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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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無気力Z(1)


 その日、加奈子は福祉事務所の窓口で安岡を前に新たな養分の申請手続きをしていた。


「完璧だ……完璧な申請書じゃないですか笹石さん……って、ちっがーう!」


「あれ? アタシ何か間違ってた?」


「全部! 養分を捕まえようとか、なにもかも全部間違ってますから! こんな備前さんみたいなことはもうやめましょうよ~……」


「あれれぇ? まさか申請権の侵害ですかぁ?」


「ぐっ! ……び、備前さんめぇ~……」


 安岡は頭を抱えた。


「もう聞いてくださいよ笹石さん! 最近の生活保護申請件数なんですけど、なぜか俺の担当地区だけうなぎ昇り!」


「おっ! ナンバーワン営業マンじゃね?」


「そうそう、ウチは花形部署で……って、ちっがーう!」


「あははは。アタシ安岡さんのノリのいいところ好きー!」


「えっ? そ、そうですか……?」


「うん! チョロいところもね~」


「ぐぅ……」


 安岡はまたいつものように肩を落とした。


「こんな異常なペースで保護者を抱え込んで、いい加減アパートの空き部屋とかいっぱいにならないんですか!?」


「そーだねー……そろそろって感じかなぁ……」


「ホッ……」


「でもほら、ボロアパートは痛むし、かといって取り壊して土地を遊ばせれば佳代さんの固定資産税とか馬鹿にならないでしょ? 養分の処遇も含めていろいろと考えていかないとなんだよね~……」


