中盤
4回。
「同じところ?」
田所は初回に打たれたところをまた要求してきた。意図が読めない。案の定…。
またライト前ヒット。焼き直しのようだ。
と、ここでタイム。交代か?確かに相手の打順が一回りしたし…。
「ファースト菅くん」
山形から菅か?
…このタイミングってことは…。袋井を見る。軽く右腕を振る。
なるほど。
二番がまた送る構え。やはりロースコア対決と読んだらしい。またワンナウトをもらう。ただし今度は厳しいコース。だがうまく転がされた。
勝負どころだ。
申告敬遠を田所は選択。実は想定していたことだ。
4番はやや紅潮した雰囲気。そりゃ塁を埋めるためじゃないのに自分勝負されたらな。
さあ、ここだ。
当然ファーストランナーはスチールをしてくる。チーム一の俊足はデータに入っていた。
4番は先ほどよりやや後ろに構え、オープン気味。
ファースト、サードはベース近くに移動しラインを締めて長打を防ぐシフト…からのクイックターン牽制。
ちょっとしたトリックプレーだった。
大前監督が事前に準備しており、そのために山形から菅への交代。仕掛けるぞと全員に知らせたのだった。
万が一がはまってランナーは牽制死。
その後は田所の要求通りで内野ゴロに打ち取った。
ベンチに帰ると山形が「ナイスプレー」と大きな声。たいしたやつだ。
その裏。一番からで突如動きが変わる。一球ごとにセーフティの構え。一、二番とスリーバント失敗に終わったが三番の児島が絶妙にライン際に決め、初めてのヒット、ランナーとなった。四番は
レフト東原。三つ振ったが文字通りの三振。
ここまで予定通りだ。
5回の表を3人で切り抜けた。
勝負の5番黄田からだ。
なんとなく嫌な感じをバッテリーは受けたのだろう。フルカウントとして決め球に得意のカーブ。
しかもゾーン勝負だ。
ピッチャーの腕の振りから予測して、黄田は右中間を割り三塁に到達した。
どうする?監督も袋井も動かない。
仕方ない。なんとか転がすか…とセーフティのサインが投手のモーションより少しだけ早く出た。
…んな、無茶な。
雰囲気からスクイズはないだろうとアウトローにストレート。仕方ない、三塁前へ。
黄田はほんの少しサードを牽制して帰塁。俺もセーフになった。
アウトカウントこそ違え、表と同じシチュエーション。投手の癖はまだ分からない。
沢村の、今度はあからさまなスクイズの構えから警戒したバッテリーはカウントを悪くし、結局四球を与えた。
残った宝くじは1枚。
圧力を感じたのか、魅入られたようにストレートは田所の一番のスポット、真ん中低めに入り…。
打球はフェンスを越えた。
やはり山形は大きな声を次の菅に送っていた。
試合は4対0となったが、投手戦に戻る。
6回を終え、俺の球数は80を数えた。




