序盤
軽く一二塁間を破られた。
先頭打者にライト前ヒット。厳しいコースでもなんなくはじき返される。
次は…送りバントの構え。
手堅いな…と思う。
だけどワンナウトくれるのか。ありがたい。
ならどうぞとばかり、やや甘めのコースに投げる。成功。お互いに思惑通りに進む。
三番の鋭い打球はセカンド頭上へ。ジャンプ一番、一条は捕球後セカンドに送球してダブルプレーが成立した。
裏は一番から。軽く一息。
三者三振。一息だけかよ。
「バッピより楽だろ?」
田所の言葉に頷く。休む暇あるもんな。
2回はプロ注目の4番だ。田所はとりあえず打ち合わせ通りの要求。インコースに速いスライダーだとさ。間違えても当てるほどコントロールは悪くないつもりだ。曲がり過ぎて甘くなる方が怖い。
「え?」
あの球ごときで後ろに倒れるか?
かなり頭に血が上ったのか、2球目のシンカーを引っかけてサードゴロ。
続く5、6番も内野ゴロに仕留めてベンチへ。
「危なかったか?」
「いや。前の試合で当てられたらしい」
「知らんがな」
「今日のおまえのキレは最高だよ。他はともかく、あの4番は今日はもうダメだろうな」
「そんなにうまくいくか?」
田所はニヤリと笑い言う。
「任せな」
裏の攻撃。
4番三振。連続だ。次の黄田は…三つ空振り。
すれ違うときに黄田は囁く。
「穴だらけだ」
じゃあなにか、布石かよ。
ならばと、わざと大振り二つ。確かに変化球で腕が緩むのな。流行に乗りたい俺は三つ目も振り抜いた。下手にファールして、手が痺れたままマウンドに行くのは嫌だった。
「黄田もおまえもどうした?」
沢村が心配してきた。
「次の打席三つ振ってみたら分かるさ」
3回。7番にまたインコースのスライダーから入る。ビクッとしたけど見送られた。
まっ今のが普通の反応だよな。同じコースのシンカーをファールされたあと、アウトローへギリギリ。
良かった、あそこ取る審判か。もし安定した審判ならロースコアになりそうだった。ならばと8、9番をアウトローを意識させてのインコース勝負。内野ゴロを二つ積み上げる。
裏は沢村が流行に乗り三振。田所が打席に入るころ、黄田が戻った沢村に尋ねる。
「どうだった?」
「チャンスはもらえそうだ。1回あるか…ないかだろうな」
わずかな間に宝くじ2枚は三振していた。
そろそろスタンドがざわめきだす。
こちらのアウトがすべて三振だからだ。おまけにパーフェクト。
その方が楽でいい。
序盤は静かな…そしてあっちが圧倒的な始まりだった。




