彼女の弁当はまだ途上
さて、今日から1週間は各種のガイダンスや身体測定などで本格的な授業は来週からになる。
「早名くん、朝はごめんよ」
妙に色っぽい山門さんが話しかけてきた。
「あたしこそごめん」
「早名くんは中学どこなんだい?」
「こいつ西隣の県から来たの」
「へえ、どこらへん?」
「S市って知ってる?」
なんで隣のスピーカーがしゃべるんだろうね。
「千種は関係ないよ」
|山門飛梅さんは、よく通る声でばっさり切り捨てる。俺にはとてもできない真似だ。
ふわ〜と千種が机に突っ伏す。
「昨日こっちに来たばかりなんだ」
「慌ただしかったんだね」
「うち、やまとひめ。これからよろしくね」
「俺もよろしく。さなこうへい」
「ヒメとあと朝の二人が仲良しなんだよ」
スピーカー復活。早いな。
坂上麻里と坂田衿秋は隣のクラスとのこと。
気になってたことを聞いてみる。
「極北とか要塞とかあとなんとか」
「あー、あれ?早名くん中二病にかかったことない?」
「ある、かな?」
「千種のことだよ。かっこいい二つ名をみんなでつけようって」
「あ、そういう。幻想を煙に巻くとか」
「うん、千種って見た目いいのに、男子に興味なくて告白みんな断ってたから」
表現は大げさだけど、その事情なら分かる気がするな。そっかと千種の顔を改めて見ると、浮かない表情。
「断るのも相手によっては怖いときもあるもんな」
「実感あるね〜早名くん」
と山門さんは笑った。
昼休み。
「千種、購買の場所知ってる?」
「お昼なら持ってきたよ」
「え、そうなの?朝用意できたん?」
「時間なかったから朝と同じでごめん」
「そんな。弁当なんていつ以来だろ。ありがとな」
前から
「突っ込んでいいのかい?」
「ん?」
「我慢できないから言うけど、手作りとか、朝から一緒とか…むしろ昨日からずっと一緒じゃないの疑惑とか、昨日初対面じゃないのとか」
「「うっ」」
「放課後、集合、ね」
どうやら山門さんが親分のようで。
卵焼きの端が少し焦げていたりして、料理はまだ途上なのだと千種は弁解してた。
「一人暮らしだから料理教えてくれないかな」
「一緒に覚えよ」
千種はそれがなにより楽しみだと笑う。
昼休みのクラスは雑多にグループができてる。男友達は運動部にでも入れば自然とできるだろうと経験則で判断していたけど、クラスで孤立するのは嫌だな。地元以外の生徒もある程度いるとは千種から聞いたけども。あだ名からして千種の知り合いは男に少なさそうだし、自力だね。
そうやって観察すると初めて男子が少ないことに気付く。
「なんか女子多くない?」
「今年、最内に公立高できたからそっちに男子がいったんじゃないかなあ。昔はここ男子高だったみたいだけど」
比率の偏りがどんな影響を与えるのか、いささか不安になり昼休みが終わった。




