母さん管理栄養士の資格持ってる?」
菓子パンを急いで頬張りながら自分の机から橋本に質問をする。
「えー?聞かないと分からないよ」
「頼みたいことがあるんだ」
ガサガサと荷物の中から携帯を取り出す。
メッセージの着信でもあったのか、素早く確認すると目尻を下げる。珍しい表情をしてる。
女子高生らしい速さで打ち込んでから、
「今から聞いてみる」
と言う。あれ、今の違う人へか。
詮索するのも悪いので、千種に目をやろうとすると、美樹が
「最近私に内緒で誰かとやりとりしてるみたいなんだ」
ん?光太郎のこと?
「うん。男の子だと思うだけど」
三馬鹿の誰かじゃね?
「そうかなあ」
午後のひとつめの授業のあと、橋本が答えてきた。
「持ってるって」
やっぱりか。ちなみに他には?
「なんかたくさん書いてある。フードコーディネーターとかほら」
そう言って画面を見せてくれた
あーいっぱい書いてある。
「それ写していい?」
「いいけどどうするの?」
先生とか美也子とか、美樹とか。なかよし水泳会の料理できな…栄養管理が足りないように見えるからさ。
「お母さんがレシピとかを考えるのはいいけど…誰が作るの?」
そりゃ本人たち…ができないからだな、うん。誰だろう?
千種…あ、横向いた。忙しくて千紗さんと並んで作ってるのしばらく見てないな。だいたい今日も…。
「あたしが美樹ん家で作ろうか?」
えっと驚く美樹。
「光太郎くんだっているし、元さんの退院もう少し先でしょ?」
「でも悪い…」
「狭いアパート二部屋に女4人よ?まだ美樹の家の方が寛げるわ」
もっともだ。それに千種や幸平くんに勉強も教えてもらえるし(前の家だしね)、と橋本は続け
「美樹はアルバイトだってあるじゃないの」
と、プール監視のことをあげた。
他家の経済事情をとやかく言うのは不謹慎とも言えるが、すでに様々なことを千紗さんを含めて話し合っている。いまさら、だ。
名案な気がしてきた。
先生のところは?
「お母さんを派遣するよ」
こちらも、年下の橋本結菜だと先生も気まずいだろう。まだ薫さんの方が気兼ねないような気がする。美也子は…正直どう反応するか分からないが。
千種を見ると、うんと縦に首を振る。
どうやら問題ないようだ。
「橋本…見直したぞ」
「どういう目で見てたの?」
以前よりずっと柔らかい顔で橋本は笑う。
誰も見ていないが千種は苦笑していた。
そして橋本は…実に黒い笑いをしていた。
菓子パンうめー。
堂々と光太郎くんを攻略にかかる結菜ちゃん。




