自分もまた悪意
「誰と問われれば答えねばなるまい」
あれ、素直だな。
「簡潔に言えば妹、よ」
え…なぜそこで女性言葉。
「主っぽくしてみたんだけど」
あー千種っぼく…ね。オクターブ低くなければ確かに分かりにくいかも。
「これ以上はアイデンティティが」
…どこでそんな言葉を覚えたんですかね。
「この娘を通してよ」
あ…そりゃそうか。
分かった。なら相談なんだけど…
「なに?」
明らかに分かる違いを残しておいてくれませんか?
「じゃあ低い声ならあたし…わしじゃ」
騙さないでね。
「もちろ…無論じゃ。」
じゃあさ、妹さんのこと教えてくれないかな。
「わしの次に有名な古代ヒロインだわ」
「なんか感情がぐちゃぐちゃになるから、お願い…口調をなんとかしてくれないかな」
「じゃあ優しくこっちで」
「ありがたい」
ミコさんの話は簡潔だった。妹トヨが御地で寂しがって誰かの中に入りたかったらしい。姉が勝手に千種に入り込んだものだから。
「あー気持ちは分かるけど…」
「なによ」
「そんな簡単なものなの?」
「優れた器でないと無理よ」
「千種が優れてると?」
「あたしよりもね」
「じゃあ大杉は?」
「本人が悪いわけじゃないけど、入るには大変…かな」
「中に入った方がいいの?」
「病気の人がこれ以上増えないことを祈るなら」
「あの病気、妹さんが?」
「直接じゃないけど…きっかけにはなってるかな」
「ミコさんから見て誰かに入って問題ある?」
「基本あたしより優しいから問題ないよ。最初は戸惑うかもだけど」
「適した人なんているの?」
「知る限りは…あの美也子と言う娘が唯一」
やっぱり、か。
「姉じゃ…ダメなのか?」
「自我が強過ぎる」
確立されてると言った方が適切なのかも知れない。
千種も美也子も…まだ10代だからだ。
「そもそも俺じゃダメ?」
「あたしが許さない」
どういう種類の感情なのだろう。
問題はないと言うけれど、美也子に得体のしれないものを宿らせてくれ…なんてムシが良すぎる話だ。まるで…この地の巫女…ああ結局俺だって、個人の犠牲を強いる「悪意」じゃないか。
「メリットならひとつあるわ」
自分が悪意のある人間だと気付き、沈みかけるとミコさんは不意に言い出した。
「どんな?」
「いろんな害意から本人だけは守られるのよ」
「自分がきっかけのことに?」
「そう言うこと」
「ミコさんがきっかけになる、他人の悪意や害意は?」
「ないと、思う。トヨだってあたしを求めて寂しがってるわけだし」
釈然としないけど、本人がきっかけの悪意は本人には及ばないと言うのは、当然のような、誰の責任だよと言うべきのような。
個人の善悪の判断など事象には遠く及ばないことは確か、だ。
あまりに受益が大きすぎる。
どこかに瑕疵はないものか、今回の和田さん訪問を含めて姉に相談しよう…。
そのようにして、千種の中の人…ミコさんとの初めての対面は終わった。
ミコさんともうお友達の幸平くん。




