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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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加奈子の恩返し


「加奈子さんに会ってお話したいことがあります」


 瓜破との相談から数日後、加奈子のスマホに優也からこんなメッセージが届いた。


 加奈子は頭を抱えた。その要件が明白だったからだ。


 しかしそれを拒むこともできず、加奈子は日を改めて優也を自室に招くことになった。




 加奈子の部屋のテーブルを挟んで加奈子と優也が相対して座っていた。


「単刀直入に伺います。加奈子さんは、僕の父とどういったご関係なのでしょうか? ただ部屋がお隣だというだけの関係ではありませんよね?」


 優也は真面目な顔をして言っていた。


「あ~……やっぱりこれ、逃げられないやつだ……アタシが生活保護者だってこともバレちゃうやつだ……」


 加奈子は小声でこぼし、少しの間顔を伏せていたが、やがて覚悟を決めたようにまっすぐ優也を見据えて答えた。


「アタシは備前さんのことをパパと呼んでいます……ですが、世間でパパ活などと言われるような関係は一切ありません」


「では、どんな関係だというのでしょうか」


「パパはある日、駅前で路頭に迷っていたアタシを助けてくれました」


「……もしかして、加奈子さんも?」


「はい……アタシは、生活保護受給者です」


 優也は大きなショックを受けたような表情だった。


「どうして……? その、ご両親は……?」


「そのときのアタシは……家出をしていたので両親を頼れませんでした」


「家出って……そんな……加奈子さんが……?」


「ですが今は両親とも和解しています……すべて、パパのおかげです」


「えっ!? それじゃあなんで加奈子さんはまだ生活保護なんか受けてるんですか!? ご両親までもがそうしろって言ったんですか!?」


「違います。うちの両親はすごく反対しました……でもアタシは、パパのところで勉強をして、ちゃんと自立できるようになるのが一番自分のためになると思っています」


「だから、父の真似事のようなことを……?」


 優也は少し顔を伏せた。


「では、加奈子さんは父が何をしているのかを知っているのですね?」


「……生活保護受給者をアパートに住まわせ、保護費の一部を受け取っています」


「それがどういうことか、わかっているんですか」


「もちろんです……法的には逸脱していなくても、悪いことだと認識はしています」


「なんてことだ……」


 優也は大きなため息をついた。


「なにやってんだよ父さん……加奈子さんまで悪の道に引き込むだなんて……」


「それは違います! パパはアタシを助けてくれただけ……アタシがパパを信用して、自分から学ばせてほしいと言っただけ!」


「それでこんなことを教えるのが大人のやることですか!?」


「それは……」


「父は、間違っている……もちろん加奈子さんも」


 優也は失望したような暗い顔で加奈子を見た。


「僕は生活保護を受けること自体を悪いことだと思ってはいません……でも、本来あるべきルールを自分勝手な解釈で合法などとのたまい悪用する行為は……正直に言って、認めがたい……」


 優也は加奈子を非難するような目で見た。


「あなたがたは……最低だ」


 加奈子は反論ができずに俯いていた。


「あ~……これが生活保護を受けてることのデメリットってわけかぁ……ちょっと優也さんのこといいなって思ってたとこも正直あるけど、これは完全に終わったってやつだよね……思ってたよりも効くなぁ……」


 そして小さくため息をついて、優也に聞こえないような小声をもらした。


「でもさ……生活保護を受けてるからって、なんでこんな思いをしなきゃなんないわけ?」


 加奈子は顔を上げて再び優也を見た。その顔はいつもの加奈子の物怖じしない顔だった。


「……それが加奈子さんの本性だったんですか」


「本性……? アタシ、誰の前でも自分を偽ったりなんかしてないんだけど?」


 優也の前で加奈子の貼り付けたような他人の顔が剥がれた瞬間だった。


 優也は一瞬驚いたような顔をするも、すぐにまた硬い表情に戻った。


「僕は加奈子さんを誤解してました……自立して、家事も、勉強も、なんでもしっかりとしていて、明るくて礼儀正しくて……とても素敵な人だと思っていたのに」


 加奈子も即座に語気を増して反論に転じる。


「それは優也さんが勝手に誤解しただけじゃん! アタシはまだパパに教わったお料理しかできないし、勉強だってまだまだ半人前だからなんとか普通の人に追いつこうとしているだけだし、礼儀だって、ちょっと優也さんの前で緊張して舞い上がってただけじゃん!」


