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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第12章:幸平くんの一日

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あんまりですよ

 俺一人教員室を訪れると体育準備室だと言う。

 まあ一人の方が説明しやすいかと訪問先を変え、そちらに向かった。


 ドアをノックし、返事を頼りに開けると買い置きのパンに手をつけず、考えごとをしていたようだ。

「どうしたの?早名くん」

「ご報告と言うか…大杉元さんからスタッフの連絡はありませんでしたか?」

「いただいているけど?」

「でしたら…そのスタッフなんですけど、俺の…僕の恩師なんです」

「意外ね。あなた経験者だったの?」

 そう言えば話してなかったような…。


「三月まで僕は和田幸平と言う名前で…」

「和田ってこの間美也子さんが行ったお家の名前と同じ…もしかしてあなた大杉さんと同じ」

 気がついたようだ。気恥ずかしいので遮るように自分から

「今年の50メートルで優勝しちゃったんですよ」


「失礼しまーす」

 と、このタイミングで太閤さんとヒメさんが入ってきた。

 最悪…か?中途半端な言い訳はこの二人に通用しないだろう。むしろバラしてしまうか。


「なんだい、なんだい、何の話?」

「あー…水泳教室に俺の昔の先生を紹介してるんだ」

「幸平くん、経験者なのかい?確かに結菜も美樹も一目置いてるけど」

「それなんだけど…」

 さて言うかと一呼吸置く前に、

「ほら、ヒメ。きちんと謝れ」

 太閤さんがヒメさんに謝罪を促した。彼がこんな強い言い方をすることあるんだ。


「先生、ごめんなさい」

 呆気に取られていた先生は慌てて

「こちらこそ。練習中は言葉を選ぶ余裕がなくて申し訳なかったわ」

 と謝り返した。この辺素直と言うか、人間ができていると言うか。


「こいつ、たまに人を傷つけることを言うことがあっていつも注意してるんですが…」

 うーん、違和感。


「取り引きしよう。秀吉」

「僕とかい?なにを?」

「俺は今年水泳の短距離日本一になった。上の20人くらいがごっそりいなくて棚ぼた優勝だけど」


 二人は…特にヒメさんは驚いて動けなくなっている。

「調べてみると良いよ。ちなみに三月まで()()幸平って名前だった」

「名前も変わったのかい…。いろいろと…」

「おかしな憶測を周りに言うなよ、ヒメ。無神経なおまえだって今の幸平の言い方がデリケートだって分かるよな?」

「あー…そうだよね…」


「取り引き、か。おまえにとって大事なことを話してくれたんだろ?早名さんが話していたら俺にも伝わってきてるだろうし。許婚だ」

「それで仲がいい以上の関係に見えるわけか」

「普段からそんな風に見えるか?」

「初めて見たよ。だからその説明に納得できる」


 じっと俺を見つめた太閤さんは

「あんまりちゃんと話したことなかったけど、手強いな。さすが『女神様』の旦那だ」

 と笑った。

 恥ずかしそうにしているヒメさんを横に、今は文化祭とかの担当委員になったことの報告に来ただけと太閤さんは言った。

 先生は横から口を挟むこともなく聞いていたけど、放課後までにまた私から連絡する、と一旦二人の用事を終わらせた。

 つまり…このあとは俺と用事があるから退出してほしいと望んだことになる。

 心得たように太閤さんは「また話をしようぜ」と言葉を残して、準備室を去った。


「あなたたちずいぶん大人びたやりとりするのね」

 と先生は嘆息する。

「僕も田中とこんなやりとりは初めてですよ」

「笑えない冗談が好きなだけじゃなかったのね」


 あんまりですよ。先生。

秀吉くんはヒメさんが大好き。

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