爆弾
おかしな話だ。
力を利用したい者とそれに翻弄される者たち。
その根本にあるものはなんなのだろう。
「一大テーマを考えてるんだ?1人じゃなくてチームで取り組んでも結論が出ないくらい大きいよ」
こんな時は対話をしながら考えを深めるに限る…と義兄の妹遊佐晴さんに聞いてみている。
「例えば織豊時代だって結局官位で自分を箔付けすることに熱心だったり」
ネットの向こうの晴さんは例を挙げた。
「中国の王朝の正統性がなんに担保されてるかはいっぱい解説されてるよ」
感じは分かっても考えの材料にはならない。
「身近なら…千種ちゃんはちょっと無表情っぽいし、美人だし…よく知らないけどなんか格式ある家なんでしょ?」
隣にいた千種はそんなの嫌だと顔を顰める。なぜか晴さんには感情豊かに、高校一年生らしい無邪気さで接する。立場に縛られない友達は高校生には貴重なんだと気付かされる。
配偶者の姉弟の配偶者の妹…それを表す単語を俺は知らない。かろうじて親戚。
やっぱり友達かな。
「そう言うまわりの雰囲気が嫌なんです」
「解決法が知りたいの?」
「そうですね」
「なんか千種ちゃんめんどくさいことに巻き込まれてない?」
「うー…ん、もしかしたら」
「逃げちゃう?」
姉や千紗さんの選択肢。
「あとは…効果あるか分からないけど母数の増加」
「?どういうことですか?」
「世界史の問題当事者の産業革命がさ、階級の無意味さを加速させた例えかな」
「はあ…」
「ごめん、これから習うんだよね。えーと、古臭い考えの人の数よりたくさん普通の人が増えれば…少数派は消えるか動けなくなる…かも」
「悠長な感じもしますけど」
「そうだよねえ…。確かにおかしな考えかもなあ」
でも。この町は人口が増えている。高校のクラスが増えたばかりじゃないか。
大学病院。
インターハイ優勝者。北玲と言う巨星。
何かに方向が向いている…?
もしや?
………んーさっぱり分かんないわ。
「幸平くんって表情豊かなのね。難しい顔したり急に分かった顔になったり」
えーっ…。
「あたしは千種ちゃんを見ている幸平くんが一番好きかな。優しい顔をしてる」
千種の赤くなった頬をつつく。
「寝てばっかりのくせに」
「寝る子は育つんだぞ」
「春から?」
「伸びた!」
かもしれない。
「逃げたいならあたしのところでも、兄貴のところでもすぐに来て」
「正直虎の穴に突撃する勇気はなくて」
「海外でもいいかも」
はたと思う。父は母のため?
今となっては分からないことか。
晴さんとの会話を終えて俺の右腕を抱く少女を見る。
最短の目標は千種を見えない鎖から連れ出すこと。
定まった。
できれば美也子を連れて。
「この間から思うんだけど…幸平ほんとに愛人つくろうとしてない?」
今までも、これからもこんな苦労をしてまで手に入れたいのが爆弾なわけあるか。
「ほんと?」
目の前に一番苦労してる爆弾がいるじゃねーか。
もう手一杯なんだよ。
「もっと…もっと愛して」
ほら…そう言うの。




