県大会へ
「今日の作戦名は、当たればいいな宝くじ、だ」
大前監督の言葉に気合ぬけするようにみな笑った。
野球に欠ける熱は確かに感じるけど、淡々とこなされるアップ。
どことなくこの地域の風土は職人気質なのだと思う。
珍しく沢村の乱調から試合は始まった。四球が続きランナーが溜まったところで長打。先制はあちら。
俺のところにもゴロが来て無難に処理した。守備範囲が狭いだろう山形寄りに守りながら、二遊間側は児島優先でと、試合前に決め事をした。
裏の攻撃。黄田が粘り四球。俺もまた四球を選んだ。沢村の初球にエンドラン(畳みかける監督のようだ)、内野ゴロとなったが、二、三塁。珍しく柔らかなバットコントロールで田所がレフトの左に落とす。黄田に続いて俺は滑り込む必要もなくホームにもどった。
味方にエラーが出て失点。裏にすぐに単打、バントと圧をかけなんとか同点にすること二度。俺たたちは8回の表まで5対5と善戦していた。
裏は黄田から。疲労が見える相手のエースから黄田は右中間に強い打球を放つ。加速するかのようなベースランニングで黄田は三塁を陥れた。
さて。
監督はノーサイン。
いいんかいなと好球を待つと、甘く力のない三球目。
投手を目標にセンター返し。
ボールは脇を抜けてセンター前へ。
通算6打席目でついにヒットとなり、同時に初の勝ち越しとなった。
再び初球盗塁のサイン。
本当に攻撃的な采配と思いつつ、2度出塁(四球)で癖の見えた投手のモーションを盗みスチール成功。
ここで投手が交代したけどコントロールが定まらず、四球。
畳みかけて再度初球スチールに成功して、塁が空いたので敬遠四球でノーアウト満塁。
ここで宝くじが当たる。
山形のバットが美しい軌道を描き、軽々とボールはスタンドインした。宝くじとしては最高の結果の満塁ホームラン。
最終回は川上が一人を簡単にしとめ、バッテリーごとここで交代となった。ランナー一人を出したものの、東原袋井バッテリーは難なく試合をクローズさせた。
10対5。
結果は差がついたけど、どっちに転んでも不思議のない試合だった。
次は県内4地区の予選準決勝。それに勝てば県大会出場枠8チームに入れる。変則的だけど今ベスト16、次に勝てば県のベスト8まで上がれる位置にいた。
次の週末2戦(勝てば日曜決勝だ)に向けて練習に励む金曜日、もたらされたのは意外な知らせ。
新型のインフル罹患者が相手チームに多数でたことによる出場辞退。
戦わずして俺たちは県大会に進むことが決まった。
この章の最終話です。




