美也子の独白3
どんなことがあっても父は父だ。急な病だったからこそ悲しみを後回しにできた。
父は何かを予感していたのか、もしもの時の対応を弁護士さんに任せていた。
あたしの意思が問われることも問題の中にあったが、先延ばしにする術を選んだ。なんの因果か、葉さんとのやり取りがその時に役立った。
18になるまでは後見人が必要とのことで、迷わずあたしは実兄…日向兄にお願いすることを承諾した。籍が違うはずなのに、あたしも実質よそに出された身だからか、支障はなかった。
そして卒業式で在校生の代表に選ばれたあたしは先輩一人だけに向けて送辞を読んだ。後で先生がなにか言っていたが、関係ない。結局あたしは望まずとも自由を手に入れ、そして孤独も手に入れようとしていた。
慌ただしく決まったトレードのため日向兄はメッセージだけをあたしにくれた。
すぐに行きたいが、シーズンオフまで待ってくれないかと。
幸か不幸か現状維持すれば問題は発生しないだろう。帰る家、学校、なぜか困らないような環境がすでに用意されていた…ように思えて仕方なかった。
ただ先輩がいない。それが楽しくないから暇潰しに水泳の練習をこなした。なんだか記録はいいみたいだけど大会に出るつもりもなく、秋の日向兄との会うことからいろいろ決めよう…そう考えた。
夏休みに入る頃、葉さんからいつもより厳しめのメッセージが届いた。
『あなたが人生に真摯に向き合いたいなら指定する場所に来なさい。こんな機会チャンスをあげるのはほんとに一度きり。どれだけ私があなたを嫌いか知ってるでしょ』
いつもより本気だ。
ならあたしだって…本気で行く。
指定の料亭で先輩に再会してすぐにあの人は現れた。黄色い着物を着た落ち着いた綺麗な人。
勝負にならない。
あたしはすぐに諦めた。
一応抵抗するそぶりはしたけど、それは敗戦処理に過ぎない。
むしろ懐に入って隙あらば…と画策を思った瞬間に失礼だと気がついた。
この人…千種さんはあたしを信じて受け入れようとしてくれている。
ならば…。
甘えていいんですか…との意味を込めたやり取りをする。あたしには少なくても、千種さんがなぜか覚悟を持ってまでそのつもりだと言っているような気がした。
肉親みたいに。
信じてみよう。
そう決めた。
あたしがこの地に戻ることを日向兄は条件付きで了承してくれた。どのような扱いになるか不明だけど、兄の妻(気に入らないけど)と一緒に住むことだった。
兄もいないのに、嫁小姑同居ですかと皮肉ったけど(日向兄にこんなことを言うのは初めてだ)、客観的に見て学校の先生なら適役だろう。それにかの北玲だ。あたしが以前から知っていたくらいだから、有名なのは間違いない。
保護者として適任だと判断されるだろう。
条件は整った。玲姉の住居にあたしが行ける準備ができ次第、向かうつもりだ。
先輩がいて、(千種)お姉さんがいて、玲姉がいる。
うまく説明できないけど、あたしは亡くなった父が残してくれた宝物に囲まれた気がして、帰ったらお参りに行こう…素直に思った。




