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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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境界層

・境界層について

・時効の落とし穴


 その日も備前の部屋に加奈子がやって来た。


「パパ〜? こないだ息子さんがパパに会いに来てたよ〜」


「ん? ちょうど俺が出掛けてたときか……」


「会社の経営について聞きたいことがあるとか言ってた〜」


「なんだお前ら、そんなことまで話すほどだったか?」


「う、ううん? べ、別に……?」


「ん? ま、いい。息子にはあとで連絡してみるよ。悪いな、わざわざ伝えてもらって」


 加奈子の視線は泳ぐが、備前はそんな様子にはまったく目をやらなかった。


 話が終わったかと思いきや、加奈子は少しソワソワした様子で続ける。


「ねーねーパパ。それよりアタシも会社経営のノウハウ知りたいな〜?」


「ははは。それをただの公務員だった俺に聞くなんて正気か?」


「そんなこと言って! 息子さんが聞きに来るくらいだし、どーせパパは経営方面もヤバいんでしょ〜?」


「まぁ……抜け道、脇道、回り道……なんでもひと通りは知ってるつもりだが」


「アタシ、脇道や回り道はいらねンだわ〜」


「はぁ……小娘もまだガキだな。脇道、回り道の大切さがわかんねぇとは」


「な、なんだとー!」


「だがま、小娘はまず底辺関係の勉強からだな。俺の息子とは格が違うだろ? 人間にはその人間に合った資質ってのがあんだ。生活保護受給者様の小娘は大人しく生活保護の勉強でもしとけ」


「う〜……!」


 加奈子は恨めしそうに備前を見た。


「ははは。まぁ小娘が見しめて勉強してたらいずれ教えてやるか」


 備前は軽く笑ったあと、視線を遠くに投げる。


「そうか……優也の奴、大学を出たら企業でもする気なのか……? まぁ、アイツは俺に似て出来る奴だとは思ってたが……」


「パパ、なんだか嬉しそう」


「自分の子の成長が見れるのは嬉しいもんだ。それを見届けられたら、そろそろ俺も満足して死ね……いてぇ!」


「パパ、死んじゃ、ヤダ!」


 加奈子は地面を踏み鳴らすように憤慨する。


「わかったわかった! 毎回蹴られちゃたまらんぜ……」


 備前は呆れたように言いながらも少し頬を緩めていた。


「で? 用はそれだけか?」


 備前が切り返すと、そこで加奈子は思い出したように手を打った。


「そうだったそうだった。パパ。ちょっと相談なんだけど……」


「なんだ?」


「今回はアタシのところにちょっと微妙なラインの生活保護相談が来ててさ〜」


「どんなだ?」


「わりと人の良さげなおじいちゃん単身世帯なんだけどさ。今までは年金でなんとかギリギリの生活をしてきたけど、どうも最近衰えてきて介護施設にでも入らないと生きていけないと考えたみたいなんだ〜」


「なるほどな。だがそこで介護施設の利用料が自分の年金から支払えるか心配ってわけか」


「そうそう! アタシから見ても生活保護になるかどうかの微妙な年金収入でさ〜」


「で? 小娘は相談を受けてどうした?」


「まずは介護施設の負担がどれくらいになるか調べたよ」


「ほう。では仕組みも含めて説明してみろ」


「まず介護施設の利用料は自治体から一部支援される。これは介護保険料を払ってるから受けられるサービスだね」


「払ってねー奴らも一定数いるがな」


「介護保険料を払ってないと介護サービスを受けられないの?」


「全額自費なら当然に受けられるだろ」


「滞納するほどお金に困ってんのに全額自費とか無理に決まってんじゃん!」


「ちなみに、税金の時効は五年だが、介護保険料や後期高齢者医療保険料は時効が二年だ。ポイントは名称の最後が『税』か『料』かだぞ」


「国民健康保険も自治体によっては『税』と『料』があるとか聞いたことある!」


「税の時効が五年、料の時効は二年だ」


「へぇー! それを聞くと二年逃げ切ればいいとか簡単そうだな〜。そうすれば未納がなくなるんでしょ?」


「そこが落とし穴なんだ。たしかに時効が成立すれば自治体から納めろとは言われないし、むしろ自分から望んでも納められない状態になる」


「それがなんで落とし穴なの?」


「納めるものがなくなっても、未納の事実が消えるわけじゃねーからだ。未納があれば当然、介護サービスを受けるときに支援は受けられない」


「えっ!? ちょっと待って! それなのに自分から望んでも納められないとか……詰みじゃん!?」


「そうだ。いざサービスを受けたいときになってから、あとでまとめて払おうとする奴も少ないがいるんだ……だがそのときすでに納められない状況だったら、その先は自力で頑張るしかねぇな……それが自分の選択の結果だからな」


「こわっ! 時効こわっ! 逃げ切れたら完全に得ってわけじゃねーのかよー! 罠かよっ!」


「時効の不利益はほかにも年金や、公営住宅、いろんなところに潜んでいるから気をつけろよ」


「年金はギリギリ支給要件を満たせてない程度でも後追い納付ができなければ一生受給資格がないままになるし、公営住宅は未納が消えない以上、いつ退去命令を出されても抗う術がない状況が確定するってわけか……」


