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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
四年後……

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解答


 自宅まで戻った備前はそのままの足で隣にある加奈子の部屋のインターホンを押した。通話状態となったインターホンから加奈子の声が帰ってくる。


「パパ? 待ってて今開ける~」


 しばらくして解錠音が響き、玄関のドアは加奈子に腕を伸ばしながら支えられた状態で開かれた。


「いらっしゃいパパ。今日はなんの用事?」


「今日、福祉事務所で安岡君から話を聞いて、辞退届を書いてきたんでな……それを小娘にも知らせておこうと思ったんだよ」


 それを聞いたとたんに状況をすべて把握したかのように緊張した表情になる加奈子。


「あ……そうだったんだ……」


 そこで備前は加奈子の部屋の玄関に加奈子のものとは違う男物の靴があることに気づいた。


「おっと、彼氏でも来てたのか。邪魔して済まなかったな、また時間をみて詳しい話を……」


「ううん、いいよ。実はアタシたちもそろそろパパに話をしなきゃだなって思ってたところだから。上がっていってよ」


 そう言って加奈子は玄関の奥に通すように手を差し向けた。


「いいのか? 彼氏だっていきなり俺みたいなのが現れたら驚くだろう?」


「大丈夫だよ。だってパパもよく知ってる人だし」


「ほぅ……? 俺と小娘の共通の知人なんかそう多くないはずだが……」


「いいじゃんいいじゃん。会ってみたほうが早いって」


「まぁ小娘がそう言うなら仕方がないな。だが場の雰囲気がどうなっても知らんぞ」


「平気平気! アタシ、賑やかすの得意だから」


「ったく、お前という奴は……」


 備前は半分呆れながらも玄関で靴を脱ぎ、加奈子の部屋に上がる。


 そして短い廊下を通ってリビングの扉を開いたとき、備前は茫然と立ち尽くした。


「ジャーン! 彼こそがアタシの彼氏さんでーす!」


 そう言って得意げに紹介されたほうはといえば、備前を見て少しだけ照れくさそうにしていた。


「やぁ。父さん……」


「……優也。どうして優也がここにいるんだ?」


「どうしてって……加奈子が言ったでしょ? 僕がその、加奈子の彼氏なんだ」


「そんなバカな……」


 備前は顔色が定まらなかった。


「どうして優也がこんなバカ娘に……」


 意図せぬ様子でもれた備前の言葉に加奈子は憤慨して床を踏み鳴らす。


「あ! パパひっど! アタシもうそんなにバカじゃないもん!」


 そんな様子を見て優也も軽く笑う。


「いや、どうかな? 加奈子はいつまでもおバカだと思うけど?」


「青天の霹ディス!?」


「まぁ僕は加奈子のそんなところも好きだけど……」


「ぬ~! 親子そろってアタシをイジめる気だな!?」


 加奈子はさらに床を踏み鳴らし、優也もさらに楽しそうに笑っていた。


「お、おい優也まさか。それじゃあお前、本当にこんなバカ娘と……?」


「うん」


 優也は備前をまっすぐに見て答えた。


「僕は加奈子と結婚するよ」


「……ウソだろ?」


 備前は茫然とするばかりだった。


「いやホントだし。パパ見て見てキランッ!」


 そんな備前に加奈子が見せたのは左手の薬指にはめられたエンゲージリングだった。


「……マジかよ」


「マジもマジ、大真面目だって。これでパパとアタシ、ガチ親子だね!」


「ダメだ、頭がついていかねぇ……」


 備前は頭を振るった。


「安岡さんから聞かなかったの?」


「こんな話は聞いてねぇぞ」


「パパを生活保護から抜けさせるって話だよ」


「あぁそれか。それならたしかに聞いたが……思い出した。実は俺もそのことで来たんだったな」


