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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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実施責任と住所地特例


「ねーねーパパ。アタシたちも順調に養分を増やしてるし、最近わりといい生活状況になってるじゃん?」


「それがどうした?」


「この仕事ってさ。今は相談を受けてって形だけど、ビジネスみたいにもっと広く展開していくことってできないのかな?」


「ほう?」


「例えばさ、今は市内の相談者さんを相手にしているけど、もっと広い範囲の困ってる人を捕らえ……助けてあげたらどうなるんだろうと思って」


「ふむ。自分から養分を捕まえにいくスタイルか。いい着眼点だな」


「ぃやったぁ!」


「だが残念なことに、そんなことはもうすでに当たり前のように行われている」


「くっそ~! アタシらだけじゃねーのかぁ……悪い奴らは」


「悪い奴ら? なに言ってんだ? それをやってんのは普通の一般企業だぞ」


「えっ!?」


「小娘も知ってんだろ? こないだ行った有料老人ホームだってそうだ」


「あぁ、パパのお友達がやってる施設だっけ。やっぱパパのお友達だけあって根は悪い人だったんだなぁ……」


「ははは。そうだな。あいつもこっち側の人間さ」


 備前は軽快に笑った。


「で? どうやって引き込んでくるの? 生活保護にもどこの自治体が受け持つとかの、実施責任ってやつがあるんじゃないの?」


「お。ちゃんと勉強しているな。えらいぞ小娘」


「基本中の基本でしょ! 生活保護は基本的に居住地で申請する!」


「そうだ。保護が必要な人間を助けてやる生活保護の実施責任ってやつがその自治体にあるんだ」


「今さらって感じの基本なんだけど~」


「だが基本はおろそかにできんからな」


「だーいじょぶだって! 例外だってアタシ知ってるし! ポチみたいなホームレスはそのときいるところで申請できる!」


「そうだ。だから隣の自治体との境界付近まで送り届けて、隣の自治体で申請するように指導する自治体間の押し付け合いもあるって聞くなぁ」


「パパがそういう言い方をするときって大抵あるの草」


「ほか、旅行先や移動中の電車でたまたま無一文で保護を要することになったときのことまで細かく定められているな」


「想定が細かすぎワロタ」


「ま、そこまでキッチリ定めておかねぇと自治体間でケンカになっちまうだろ?」


「あーねー。公務員が大好きなたらい回しってやつだ」


「一応俺も元公務員なんで擁護しとくと、好きでたらい回ししてんじゃねーがな」


「はいはいワカタワカタ」


 加奈子は呆れたように言った。


「では小娘。生活保護には住所地特例ってのがあるのは知ってるか?」


「じゅ、住所地特例とな?」


「ああ。……では解説の前に小娘がさっき言っていた他の自治体に住んでる困窮者を引き込む件について答えておくと、結論、申請前に住所を与えておけばいいってことになる。いつもウチのボロアパートに養分を突っ込んでおくのと変わらねぇ」


「ま、制度上そうなるよね~」


「だが、それが施設となると話は変わってくる可能性がある」


「つまりそれが住所地特例ってやつのせいなんだね?」


「そうだ。簡単に言えば前の住所地の自治体が負担をするっていう制度だ。これは生活保護に限らず、介護保険制度などでも同じだ」


「現住所地に実施責任がなくて、前に住んでた自治体が保護するんだ……なんでそんなメンドーなことやってんの?」


「例えばだが、小娘は施設を作るとき、都市部と地方でどっちが安く済むと思う?」


「そりゃ地方だろ~。土地の値段とか物価的なランニングコスト考えて……アタシだってあれからいろいろ勉強もしてんだぞ!」


「じゃあそうやって地方にたくさん施設ができたらどうなる?」


「都市部から老人が流れてくる……担税力のなくなった老廃物のような老人が……」


「で? それを全部、施設を抱える自治体が負担することになったら?」


「老人なんか受け入れても大して税収は増えないのに、負担ばっか増えちゃうよ~」


「地方の税収がますます厳しくなるってことだな」


「なるほど~」


「ま、中間地を挟めばいいだろとかの指摘はともかく、住所地特例の趣旨としては負担の偏りを緩和するってことだな」


「よ~く考えられているんだね~」


「俺が調べたところ、この基準は大体、都道府県ごとに決められていることが多いな。特養は前住所地負担だが、有料老人ホームは現住所地負担……とかな。おっと、そういえば有料老人ホームも最近になって全国的に前住所地が負担するよう変わったんだった」


「そうなんだ~……生活保護の仕組みって、実情などに合わせて変わったりすることもあるんだね~」


「どういう種類の施設かで取り扱いが細かく変わるし、時期によっても変わってくることもあるから、お住いの地域のルールをよく把握しておくことが重要だ」


「ま、生活保護を受ける立場からしたら、どこからお金が出ても一緒だけどね~」


「そうだな。ホームレスだと保護費は市町村等ではなく都道府県から出るとか、ほかにも細かいルールはたくさんあるんだが、結局のところ実施責任なんて保護を受ける側にはほとんど関係ない話だな」


