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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
四年後……

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四年後……


 更新頻度が極端に遅くなってしまった今日この頃。

 永遠の45歳と19歳コンビ予定でしたが流石に放置もできず一旦物語を締める方向に向います。

 R7時点で回収していない部分も多く、いきなり4年後では話が飛びすぎですが、今後もオムニバスパートの方に話を差し込んでいければと考えています。


 4年ほどの月日は流れ、備前や加奈子を囲む環境も少しずつ変化してきていた。


 いつしかボロアパートにも多くの保護者が集まり、それらを養分化することで生活ぶりも同じ生活保護者とは思えないような豊かなものへとなっていった。


 備前は相変わらず自由気まま、加奈子はより知識や資格、見聞を身につけて今日に至っている。


 大きく変化があったことといえば、ボロアパートの一角が老朽化によって居住に耐えず、一部を取り壊したのち、新たに貸し出し用の事業建物が建設されていることくらいだった。




「小娘もメシを作るのが上手くなったもんだな」


 加奈子の作った料理を前に備前が言った。


「ありがと。毎日しっかりと修行を積んできたからね。こないだついでに調理師免許も取っておいたんだ」


 答える加奈子の笑顔は明るい。二人が出会った頃は派手な明るさだった加奈子の髪色も今はやや落ちついている。4年の歳月は彼女をギャルから大人の女性へと成長させていた。


「お前ももう23か……色々あったが、よくもまぁ大人になったもんだ」


「パパからいっぱい教わったかんね」


「もうどこに嫁に出しても恥ずかしくないな……若干、小悪魔が過ぎるから未来の旦那が気の毒ではあるがな」


「あはは……それじゃあ近いうちにパパにも紹介しないとだね」


「なんだ、本当に彼氏がいたのか」


「いるよ、そりゃあ。アタシかわいいもん!」


「奇特な奴もいたもんだな」


「パパひっど!」


「俺にも紹介してくれるのか?」


「そりゃあね。だってパパのこと、本当のパパみたいに思ってるし」


「ははは……なら、ろくでもねぇ男を連れてきたら小娘はやらんと言ってやらにゃあならんな」


「大丈夫。文句のつけようもない立派な彼氏だかんね」


 備前の部屋で食卓を囲む二人はすでに親子のような雰囲気になっていた。


「……そろそろ、俺から離れて一人立ちしてもいいんじゃないのか?」


 備前が真面目な顔で言った。


「もう、あれから5年目を迎える……昔、俺がした話を覚えているか?」


「……やめようよ、そういう暗い話は」


「俺の精神もそろそろと言ったところなんでな。孫の顔くらい見てから死ねればとは思ったが……」


「やめようよ! そういうの、なんか嫌」


「そうか。すまんな……俺も老いた」


 備前は窓の外に視線を逸らした。


 佳代所有の敷地内には相変わらずボロアパートが並び、少し区画を分けた形で新たに事業用の建物が建てられている。


「佳代のやろうも、俺に心配ばっかかけやがる……せっかく安定した家賃収入を得られるよう保護者を集めてやったというのに、またあんな物を建てやがって……」


「家賃収入だけでも不安だろうしさ……ちゃんとした会社が入ってくれればね」


「ったく……いくらボロアパートが住むに耐えねぇからって、俺に黙って勝手に話を進めやがった。いったい誰に唆されたんだか」


 備前は横目で加奈子を見る。


「佳代さん、パパにも言ってないんだ」


「あぁ……頑なに口を割らねぇんだ。小娘、何か知らねぇか?」


「えっ!? いや、あはは……」


 加奈子の目は泳ぐ。


「佳代みてぇなヤツが俺に口を割らねぇってことは、うしろにいんのがよっぽど大事な奴だからだろうがよ……そうか、とうとう佳代もお前のほうに懐いたのか」


「な、なんのことかな~?」


 備前はしらを切る加奈子を見て呆れた顔をした。


「会社を経営するにも法人格やら何から……設立には必要なもんがたくさんあるはずだが、よく整えられたもんだな」


「や、やっぱりバレてたか……」


 加奈子は諦めたように肩を落とした。


「アタシもパパの下でいっぱい勉強したかんね……亜人やキモオジのケツも引っ叩いて勉強させて、なんとか人員を集めたんだよ」


 備前は驚いた顔をした。


「まさか、あいつらまで俺よりお前についたのか……」


「べ、別にパパから人まで巻き上げようだなんて思ってないよ? ただ、私も必死だっただけなんだ」


「……いや、いいんだ。俺は間もなく自殺する身だからな。死んだあとのことは知ったこっちゃねぇ。あとのことは残る奴に任せるほうがいいだろう」


 備前は加奈子を見据えて言っていう。


「これで踏ん切りがつくってもんだ……俺が作ってきた土台はそっくり小娘にくれてやる」


「……無駄にはしないからね。亜人も、キモオジも、そのほかの奴らも、アタシがコキ使って自分で稼がせる。ほかの奴らもちゃんと自立させるよ」


「ああ」


 備前は自嘲気味に笑った。


「それで……? 小娘はこれからどうしたいんだ?」


「アタシ? アタシは……」


 加奈子は少し間を置いたあと、正面から備前の顔を見て真剣な顔で言った。


「……アタシ、生活保護を抜けるよ」


「はは、小悪魔の小娘ともあろう者が不正受給の罪悪感にでもうなされたか?」


「ううん。それだけじゃないよ」


 加奈子は小さく首を横に振った。


「たしかにただ呆然と生きているだけでお金が貰えるっていうのは嬉しいよね……でもね。アタシ、それだけじゃ本当に幸せにはなれないってこと、気づいた。全部パパのおかげ」