 備前は思い出すように言った。


「驚いたぜ……どうあっても俺から生活保護を巻き上げるつもりらしいな」


「そんな悪い言い方しないでよ~」


「ずいぶんな言い分だったらしいじゃねぇか。この俺を引き取って扶養するだって?」


「これからはガチパパになるんだしね! 今まで散々お世話になった恩返し!」


「……そうか。安岡君が言っていたのはこういう意味だったのか」


「アタシも生活保護をやめるし、パパにもやめさせる! やっぱり人間、悪いことばっかりしようとしてちゃダメだって!」


「チッ……小娘にまでそんなことを言われるようじゃあ、俺もとうとうおしまいだな」


 備前は首を横に小さく振った。


「小娘には前に話したよな? そんなことをすれば俺がどう考えるか……わからないお前でもないだろう?」


「パパが昔に予測した、来ないはずの50歳のことだよね?」


「今日までよく保ったもんだとは思うが、小娘に引導を渡されちまったとなっては、ようやく決心もつくってもんだよ」


「引導って……アタシそんなもの渡すつもりなんかまったくないんだけど」


「だが、そうでなくても俺はもうそろそろだと思っていたんだ……いい時期だ」


「そんな悲しいこと言わないでよ」


 加奈子は少し視線を落とした。


「アタシたちの話だって、パパにとっていいニュースにならない?」


「……まぁ、息子が幸せになるってなら悪い気がするもんじゃねぇな」


「これでもまだ、死にたいとか思ってるの?」


「そうだな……あの日、小娘に話した方程式の答えはいまだ見つからない。それがすべてなんだと思う」


 備前は重い表情でそれを口にしたが、加奈子はそれを微笑みをたたえて受け止めていた。


「なぁんだ」


 そしてさも小さな問題であるかのように元気な声で応える。


「そんなのアタシが解答してやるって!」


 備前は呆れたように笑った。


「なに言ってんだ小娘。さては俺の話を忘れてやがんな?」


「違うよ。パパが言ってたのって、誰にも愛されない、信用しきれないって話だよね」


「覚えてんならわかるだろ。そんな奴がいるわけねーだろ。小娘にどうこうできるような話じゃねーんだよ」


「そんなことないね! だってアタシ、ちゃんとパパのこと愛してるもん」


「は!? なに言ってんだお前」


「もちろんアタシは優也さんと結婚するんだし、優也さんのことが世界で一番ラブなんだけどさ。世界で一番ライクな『愛してる』は、パパにあげるよ!」


 そう言って加奈子は備前の胸に飛び込んだ。


「は!? 意味がわかんねぇ……」


「パパ、愛してるぜっ!」


 備前は眉をひそめるが、そこに優也が割って入る。


「あはは、ダメだよ父さん。いくら父さんが頭いいからって、加奈子を理屈で考えようというのはムリがあるって」


「いや、その前に誰を信用するかってのは俺が決めることだろーが!」


「父さんが加奈子を信用してないって?」


 優也は笑った。


「僕から見てもすでに父さんは加奈子にかなり深く懐に潜り込まれてると思うよ?」


「ぐ……うぜぇガキだと思っていたが……」


「父さんもさっき言ってたろ? 加奈子が父さんに生活保護をやめさせようとしていることに対して、驚いたって」


「それがどうしたんだ?」


「驚くってさ、それ、本当は加奈子のことを信用していたからこそ、突然のことで驚いたんじゃないかな?」


「なんだと?」


「僕の知ってる父さんなら、保護が廃止になるくらいのことじゃ動揺すらしなかったはずだよ? それがこんなふうにやって来るだなんて、それはもう、加奈子が自分を裏切るだなんて信じられなかったからだ」


「……」


 備前は言葉を失った。


「でも大丈夫。僕も加奈子も、父さんを咎めようだなんて思ってやしない。信用してほしい、僕たちは父さんに立ち直ってほしいからこそ、今、こうして向き合おうとしているんだから」


