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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第9章:美也子の帰還、それぞれの助走

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美也子の独白3

 どんなことがあっても父は父だ。急な病だったからこそ悲しみを後回しにできた。

 父は何かを予感していたのか、もしもの時の対応を弁護士さんに任せていた。

 あたしの意思が問われることも問題の中にあったが、先延ばしにする術を選んだ。なんの因果か、葉さんとのやり取りがその時に役立った。


 18になるまでは後見人が必要とのことで、迷わずあたしは実兄…日向(にい)にお願いすることを承諾した。籍が違うはずなのに、あたしも実質よそに出された身だからか、支障はなかった。


 そして卒業式で在校生の代表に選ばれたあたしは先輩()()だけに向けて送辞を読んだ。後で先生がなにか言っていたが、関係ない。結局あたしは望まずとも自由を手に入れ、そして孤独も手に入れようとしていた。


 慌ただしく決まったトレードのため日向兄はメッセージだけをあたしにくれた。

 すぐに行きたいが、シーズンオフまで待ってくれないかと。

 幸か不幸か現状維持すれば問題は発生しないだろう。帰る家、学校、なぜか困らないような環境がすでに()()されていた…ように思えて仕方なかった。


 ただ先輩がいない。それが楽しくないから暇潰しに水泳の練習をこなした。なんだか記録はいいみたいだけど大会に出るつもりもなく、秋の日向兄との会うことからいろいろ決めよう…そう考えた。


 夏休みに入る頃、葉さんからいつもより厳しめのメッセージが届いた。

『あなたが人生に真摯に向き合いたいなら指定する場所に来なさい。こんな機会チャンスをあげるのはほんとに一度きり。どれだけ私があなたを嫌いか知ってるでしょ』

 いつもより本気だ。

 ならあたしだって…本気で行く。


 指定の料亭で先輩に再会してすぐに()()人は現れた。黄色い着物を着た落ち着いた綺麗な人。

 勝負にならない。

 あたしはすぐに諦めた。

 一応抵抗するそぶりはしたけど、それは敗戦処理に過ぎない。

 むしろ懐に入って隙あらば…と画策を思った瞬間に失礼だと気がついた。

 この人…千種さんはあたしを信じて受け入れようとしてくれている。

 ならば…。


 甘えていいんですか…との意味を込めたやり取りをする。あたしには少なくても、千種さんが()()()覚悟を持ってまでそのつもりだと言っているような気がした。

 肉親みたいに。


 信じてみよう。

 そう決めた。


 あたしがこの地に戻ることを日向兄は条件付きで了承してくれた。どのような扱いになるか不明だけど、兄の妻(気に入らないけど)と一緒に住むことだった。

 兄もいないのに、嫁小姑同居ですかと皮肉ったけど(日向兄にこんなことを言うのは初めてだ)、客観的に見て学校の先生なら適役だろう。それにかの北玲だ。あたしが以前から知っていたくらいだから、有名なのは間違いない。

 保護者として適任だと判断されるだろう。


 条件は整った。玲(ねえ)の住居にあたしが行ける準備ができ次第、向かうつもりだ。

 先輩がいて、(千種)お姉さんがいて、玲姉がいる。

 うまく説明できないけど、あたしは亡くなった父が残してくれた宝物に囲まれた気がして、帰ったらお参りに行こう…素直に思った。

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