終盤
7回の表。三番からだ。
いい当たりと申告敬遠。まだ勝負らしいことはしてないけど。
「ピッチャー田所くん。キャッチャー袋井くん。セカンド早名くん」
アナウンスが響く。
今日一番の歓声。と言うかどよめきだな。
球の速さだけなら田所か俺か。本職キャッチャーだけあってコントロールなら、上投げの俺より正確だ。川上と田所がキャッチボールしていたが、田所の方だったか。
いつだったか沢村が冗談で、
「どうせ本職のピッチャーがいないなら一イニングずつ全員でどうか」と提案したことがあり、巡り巡って今実現したわけだ。
まっストレートだけしか投げれないのは俺たちだけの秘密だ。
「ベースで分けるか、早名」
児島が話しかけてきた。守備範囲の確認だ。
「分かった」
それだけを返す。
3番に早速ライト前へはじき返される。正直プロ向きなのはこっちだろう。
続いて4番も強い当たりのセンター前。
を、俺がダイビングで止めてグラブトス。
やや高かったが、さすが児島。うまくさばいてダブルプレーの完成。
あー、千種が立ち上がって右腕を上げたな。隣は行朝さんか。初めて千種に気がついた。
俺も右腕を触る。
5番の深いショートゴロを児島は強肩でアウトにした。うまい選手だ。
8回は互いに走者を出しながら無得点。
最終回は…川上かと思うと、やつはファーストへ。菅かと見ればセカンドへ。
「ピッチャー早名くん」
またか。こういうの最後は沢村とか東原だろ。
「夏のバッピのご褒美だ」
ライトに向かわずマウンド付近に残っていた沢村が言う。
「えらい贈り物だな」
「とっとと終わろうぜ。腹が減った」
「全部沢村の方に打たせるわ」
「頼むぞ」
笑ってライトに全力疾走していった。
相手は3安打の一番から。
田所は上投げのゼスチャー。
俺はストレートと、まだ投げていなかったフォークボールを交え、3人を打ち取った。
憮然とした4番の姿が印象に残っている。
ベンチではずっと声を出し鼓舞し続けた折井若葉が号泣していた。
・・・
宿で迎えた夜。
全体のミーティングだ。
「明日は9点差以内で負けろよ。あんまり大差だと選考委員の印象が悪い」
監督はまた身も蓋もないことを言う。
「特に東原と沢村。キャプテン二人を温存したのは明日のためだからな」
キャプテン二人…のあたり連合チームなのを思い出す。なんかもうワンチームの気持ちなんだけどな。
「よくここまで来た。明日はご褒美だ。先発も打順も守備位置も話し合って好きにしろ」
なんか今日聞いたような。
俺たちは話し合い、折井監督に一任することにした。
翌日。俺たちは5対1で予定通り敗戦した。予想外に点差が広がらなかったのは、その日限りの監督の采配が良かったから…だと俺たちは思っている。
第11章の最終話です。




