幸平くんでいい?
羽生ならぬ早名睨みから呪縛の解けた橋本が、やっと生来に戻ってきたのか、
「二人とも早名ってほんとに嫁?なんか可愛い」
と千種に目をやる。
「まだ一方的なんだけど…その…」
「なにこの可愛い生き物。持って帰っていい?」
「ダメ。俺のだ」
「「えーっ」」
全然違う意味なのにハモるのかよ。
「やだ、持って帰って潮吹かすの」
「えっ⁉」
さらっと聞き間違えたかな。
「たぶん遠縁の親戚、でご近所で、あとは」
「嫁」
あーもうめんどくさいからね。
「たぶん嫁、だ」
「セフレじゃ仕方ないよね」
「たぶん最低な理解したな、橋本」
「でも夫婦なら運命だから離れられないけど浮気は本気じゃないからいいよね。ね、千種ちゃん」
あれ?なぜ千種にウィンクする、橋本よ。
冷や汗出てる千種が久しぶりに話す。
「嫁…ん?嫁じゃなくて…あなたは、橋本さんはこの馬鹿旦那と知り合いなの?」
おーずいぶん俺ずいぶん出世したな。クソ。
「中学単位の大会で顔を知ってたくらいかな〜」
「スイミングクラブとか大会にもいろいろあったから」
「結構有名だったんだよ」
(ほんとはおまえの方がな)
「すっごい美人の子侍らせてるって」
(おまえあんな繊細な字を書くのに無神経か!)
「へえっ…」
「「そんでそんで」」
橋本が引きつる。いきなり坂上、坂田が顔を出した。
「あたしの友達。マロとキントキ。ついでにあっちにいるのが…ヒメ」
「なんか個性的だね〜」
あははと橋本が笑った。
マロさんが言う。
「ほんとにお姫様なのは千種だけどね」
キントキさんが続ける。
「ずっと早名くん待ってたもんね。千種と同じでめんどいから幸平くんでいい?」
「好きに呼んでくれよ」
「告白されてもごめんなさいだけでニコリともしないの。恨まれないように友達の友達とか根回し大変だったんだから」
「綺麗だからね、分かるよ」
橋本は同意してまだ言葉を続ける。
「こうやって思ってくれる友達がいるんだもの、悪い子じゃないの分かるよ」
「あたしは」
「まわりと全然うまくいかなくてさ、逃げてきたんだここまで」