厳しい姉は彼女にため息を吐かせる
「あなたたちを好きだし友達だけど」
もう10年はこの人を待ってきたのだ、悪く言わないで少なくてもあたしの前では、と千種が静かに言う。
千種は静謐な湖のような本質を持っているらしくその言葉は風を抱く。
友人たちにめったに異論をはさむことがないらしく、風に吹かれた彼女たちは固まってしまっていた。
だけど千種は直後ニコッと笑うと
「まだ片思いなんだけどさ」
と続けた。
小柄な女子が
「ウチら失礼だったよね。ごめんなさい」
それから口々に謝罪を述べた。いい友達だ。
それから自己紹介をする。早名幸平と名乗ると3人もそれぞれ坂上、山門、坂田と名乗った。
「また後でね」
千種はヒラヒラと3人に手を振り俺たちは正門から職員室へと向かう。その途中でときおり「おはよう」と知り合いに千種は挨拶を交わす。
誰?と訝しげな視線はあったけど。千種プラス男は見慣れないらしい。
なんでも千種に担任から伝言があったらしく、登校したらまず千種と職員室へ来てほしいとのことだった。
「どんな先生?」
「昨日の自己紹介だと嘱託だって。なんか日本史と世界史、先生が足りない時は古文も受け持つって言ってた」
「嘱託で担任もつものなの?」
「うーん、私立になった時だいぶ公立に先生が移動しちゃったから、足りてないんじゃないかって葉さんが」
「姉ちゃんが?」
姉は早名葉と言う。
「葉さん、ここの卒業生だって言ってた」
「え?知らなかった」
「ならどうしてここ志望したの?てっきり葉さんが母校だと安心だとかそういう理由ですすめたのかと」
「んー、言われたのは、義務教育は叔父さんにお世話になるけど中学まで。それからは自分で決めなさいだったかな。私の示せる道は二つで、自分で奨学金を受けるなり働くなりして好きな高校に行くとか、水泳選手として特待生として行ってもいいけどなにより金銭的に自立する道がひとつ。もうひとつは金銭的に援助はするけど、指定する学校に通うこと。その時は住むところは心配しなくていいって」
「葉さんらしいけど厳しいね」
ため息を吐くと千種は
「幸平の選択次第じゃ、ここに来ることもなかったのか。待ってるあたしのことも知ってるのに」
「その時はあたしが押しかけることになったのかなあ」
美也子を思い出して、トラブルを未然に回避していたのだと神様に感謝した。