「僕の幻想だったって言いたいんですか? 違いますよね? 父や加奈子さんがやっていることは明らかな悪だ!」


 二人は口論のように自分の意思をぶつけ合っていた。


「アタシは生きるために自分にできる最善を尽くすだけ!」


「もっとほかの道があるでしょう!?」


「アタシのようなバカに!? 今さら!? 高校も適当に過ごしてなんの知識も身につかず、家出少女に転がり落ちて、進学も就職も手遅れになったようなアタシに!?」


「手遅れなんてそんなことはないでしょう!? 何事も遅すぎるなんてことはないですよ!」


「綺麗ごとだね~! 教科書しか読んできてない人の言うことってカンジ!」


「そんなことないです!」


「じゃあなんで一度レールから外れたら浮上できないなんて世間で言われてるわけ? まさかそれすら聞いたことないなんて言わないよね!?」


「すべての人がレールに戻れるなんて言いません。でも、今の加奈子さんの努力しようとする姿勢があれば不可能ではないはずです!」


「だからそれを目指してアタシの最善を尽くしてるだけじゃん!」


 その加奈子の言葉によって、二人の間には少しの間沈黙が訪れた。


「……それを最低なんて言う人がいるから、一度転げ落ちたら元には戻れないなんて言われてるんじゃん……」


 トーンの下がった声で加奈子はこぼした。


「う……そ、それは……ごめんなさい……さっき僕が最低と言ったことは謝ります。加奈子さんが加奈子さんなりに頑張っているのを理解しようともせず……」


 加奈子の泣きそうな顔を見て優也も少し身を引いた。


「ううん? アタシも優也さんに言われて自分がしていることが悪いことだって思い知らされたこともあるから……」


 加奈子は少し上目づかいに優也を見た。


「アタシ、今決めた……いつかきっと、自力で生活保護を抜け出して見せるよ」


「本当ですか? ……そう言ってもらえると、なんだか、僕も少し嬉しい気がします」


 二人の表情は少しだけほころんだ。加奈子は少し悪戯な表情で言う。


「でも、アタシの場合は今さらだからなぁ……まともな方法だといろいろと問題が……多少のことには目を瞑ってもらわないと上手くやっていけないような気もするなぁ……」


「ぼ、僕たちは、もう少し理解し合わないといけないかもしれませんね……」


 優也は苦笑いで応じる。


「うん! だから優也さんにも、アタシがパパに、より『現実的な』お勉強を教えてもらうのを許してもらっちゃおうかな~?」


「う……! そ、それは……なにかもっとほかに、真っ当なやり方が……」


「じゃあ優也さんは何かいい方法を具体的に思いつく?」


「……で、でも。生活保護を受けながらだなんて……」


「そんなこと言って。大体、優也さんのパパだって生活保護を受けてるじゃん?」


「だ、だから僕は父を真っ当な道に引き戻したくて……」


「あっは! それはアタシもおんなじなんだなぁ~」


「えっ!?」


 優也は意外そうな顔をした。


「加奈子さんも……父を引き戻したい……?」


 加奈子は笑った。


「うんっ! だってパパはアタシを救ってくれた恩人だもん! 恩返ししなきゃ!」


「そ、そうなんですか……?」


「そ! とりま、今の目標はぁ~……五年以内に死ぬとか言ってるパパを蹴っ飛ばして死なないようにするってことだよね~」


「し、死ぬっ!? 父が!? な、何か病気でもあったんですか!?」


「あれ? 知らなかったの? パパが自殺したいとか言ってたの……って、ヤバっ! アタシまたパパのこと勝手に言っちゃった……」


「ちょっ、ちょっ! どういうことですか!? 詳しく教えてください加奈子さん!」


「よく考えてみれば親としてはこんなこと息子には言えんよなぁ……あ~、やっぱアタシはバカだなぁ……ごめーん優也さん、さっきの忘れて?」


「わ、忘れられるわけないじゃないですか! お、教えてくださいよ!」


 優也は身を乗り出して加奈子の肩を両手で揺らす。


「あ~……こうなったら仕方ないかぁ……むしろ、優也さんにも味方になってもらったほうがいいのかもしれないなぁ……」


「と、当然ですよ! 僕も味方になります! それで父の救いになるなら、むしろ僕のほうからお願いするようなことじゃないですか!」


 さらに力のこもった優也の両手の力に少し身を引きながら、加奈子は少し視線をそらした。


「お、おう……じゃ、じゃあまずは、アタシがパパから盗める知識は全部盗んで、パパを見返してやるのを認めてもらわないと……」


「わかりました。……それで? 父のことは?」


 さらに迫る優也。


「そ、その前に……ち、近いです……アタシ……男の人に迫られたこととかないんで……て、照れます……じゃなくて、こ、怖いです……」


 顔を真っ赤にしてそっぽを向く加奈子を見て、優也は加奈子の両肩を掴んだままの自分の行いに気づいたようだった。


「あっ! す、すみませんっ! こ、こんな……」


 咄嗟に両手を離して身を引く優也もまた顔を真っ赤にしていた。


「い、いえ……優也さん、本当にパパのこと心配してるんだなぁってわかるんで……」


「すみません……つい……」


 二人の間には、先ほどまでとはまた少し違った緊張感が漂いだした。


「と、とりま……パパのことについてアタシが知ってること、共有するね……?」


「は、はい。お願いします……」


 二人は少し頬を染めたまま、備前についての情報を共有した。




 こうして、備前を更生させるための加奈子と優也の奇妙な協力関係が結ばれたのであった。



 いつもお読みいただきありがとうございます。


 ちょっと更新が滞りがちなので、一度、締めに向かおうかと思います。

 わりと生活保護のルールについて大事な部分は押さえてきたかなと思いますが、あとはギャンブラーとか登場させたいなと思っており、気が向けば完結後もオムニバスパートに追加していくかもしれません。

 生業扶助、家具什器費や、子どもの塾費用など、役立ちそうな細かな費用もまだまだあるので、その辺りにも触れ残してしまっていますが……


 備前たちの人間関係もいきなり結末に向けて吹っ飛ばしてしまう感はあるのですが、とりあえず、近いうちに締めに向かって動き出そうかと思っています。

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