「なんで19歳の女の子がそんなこと考えるレベルになっちゃってんスか備前さ~ん……」


「アタシ変かな?」


「変ですよ! そりゃ若い頃からバリバリやってる人もいますよ? でもあくまで一部でしょ? 普通、大体の19歳はウェーイとかやってるんじゃないんですか?」


「そっか~……そういやアタシ、最近の若い人ってどんな感じなんだか全然気にしたことなかったなぁ~」


 そんなことを窓口を挟んで話していたときのことだった。


「だーかーらー! 働けねぇって言ってんだろーが!」


 加奈子と安岡の近くで若い男性の大きな声が響いた。


「おっ! 面白そうな気配がしてきたぞ?」


 加奈子の顔は途端に色めきだった。


「さっきのを聞いてそう思うのは変な人だけですからね!?」


「久しぶりだし、オブザーバーごっこでもして帰ろうかな?」


「ダメー! 絶対ダメーっ!」


 面白がって近づいていこうとする加奈子の袖口をカウンター越しに手を伸ばした安岡が掴んでいた。


「わかったわかった。煽らないから離してよ安岡さん」


「ホントに頼みますよ~?」


「うん! ただ、新しい養分にはしちゃうかもだけどね~?」


 安岡はまたまた肩を落とした。




 その後、窓口で手続きを完了した加奈子は大声を上げた若い男のいる窓口に近づいた。


「こんちわー。なぁにやってんスか~?」


「あん?」


 迷いもなく気軽に話しかけてきた加奈子のほうへ若い男は振り返った。


「あんた誰?」


「プロの生活保護師だよん」


「なにそれ?」


「君みたいに、本当は働けるんだけど生活保護になりたい人の保護申請を無理やり通してあげるプロ」


「マジ!? ってか、なんで俺がそういう人間だとわかったん?」


「ま、知識と経験ってやつ? アタシもそれなりにいろんな人間を見てきたかんね~」


 加奈子は得意げに胸を張って言った。


「マジ? 全然そんなふうには見えねーけど……」


「あはっ。人を見かけで判断しちゃう奴キタコレ」


 そんなふうに加奈子が若い男と話していると。


「あー! 笹石さん! そういうのもうやめてくださいって、さっき言ったばっかりじゃないっスかー!」


 先ほどまで加奈子がいた窓口で書類に軽く目を通していた安岡が声を上げた。ところが加奈子はまるで動じず、むしろそれを利用すべくペロリと舌を出して見せる。


「ほらね? あのCW(ケースワーカー)さんの様子を見てわかるっしょ? アタシ、ナンバーワン営業マンだからさ。あの人、アタシにいいように使われて困ってんだぜぃ?」


「うっそだろオイ……」


「君、運がよかったね。話だけならタダで聞いてあげるけど、どうする? ついてくる?」


「行く!」


「オッケー! じゃあすぐここから離れよ? メンドーなCW(ケースワーカー)さんも見てるからさぁ……」


「お、おう……」


 加奈子は早々に若い男を連れ出して福祉事務所の窓口をあとにした。


「あっ! あーっ! 逃がした! くそっ! あと一歩のところでみすみす笹石さんに養分を渡してしまったぁ……」


 そのうしろ姿を見て安岡は本日何度目かもわからぬ肩を落としていた。


「こら安岡君。相談者さんを養分だなんて、窓口付近ではそんなふうに悪く言ってはいけないよ」


 そこへたまたま近くでそれを聞いていた上司からさらに怒られる安岡。


「だって……だってですねぇ……」


 安岡の肩は果てしなく沈んでいく。




 市役所から近いファミレスに移動した加奈子と若い男性は向かい合って話を始めた。


「アタシ、笹石加奈子ね! さっき言ったとおりプロの生活保護師だよ」


「へぇ~? 加奈子ちゃんねぇ……俺は瓜破(うりわり)弓弦ゆずる


「歳は?」


「22歳……加奈子ちゃんは?」


「じゅーく」


「わっか! ……ねぇ? 加奈子ちゃんメッチャ可愛いよね?」


 その瞬間、加奈子の表情は途端に冷たくなった。


「そういうのいいから。困ってんでしょ? まず理由を話しなよ」


「冷たいなー」


「生活保護申請するようなゴミが相手にされると思ってんの? 名前で呼ばれんのも嫌」


「正直だなぁ……でもま、それもそっかー」


 瓜破は軽く笑って頭のうしろで手を組んだ。


「で? 瓜破さんは今何してる人?」


「何も? 新卒で入社して、即辞めた的な?」


「は? 新卒って大学でしょ? 辞めたって……まだ就職したばっかじゃん!」


「いや、残業とか聞いてねんだよなぁ……上司もクソだったし」


「すごいねぇ。さすがに働けって窓口で言われんのもわかるわ~」


「マジそういうこと言っちゃう?」


「んーん? ま、そういうゴミを養分にしてんのがアタシなわけだしね」


「クズじゃん」


「お前もな~」


 加奈子は興味なさそうに淡々と返していた。


「加奈子ちゃん、実家暮らし?」


「一人」


「うっそマジで? じゃあ家事から何まで全部自分でやってんの? 仕事も?」


「あったりまえだし」


「うわ、なんだよそれー。すげーよ。ぜってー19歳じゃねーだろー」


「うっせー。アタシのことはどーでもいいんだよ」


「えー? だって俺、加奈子ちゃんの養分になるんでしょ? だったら加奈子ちゃんの仕事の内容も聞いとかねーとじゃん? プロの生活保護師だっけ? 犯罪っぽくね?」


「かろうじて合法の範囲内でやってんだよ」


「あーねー? グレーゾーンってやつ?」


「働けるのに生活保護申請をするようなゴミに言われたくないんだよね~」


「そっかー……それもそうだなぁ……」


「軽いな」


 加奈子は鼻で笑った。


「ねー? 養分って言うからには俺から加奈子ちゃんに支払うのがあるんだよね?」


「そうだよ?」


「いくら?」


「んー? 条件次第だけど、保護費から月いくらってのが多いかな~」


「相場的なのでいいから、目安とかないん?」


「そっかー。支給される保護費もわかんないんじゃ困るよね。いいよ、教えたげる」


「へぇ~? ……加奈子ちゃん、本当に詳しいんだ」


「アタシをなんだと思ってんだ」


「んー……なんかギャル」


「そのまんまワロタ」


 瓜破の軽い態度に加奈子の態度も少しずつ軟化してきていた。


「ま、この辺りだと、ざっくり生活費として使えるのは月7万円くらいだと思っていいよ」


「へぇ~。そこから月いくら取るの?」


「月4万くらいかな」


「ブッ!」


 瓜破は吹き出した。


「うっそだろ!?」


「ま、パパはマジでキモオジから引いてんだが、さすがにリアリティねーわな……」


 加奈子は呆れたように笑った。


「安心しなよ。普通は月数千円ってとこだよ」


「んー。まぁ正直痛いけど……現金払いなんでしょ? 足ついたら困るもんね」


「そーだね」


「じゃあいいよ。月数千円で加奈子ちゃんとお話できるサブスク的な感じ?」


「はぁ~……君、バカだよねぇ?」


「だって加奈子ちゃん、メッチャ可愛いからさ~……彼氏とかいんの? ま、いても俺は全然いいんだけどさ」


「あ~……アタシ、メンドーだと月額上げてくタイプなんだわー」


「あ~! うそうそ! もう言わないからさ」


「ったくも~……」


 加奈子は軽くため息をついた。


「じゃあさっきの話の続きね? 最近退職したってことは、数カ月で辞めたってことだよね?」


「あ、いやいや違う違う。一週間で辞めて、それからずっと無職だったってこと!」


「マジか!」


 加奈子は目を見開いた。


「やべぇ……こいつアホすぎてやべぇ……いや? だけど思い返してみれば、アタシと初めて会ったときのパパもこんな感じだったのかもしれん……」


「ねーねー? 加奈子ちゃんってもしかしてパパ活とかもやってんの? だったら俺とも少しくらいさぁ……。オッサンよりは全然いいでしょ?」


「もう君、少し黙っておくれよぅ……」


 加奈子は肩を落とした。


「この人と話してると、なぜだかどんどんパパのこと好きになってく気がするぅ……」


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