「ほう……? 俺はそんなふうに教えたつもりはないんだがな……」


「でもパパは、言葉の表面じゃなくて、裏側のほうでそれを教えてくれたんだよ」


「はぁ? 相変わらず意味のわからねぇことを言う奴だな」


 備前は眉間に皺を寄せて加奈子を見た。


「だが小娘よ、よく考えてみろ? 死にゆく俺のような存在でもなけりゃ、金はいくらあっても困らねぇぞ? 今の小娘なら生活保護費を貰いながら稼ぐことくらい容易なはずだろ? 黙ってて貰えるものは貰っておいたほうがいいんじゃないのか?」


「幸せって、お金じゃないよ」


「小娘に言われるまでもない……だがよく世間で言われるだろ? 金ですべて買えるわけじゃないにしろ、金がなきゃ得られねぇもんがあるとかよ」


 加奈子は柔らかく微笑む。


「たしかによく聞く言葉だよね……きっと多くの人が辿り着く境地なんだと思う」


「お前はそれが間違っているとでも言うつもりなのか?」


「ううん? たぶん間違ってないよ……でもアタシは、きっとその先に、もっと違う形の答えがあるんだと、今は思ってる」


「その先だと……?」


「たしかにお金がないと得られないものもある。でもきっと、お金を欲しがっているうちは霞んで見えちゃうものもあるんだよ」


「ほう……小娘はそれを見つけたとでも言うのか?」


「まだ掴みかけてる途中なんだけどね……そしてそれはたぶん、お金だけじゃない。異性との恋愛や承認欲求に置き換えたって同じ。ほかにも何でも、自分が得ることによって感じられる幸せには、きっとその先がある」


「……」


「きっと一つ先にある幸せってね。何かを与える側に回らないと気づけないんだ……。自分自身が本当に情熱を注げるものを得て、その成果が誰かの役に立ったとき……アタシは言いようのない幸せを感じる」


「……与える側、か」


「だから断言する。生活保護を受けている人は、一つ先の幸せには辿り着けない」


「どうあっても施しを受ける側だからってことか?」


「そうだよ。なかには必要もないのに不正受給してほくそ笑んでる人もいるだろうし、毎日好きなことをして幸せを感じてる人もいると思う。そういう人たちの幸せまで否定するつもりはないよ? でもアタシは、それじゃあ気づけない一つ先の幸せに気づけたんだ」


「だから小娘は、何かを与える側に回りたいってことなのか」


「そう。だからもう一度、はっきりと言っておくよ、パパ」


 そう言って加奈子は備前をまっすぐに見据えた。


「アタシは生活保護を抜ける」


 その真剣な表情を見て、備前は嬉しそうに目を閉じ、俯いた。


「そうか……俺としたことが小娘を小悪魔に仕立て上げるどころか、逆に更生させちまったのか……本当に立派になったもんだよ」


「パパには本当に感謝してる」


「ちゃんと福祉事務所にも話したのか?」


「うん……ちゃんと正直に話したよ。法人を立ち上げて、事業が軌道に乗ったら保護を廃止にしてもらうことになってる」


「事業の準備も抜かりないんだろうな?」


「もっちろん! 実はパパの知り合いで経験豊富なスタッフさんも来てくれることになってるんだ」


 備前は感心したように何度か頷いた。


「本当にお前はまわりを味方につけるのが上手い奴だな」


「ありがと」


「……お前は、もう俺のもとを卒業だ」


「うん……頑張るかんね!」


「俺も最期に一つ、いいことができてよかったよ」


 しみじみと言う備前を加奈子は強く見返した。


「……アタシ、パパにも最期だなんて言わせる気はないからね」


「はは……前にも言ったろ? 俺にはもう生きてる理由がねぇ」


「アタシが作ったげるから」


「はは……まさか俺にまで何かを与えてやるとでも言うつもりか?」


「そういうわけじゃないけど……。アタシはアタシのやり方でパパのケツも引っ叩くことにしたんだ」


「やめとけやめとけ……そんな無駄にするエネルギーがあんなら、そのぶんは未来の旦那様に使ってやったほうがいい」


「大丈夫! アタシ、今エネルギー無限大だから」


「ははは、相変わらず意味がわからねぇ……本当に能天気な奴は羨ましいぜ」


「バカにしたって効かないよ~? だってアタシ、そんなのとっくに認めてるかんね。パパだって言ってたじゃん。俺はクズなの認めてるから何を言われても平気なんだって!」


「……だろうな。さすがは俺の弟子ってとこか」


「まぁ見てなって。そのうちにパパも思い知るだろうし。能天気なバカにしか解けない方程式もあるってことをさ」


「方程式……? あぁ、懐かしいな。たしかあのとき俺が言った言葉だったか」


「誰からも愛されない。誰も愛せない……パパにも見つからない答えがパパを苦しめてるなら、そんなくだらない悩みごとアタシがブッ壊してやるかんね」


「ははは……それじゃあ、その答えとやらを死ぬ前の楽しみにさせてもらおうとするかな」


 備前と加奈子は不敵に笑い合っていた。


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