 そして優也は一通の白い封書を取り出し、備前に差し出した。


「過去の父さんが予測した、外れたことのない未来を打ち砕くため、僕たちが出した答えがこれだよ」


「なんだこれは……?」


「僕と加奈子の結婚式。その招待状」


「ねぇパパ! 見てみて! 早く中を見てよ!」


「あぁ? ……まぁ、見るには見るが」


 備前は二人の得意げな表情に訝しげにしながら封書を開き、中の紙を見る。


「これは……俺の誕生日じゃねぇか」


 加奈子と優也は笑顔で視線を合わせた。


「そうだよ。それも父さんの50歳の誕生日だよね」


「頑張ってその日まで生きてないと、息子の晴れ姿が見られないねぇ? あれあれ? でもそれじゃあ来ないと予測された50歳の誕生日が、来ちゃうねぇ……?」


 加奈子はニヤニヤと挑発的に備前を見る。


「ぐ……お前ら……」


 備前の歪む表情を見て、加奈子と優也はまた嬉しそうに目を合わせた。


「パパが言ってた愛されない、愛せないってのはさ。アタシたち夫婦が解決してやろーじゃないの! もうアタシだっていつまでもパパに頼ってばかりのバカな小娘じゃないんだよ?」


「父さん……もちろん、見に来てくれるんだろ?」


 二人に満面の笑顔を向けられた備前は、とうとうそれを真っ直ぐに見返すことができなくなり、観念したようにそっと目を閉じた。


「……わかった。俺の負けだ」


 その言葉を聞いた瞬間、加奈子と優也は大きく口を開き、目の端を吊り下げながら目を合わせた。


「父さん、ありがとう!」


「やったぁ~! パパ大好きぃ!」


 そのままハイタッチを交わす加奈子と優也。


「とうとうアタシ、パパを負かしてやったぜぇーい!」


「父さんの完全無欠の未来予想も、加奈子が乱入してくれば、そうはならないみたいだね」


 口々に二人は言う。


「だが勘違いすんなよ? 俺は50歳の予測を答えとして出してなかっただけだ。俺の予測が間違ったわけじゃねーんだ!」


 そんな備前の強がりを聞いて加奈子と優也はさらにうれしそうな顔をする。


「はいはい、わかったわかった。……そんなことよりさ、パパも来たんだし結婚式の段取りを早く決めちゃおうよ~」


「父さん、加奈子のやつ、ウェディングケーキを2つも用意するって聞かないんだよ……僕と父さんのぶんとか言ってさぁ……そんな結婚式とかってあり……?」


「もうメチャクチャで俺には意味がわかんねーよ……」


「そこ黙るっ! ちゃんとアタシの言うこと聞いてっ!」


 室内は途端にドタバタした雰囲気に包まれる。


「父さんはとんでもないモンスター……いや、魔王を育ててしまったのかもしれないね」


「く、くそ……優也を人質に取られた気分だ……おかげで死ぬに死ねねぇよ……」


「あ! 二人ともまぁたアタシの悪口言ってんな? 許さんぞ~!」


 加奈子は二人に飛び掛かり、その首根っこを両脇に抱え込む。


「ダイジョブダイジョブ! 心配すんなって。みんなの未来は、この賢くなったスーパー加奈子ちゃんが守ってやるかんよ~!」


 そう言って加奈子はケラケラと笑い、備前と優也はただ顔を見合わせ、苦笑いを浮かべるしかないのだった。





 それから数カ月後。


 備前50歳の誕生日であり、その息子、優也の結婚式でもあるその日。


 大衆の面前で息子の花嫁に首根っこを掴まれながらウェディングケーキに入刀させられるという新手の痴態を晒す彼の姿があった。


 その顔はとても人間らしく、恥や生きる苦しみに満ちあふれており、酷く歪んでいた。




 いつもお読みいただきありがとうございます。


 完結2025.11.30時点でヒューマンドラマ部分をほぼ飛ばして4年後に至っておりますが、逆に「生活保護制度の勉強」に特化した内容になったかな、と思います。


 生活保護は細かい所がよく変更され、2023年開始時点から変更点もありますし、これからも変化はあるでしょう。


 必要な内容は今後、オムニバスパートに追加していくかも……しれません。


 この作品が、少しでも制度を必要とする人の助けになればと祈念し、ひとまず完結のご挨拶とさせていただきます。


 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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