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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第8章:母はきませり

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あたしはほくそ笑む

 相手にされなかった腹いせに幸平くんを母に告げ口した翌日の練習後、たまたまみきと帰り道が同じになった。お母さんの病室に行く途中だと言う。


 歩きながら会話を交わす。あまり話したがらないみきだけれども、あたしの母も同じ病気と知ってから、それについてはみきから教えてもらうことが多い。


 駅前にさしかかってぼんやりと光太郎くんに会った公園を眺めたら、みきがあそこで話したいと言い出した。

 姉弟揃って公園好きだなあと付き合うことにする。今日はなぜかあたしも話したい気分だ。


 どうしたの?

「ここを通る度に結菜に言わなきゃって思ってたんだ」

 ほんとどうしたの?

「あのとき声をかけてもらって、助けてもらって本当にありがとうございます」

「同級生に頭下げるのやめて」

 なにかを望んだわけじゃない。

 そして…ほんと姉弟。


「私もう男の人を知ってる…」

 え…?

「処女は五万、もう一回は二人組に三万ずつで…買ってもらったの」

「どうして?」

 問いかけるあたしは自分が情けない。

「お金なかったから」

「他に…」

 違う。どんな方法でも家族を守ろうとした結果のはずだ。

 ちぐさちゃんなら…どう答える?


「妊娠とかは」

「してなかった」

「そっか…。誰かに話した?」

「千種と幸平くんに」

「あたしは友達?」

「結菜と?」

「そっ」

「…だよね?」

 想像する。お金なければあたしだって…。


「光太郎くん、いい男になりそうだよね」

「弟…知ってるの?」

 この間まではうっすら、と。出会ったことは黙ってようか。うん、お姉さんだもの。

 本物の姉を前にしてバカなことを考える。


「見た目だけね。話したことないから」

 これは…なんのための、嘘だろう。


 わずかな静寂のあと

「母がね、なんか難しそうな本を読んでた」

「お笑いの歴史…とか?」

 なによ、それ…とみきは笑う。

「英語の本」

「英語…」

「翻訳家?昔なりたかったんだって」


「すごいんだ」

 この話題をどう広げていいかなんて、賢くないあたしが分かるわけない。

 みきが雑談をしようとしてくれることが分かるだけだ。

 それにしても先生もみきのお母さんも英語かあ。


 …あ。

 身近に一人いた。

 さくら。姉。

 連想はあたしを慌てさせる。

「ねえ、どうしよう…。さくらちゃん帰ってくるって」

「え…っと橋本さくらさんだよね?」

「そう」

 依田玲先生が公式で復帰すれば二番手だろうけど、現時点で世界に一番近くて期待されている女子選手は、()だ。


日本(こっち)で暮らすの?」

 さすが日本のトップの大杉美樹。顔が変わる。

「一時帰国だって」

 客観的に見ても帰るには理由がありすぎる。母の病気、実家の引っ越し、留学して一年。

 そして…あたしがなにかを受け入れたこと。

 その目で確かめたいのだろう。


「先生と面識あるんじゃなかったっけ」

 あの先生の()()と姉が活躍しだした時期は少し重なっているのか。

「そっか…いいこと聞いた」

「?」

 みきは理解できないと、不思議そうにあたしを見る。


 いい子になったあたしは姉と顔を合わせるのが面映ゆい。母から姉の帰国を聞いて、頭の片隅にむりやり押し込めていた難問の解決策を思い付いた。


 姉にとっても先生は巨星(スター)だ。つまり先生を利用すれば…姉もおとなしいだろう。

 うん、名案。


 一人ほくそ笑むあたしを、みきはまだ不思議そうに見ていた。

 先生が復帰したらあたしはもちろん、みきも姉も上を目指せる立場に戻る。他のことを考えずに甘えていられる部分ができる。

 最近デレデレしている先生の姿に感謝する。


 目指すものがあることは幸せなんだ。

いつかきちんと推敲して矛盾があれば直さなければいけませんが「書は人」の結菜ちゃんです。ヒロイン役を務めさせるつもりでしたが、千種ちゃんが強敵で。

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