「おう。小娘もだいぶ俺の言ってることの先が読めるようになったじゃねーか」


「そりゃあアタシだって一生懸命に勉強してるからね〜」


「さらにちなむと、介護保険の支援を受けられないゴミ野郎でも、生活保護になれば結果的に全額が生活保護から支出されるだけの話だから結果的にサービスは受けられる、と」


「マジ腐ってんな」


 加奈子はオチに肩を落とした。


「で、話を戻して介護施設の利用料についてだったな」


「そうそう! 普通の人間は支援を受けられるから利用料にも実質の上限金額があるよね」


「そうだな」


「で、その上限金額は所得の多い少ないとかが関係して、何段階かに分けられているんだよね」


「そうだ。介護保険保険料そのものも住民税の課税状況などによって段階的になってるな」


「基本的にほかの制度でも、お金持ちはたくさん負担して、お金のない人は少なめにって考え方が根幹なんだね」


「ま、言いたいことがある奴もいるだろうが、基本はな」


 備前は軽く笑った。


「で、今回アタシが受けた相談に戻るんだけど……段階的に分けるってことはさ? ギリギリ上の段階になっちゃう人って、ギリギリ下の段階に留まってる人より損しちゃうんじゃね? って状況でさ」


「それな。緩和条件こそあれど、いろんな制度で同じような問題があるよな」


「特に生活保護になるかならないか、要否判定の当落線上にいる人はその落差がエグいって!」


「ま、方や医療費から何から全部タダ。一方で中途半端に頑張っちゃった奴は自己負担で頑張れよ……そんな奴らの気持ちもわかるってもんだな」


「で、今回のケースは、前にパパが言ってた『境界層』っていう部分に該当するんじゃないかと思って、そういう場合の対応について詳しく教えてもらおうとパパに聞きに来たんだ〜」


「どれ、条件をまとめた書類があれば見せてみろ」


「うんっ!」


 備前は加奈子から受け取った紙をしばらく読んだあと、ニヤリと笑った。


「小娘の言うとおり、このケースは『境界層』だ。よく見抜いたな」


「やーめーろー!」


 備前は加奈子の頭をグシャグシャと撫で、加奈子はそれに必死に抵抗した。


「境界層とは、いわばギリギリ生活保護にならない程度だが、介護保険等の諸々の負担を考慮すると保護世帯との逆転現象が起きてしまう層のことだな」


「カワイソス……」


「だから結果として、今回のケースでは生活保護にはならないんだ」


「でも生活保護にはならなくても実際には生活に困ってるんだよ? どうすればいいの?」


「それはな。一度、生活保護申請をすることなんだ」


「で、でも申請したところで要否判定で所得オーバーして却下されちゃうんでしょ!?」


「そのとおり却下される。だがな、同時に境界層に該当する証明書類を発行して貰えるんだ」


「そ、それはどんな効果がある証明書類なの?」


「さっき色々なサービス利用料等が段階的になっていると言ったな? 生活保護が却下される程度の所得があるなら、この様々な段階は少なくとも最低段階ではないことになる。これを、逆転現象が生じない水準まで段階を下げさせる効果を持つんだ」


「な、なるほどぉ〜……」


「段階を下げられる項目は、施設等の部屋代や食事代といった利用料のほか、介護保険料そのものや、後期高齢者医療保険料などだ」


「なぁんか要否判定に影響する項目ばっかりだなぁ……」


「カンがいいな。つまりはそういうことだ。つまり要否判定上では、今のままの段階で要否判定すれば生活保護になるが、各種段階を下げれば生活保護にはならない……そういう判定を潜っていることになる」


「ふむふむ。そもそも生活保護ラインから遠い人は対象外ってわけか〜」


「あぁ。そして利用料、介護保険料、後期高齢者医療保険料の順番に段階を下げていくんだが、そのすべてを最低段階に落としても収入が足りない奴はそもそも最初から生活保護になるって仕組みだ」


「なるほどね〜。境界層ってのはその名のとおり、生活保護になるかならないかの境界を埋める制度なんだね〜」


「そういうわけだ。わかったらさっさと今回の案件を片づけてやれよ」


「うんっ! まずは却下されるの前提で生活保護申請をして、却下されたときに貰える書類を持ってほかの利用料等を下げてもらえば生活保護に頼らなくて済むんだね!」


「そのときには福祉事務所側でもどの項目をどれくらいの段階下げればよいか判断できているはずなので、そのあとどこでどう手続きをすればいいのか案内してくれるはずだ」


「うんっ! アタシさっそくやってみるよ! ありがとパパ!」


 加奈子は元気そうに備前宅を飛び出していった。



 いつもお読みいただきありがとうございます。


 ちょっと需要があるかお聞きしたいのですが、国民健康保険税(料)について知りたい方っていますかね?


 この作品はあくまで生活保護テーマなのですが、国保って所得がなくても課税されるので、低所得の方にこそキツい制度なんですよ。(軽減あってもね)


 生活保護は国保とか関係ないんですが、苦しい人の層は割と重なってるような気もしています。


 なので生活保護テーマから逸れるんですが、苦しい人の手助けをしたい観点からは触れたほうがいいのかな、とも思いまして……。


 普通にコレ言ったらまずいのは解るのですが、上手く制度を使って合法的に国保を払わなくて済んでしまい、かつ差押処分等も受けない方法とか知ってるんです。


 そのまま言えば国とかに消されそうな怖さがありますが、ヒントくらいはお示ししたほうがいいのか……?

 政策批判するつもりなくても反抗的なのはナロウ規約違反になってしまうのか……?


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