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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第9章:美也子の帰還、それぞれの助走

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ご安全に

『舞姫』を読め。

 姉からごく短い下知がくだった。


「なんだこれ?」

 不可解すぎるメッセージに戸惑っていると、ふらりと入ってきた千種が

「幸平にも?」

 と、覗き込んできた。


「おかえり、どうだった?」

「先生は良かったって言ってたよ」

「タイム…ある?」

「うん」

 と、スマホを操作してPDFを見せてくれる。


 ざっと眺めてみる。

「ピーキングしてないんだよな」

「1週間前から持久系が強め」

 長距離種目出場はみささんだけ、か。

「基礎泳力のスピードアップ中だよね、いま」

「うん」


 基礎を固める。玲先生は来年を見据えているようだった。それでいてこのタイムか…。俺が知っている頃より確実にアップしていて、どこまでみんなが伸びていくのか、楽しみであるし…少々妬ましくもあった。

「バカ…拗ねてる?」

 柔らかく千種は笑う。

 今さらそんな感情が沸き起こってくるとは、自分でも意外だった。

 折り合いはつけないと。


「勝ったんだよね」

「ああ。最終回に相手に三つエラーが出てさ」

「幸平は?」

「27人目のアウトになるところでエラー出塁してなんとかホームまで帰ったよ」

「お祈り効いたかな」

「相手の失敗を願ったわけじゃないんだろ?」

「頑張れますようにとは願ったよ」

 さすが千種だ。


「ね、明日は見に行くよ」

「応援してな」

「チアしてあげようか?」

 イタズラっぽく笑う。舞姫はこれが布石か。

 さすがにそれはない…よな?

「おまえまで有名になったらさ」

「嬉しいでしょ」

「なりたいの?」

 千種は俺の鼻先を指でちょんと突くと、

「あなただけでいいの。それしか()()()()

 本当に…勝てないな…。


「マッサージしてあげる。明日のお弁当何がいい?」

 いつものように俺は、一番好きなものを千種に伝えた。


 ・・・

 さて今日も秋空も冴え渡っている。

 今日の相手は古豪だと言う。裏を返せば最近振るわない成績ってことだ。


 監督は朝集合してからスタメンを発表する。今日は山形も最初から参加だ。

「一番センター黄田」

「二番セカンド早名」

 驚いた。守ったことないんですけど…。最内(さいない)のメンバーは俺を知らないだろうから当然として、高良(たかよし)の連中も当たり前のように流している。

 三番ピッチャー沢村、四番キャッチャー田所、五番ファースト山形…。

 こっちはおおと声があがった。

 本当に形だけの…守備練習のときに、とにかく守る場所を山形に与えるために一塁に張り付いて送球だけは後逸しないよう指示があり、山形はそれをなんとかこなしていた。


 六番ショート児島、七番サード菊川、八番ライト菅、九番レフト菊川。

 三遊間は初戦と同じで、東原と袋井の最内バッテリーは後半待機かな。川上は恐らく投手と一塁のバックアップだろう。


「即席チームだからな、派手なプレイはいらないぞ。確実にアウト一つを取っていこう。外野は黄田優先な。今日の目標は…」


「ご安全に…、だ」

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