「ま、アタシらみたいな仕事してると、いつなんの役に立つかもわからないから、アタシはちゃんと覚えておくけどね~! 基本、大事!」


「えらいぞ」


 備前は加奈子の頭をグシャグシャと撫でた。


「やーめーろー!」


 加奈子は頭を揺さぶられながら必死に抵抗していた。


「おっと、最後にもう一つオマケだ。住所地特例の細かいルールが大体は都道府県ごとに決められているのが多いと言ったな?」


「う、うん……それが……?」


「同じ管内なら共通のルールでいいさ。だが、これが都道府県をまたいだりして異なるルールの自治体間でぶつかりあったらどうなると思う?」


「A市はウチのルールではそちらの負担です。B市もいやいやそちらの負担です……って言い合うってこと?」


「だな」


「せ、戦争じゃあ……」


「ま、こういう不毛な争いもたまに起きるのがCW(ケースワーカー)だ。本当にくだらねぇよな」


「ほんとそれ」


「自治体間のパワーバランス的なのがあるのかまでは知らんが、たぶんCW(ケースワーカー)ならなんとなく感じてることがあるだろうな」


「なになに?」


「こういうルールのぶつかり合いが起きたとき、東京は異様に寛大だ」


「寛大? いいよいいよ、ウチが負担するよって言ってくれるってこと?」


「そうだな。俺が思うに、地方の財政に配慮するようにって、どっか上のほうから言われているんじゃねーかな」


「へぇ~。金持ちケンカせずってやつだ」


「たしかに構造的な問題では地方は若者を都市部に吸われ、老廃物を受け取る形があるかもしれねぇ……だが一方で、地方交付税だったり、こういう見えにくいところで都民様の温情を受けている側面があることも忘れちゃならねぇ」


「そーだねー?」


「これに限らず、納税者の奪い合いもゼロサムゲームだし、ふるさと納税の過激な競争なんざそれ以下だ。自治体間の無駄な争いは本当に見ていて呆れるよな」


「みんな仲良くっ!」


「ははは。小娘のようなアホに言われちゃあ、どうしようもねぇな」


 備前は笑った。


「ま、こと生活保護に関して言えば、住所地特例で都市部が生活保護を支払っても、その生活費としてお金が落ちるのは地方だ。もう少しみんな互いに許容し合えたらいいな」


「う~ん……生活保護者が流れてきて、ありがたいんだか迷惑なんだか……」


「物事ってのは一つの側面からじゃ見えねぇってことさ」


「うーん、今回のパパの話、アタシよくわかんなーい」


「それでいいのさ。理解するとかしないとか、納得するとかしないとか、好きとか嫌いとかでもなくて、ただありのままを受け入れるしかない時代になってくるんじゃねーかなぁ」


「状況が悪いほうへ向かっても?」


「悪くなっても悪くなったなりの考え方の変化ってやつもあるだろ。世の中の仕組みが複雑になりすぎて、もっと本心に近い自然な流れに沿ったほうがいいのではないかと思うようなことが増えてきたよなぁ」


「例えば?」


「死にたい奴が増えてきたから安楽死制度を作ろうぜ、とか……いてぇ!」


 備前に加奈子の蹴りが入っていた。


「まぁでも、もう少し感情に従ってもいいんじゃね? ってのはわかるなぁ……ほら、アタシけっこうバカにされたもん。感情論抜きに理論的に話してみろよ。とか、頭がよさそうな人たちに!」


「どんなシチュエーションだかしらんが……ま、戦争だって株価だって購買意欲だって、世界の大きな部分に感情は絡んでくるんだ……みんながもう少しずつ優しくなって、平和な世の中になるといいよな」


「それパパ言う……って、いったぁい!」


「正論は必要だがそれだけじゃ世界は回らねぇ。俺たちが感情を持った人間であるうちはな」


「結論! やっぱみんな仲良くっ!」


「そうだな」


 備前は加奈子の頭をグシャグシャと撫でた。


「パパはゲンコツしたり撫でたりするのやーめーろー!」



 いつもお読みいただきありがとうございます。

 今回のあとがきは長めです。


 最近ちょっと話題になってる「残クレアノレファード」。

 備前曰く、バカを見るのはバカだけですが、そんな人でも一応は救いたい思いを持っていますので少し私見を。


 残クレ契約後に詰んで保護申請したいケースとかでは自己所有ではなく売れず、最近の買い物にも車利用を認める方針も絡むので、個人的にはゴリ押せると考えています。


 ただディーラーに引き取らせたがったりと認めたがらない福祉事務所は多いでしょうから、言い方次第でしょうね。


 私なら就職して半年以内に保護脱却する予定で申請し、受給開始後はゴネ通しますね。(私は保護者じゃないですよ)


 ただ、期間満了時に返却か買取かについて、残クレ族の判断の仕方がわからない……。


 個人的には車を返済して、残った差額支払いは破産または生活保護を盾にして踏み倒すんだと思いますが……。


 普通にマブダチから金を集めて買取とかする残クレ族とかいそうな気がするんだよな〜……保護者でそれやったらマブダチから借入たぶんは収入認定、自己名義の車になるので売却圧力が掛かりますからね?


 普通の斜め上の発想をするから実例話をどこかで拾わないと話の進め方がわからんのよな〜……


 あと気になるのは昔は美人でモテたけど、今は男にも穴以外で相手にされない独身女性かな。


 残クレ族と昔モテ独女は互いに見下しあってそうだし、この人たちが備前や加奈子のポケモンとなってバトルを始めたら面白そうだなぁと考えてしまいます。

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