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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第11章:秋のできごと

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異国のマリー

 鉄人と称される人がいる。主に体が頑健であり、競技に出続ける人を指すことが多いようだ。

 水泳界においては、Mary Stevens マリー・スティーブンスがそれにあたる。


 結婚、出産を経てなお現役を続け、全米有数の指導者になってもまだ彼女は選手であり続けた。ついには、一昨年のオリンピックでフリーリレーの一員として40歳で頂点に立った。


 畏敬を込めてこうも呼ばれる。「哲人」あるいは「賢人」とも。長い競技生活で次第に彼女は支持を集め、現役にしてオリンピックの分科会「賢人会議」の理事にもなった。

 語学に堪能であり、来日の回数も多い。

 数ヶ月後に行われる本会議に先立ち、その準備として今回も来日したのだった。

 かの鉄人も金メダルを機に、試合に出ないと言う意味で引退状態でもある。


 久しぶりのオフを会議前に予定した。目的は花に魅せられ日本に住み着いてしまった夫Thomas Roseと息子JimnyTaro Rose(ロゼ太郎)に会うためである。


(ほんと変わった人)

 マリーは夫を想う。

(わたしも他人からしたら相当おかしな立場か)

 自嘲めいてはいても、夫や息子に不満はないし、彼らから非難される人生ではない。時々に応じ相談をし、選択をし続けた結果の今だ。


 何もないアメリカの田舎で夫婦は幼馴染として育ち、二人が苦労を経て得た教訓は「教育こそ大事」だった。異文化の相互理解は教育を得てこそ。異文化は他者であり、他のグループであり、他の…民族、国家、あらゆる…自分とは違うものを指す。


 彼女にとって誠実に向き合うと言う手段が他者を理解する方法だった。実に簡単だが忍耐を必要とすることであったが。


 高良の駅に降り立つ。日本では鉄道が安全かつ正確な時計であると彼女は評価している。


 夫との待ち合わせは駅前。それでもどこだろう…とあたりを見渡すと、学術名を付けた木が一本。

(これがあの人が言っていたキイロバナ…)

 季節がずれているため花こそないが、彼女にとっては意味のある木。

(これがねえ…)


『気に入ったかい?マリー』

 後から声をかけられる。

『目が届かないからってナンパしてる不良(アウトサイダー)は勘弁』

『では素直に。おかえり、マリー』

『ええ、ただいま…あなた』


『太郎は?』

『来春から通う高校の野球チームに参加してる』

『日本は春に進学だったわね』

『ああ、四月だ』

『桜が綺麗な頃かしら』

『キイロバナには負けるけどな。ここにも桜がたくさん生えているところがある』


 さくら…不意にある女性を思い出す。国を象徴する名をした教え子。これからと期待をし始めた矢先に親の病気を理由に帰国してしまった。会いたい気持ちもあるが、今回のスケジュールでは難しいだろう。

 それに…かつての教え子が現役復帰をしてこの付近にいるらしい。会えるか分からないが、一日くらいは探すつもりだ。


『さあ、行こう』

『このおもちゃみたいので?』

『軽トラって言うんだ。日本最高の発明品だぜ』


 トーマスはそう言って笑った。



マリーさんは構想の時から出したかったんですよね。

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