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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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統失ツイフェミ女(7)

・病院によっては退院直後に暴れて再入院とか普通にある



 精神病院では事前に安岡が状況を伝えてあったことに加え、酒匂の父親から同意を得ていたこともあり、彼女はすんなりと即日入院が決まった。


 そして入院前に諸々の検査が行われているうちに安岡が必要な手続きを完了する。


 その精神病院は四階に精神患者の病室があり、窓がすべて鉄道誌で塞がれているし、外へ続くドアも自由に出入りできないようになっている。


 普通の人は立ち入ることのない独特な世界であるが、加奈子は酒匂の入院に際し、安岡たっての依頼で最後まで同行することになった。


 加奈子、安岡、そして病院職員の三人でエレベーターに乗って四階へと上がる。


 そして病院職員の操作により、施錠されたドアが開いたときだった。


「グギャピガキラシー!」


 目の前の廊下を、変な奇声を発しながら走っていく血走った目の男がいた。


「うわっ! な、なにっ!?」


 驚く加奈子に、安岡が告げる。


「いきなり強烈な場面に遭遇しちゃいましたね……ここは精神病院ですから、ああいうのも稀にあります。ちなみにさっきの奇声男は俺の同僚が担当している生活保護者です」


 走り去った男を追って、目の前を病院職員も駆けていく。それだけでも異様なのに、どこからともなく亡者のようなうめき声が空間に漂っている。


「な、なに……? この、この世の終わりみたいなところ……」


 加奈子は呆然とした。


「ここはホーリーフィールドですから。傷ついた人も多くいるんです。でも大丈夫ですよ。きっといつか回復しますから……」


「たぶん国民のほとんどが死ぬまで突っ込んどけ、外に出すなって言うと思う」


「そっ、そんなことないですよ~! 普通の人なら思っても口に出さないはずですから!」


「思うのかよワロタ」


 加奈子は呆れたため息をついた。


「では、酒匂さんもそろそろ先に入室を済ませている頃ですので、これから病室にご案内しますね」


「お願いします」


 病院職員の案内によって病室の並ぶ廊下を歩いていたときだった。


「うがあああぁっ! このボケ! 離せっ! 帰せっ! 死ねえぇっ!」


 病院内にひときわ大きな叫び声が上がった。


「あー、これ、絶対、酒匂さんの声だよね」


「ちょっ! ちょっと行ってみましょう!」


 二人が慌てて駆け出し、その声の発する病室へ赴いてみると。


「離せっ! 離せこの不細工クソオスめっ! 訴えるぞおおおぉっ!」


 そこに広がる光景は、とても現代日本の中で行われているとは思えないような行為だった。


 暴れ狂う酒匂を医師や職員が三人がかりで取り押さえ、ベッドに身体を寝かしつけて動けないようベルトで固定していたのだ。


「なんだこれ……病院がこんなことして平気なん……?」


 呆然とする加奈子をよそに、二人と一緒に来た職員も医師に加勢するように酒匂を取り押さえに向かう。


「あぁ、ちょっと手続きで目を離した隙に暴れちゃったパターンですね……」


「あ、暴れる……? 布団に包まって怯えてた、あんな大人しそうな人が……?」


「それもまた統合失調症の症状の一つなんでしょう。双極性障害とか、ほかの精神病を併発している人もわりと多いですしね」


「そうか……ゴブリンと争ったあの部屋の惨状も、きっとこうしてできたんだなぁ……」


「ゴブリンですって!?」


 安岡はギョッとした顔で加奈子を見る。


「そうだよ。さっき家を連れ出すときに話してもらったんだけど、昔、コブリンに犯されて妊娠しちゃったらしいよ? それで出産した息子が憑りついてる幻の存在ってわけ。ちなみに息子もゴブリンの血を受け継いでるらしいよ」


「……ちょっとなに言ってるのかわかりません」


「そういうバカにした態度が少しでも出ちゃうから今までの人も反発されたんだよ。ちゃんと話を聞いてやる態度は見せなきゃダメでしょ?」


「はい……笹石さんのおっしゃるとおりかもしれません」


「玄関の郵便受けの隙間から体をグニャって歪ませて、ゴブリンが入ってくるんだってさ。で、さっきガラスが割れちゃったから、もうあの家は安全じゃないじゃん? 子どもがいると知られたら父ゴブリンが連れ戻しに来るかもしれないから、自分の子どもを守るためにホーリーフィールドに来たつもりなんだよ、あれ」


「笹石さん、それ正気で言ってます……?」


「アタシにも意味わかんねーけど、当人のなかで真実ならそれでよくね?」


「ああ……なんとなくこの件は笹石さんだったから上手くいったような気がします……」


 安岡は肩を落とした。


「そう? もしかしてアタシ、パパに鍛えられて少しは強くなったんかなぁ?」


「……本気で笹石さんに味方になってほしいと思うようになりました……笹石さん。生活保護で悪いことなんかしないで俺たちと働いてみませんか? 今の笹石さんなら……」


「あー、無理! だってアタシ悪魔だもん!」


 加奈子はケラケラと笑う。


 そしてそのとき、加奈子の姿に気づいた酒匂はすごい剣幕で加奈子を睨んだ。


「この悪魔ぁっ! 騙したなっ! 殺してやるっ! 絶対に許さないからなあぁっ!」


「マジあいつ情緒どうなってんだよワロタ」


 加奈子は他人事のように笑う。


「き、気にしちゃダメですよ笹石さん。我々は酒匂さんを救ったんですから! 幻の息子だって、しばらく服薬治療を続ければきっと消えてくれるはずですから! 俺だって実際にそういうケースを見てきたことがあるんです」


「あ、いいよいいよ気を遣わなくても。遠くで犬が吠えてるようなもんでしょ?」


 安岡は必死に加奈子を励まそうとしているが、そもそも加奈子は気にしてもいない。


「このビッチが! クソオスはべらせてんじゃねーぞ! 女の敵があああぁっ! テメェみてぇな名誉クソオスがいるから私たち女が生き辛いんだろうが!」


「いや、生きづらいのは、おめえの頭がおかしいせいだろうがよ」


「ちょっ! 笹石さん、今は煽っちゃダメ……」


 笑いながら煽る加奈子を手で制しながら、安岡は加奈子をなだめるように言う。


「いやぁ、バカを見るのはバカだけなんだなぁ」


「まぁまぁ。笹石さん、どうかここは一つ。ここは一つ俺に免じて……!」


「ま、そうだよね~! 話が通じないもんねぇ~! 最近、薄々と気づいてたけど、やっぱツイフェミって精神異常者だったんだねぇ~?」


 加奈子は荒れ狂う酒匂にも聞こえるような声量で爽やかに言う。


「ちょっ! た、頼みますよ、笹石さぁん……」


 安岡は酒匂を抑えつける医師たちの視線を気にしながら慌てているだけだった。


「あはっ! お前のスマホ、実は今アタシが持ってっから! お前のアカウントでちゃんとパパへの謝罪と自分がどんだけヤベェ奴かアピッといてやるからぁ! ちな、安岡さんに物を投げまくってたヤベェ動画もお前の顔出しで公開な~? あっは! クソワロタァ!」


 加奈子は酒匂から遠ざけようとする安岡の身体からピョコピョコ覗き込むように彼女を煽っていた。


「ハッハー! これが精神異常ツイフェミの末路でぇ~っす! ヤベェ……すげーいい写真が撮れたぁ!」


 加奈子が手に持った酒匂のスマホによって、完全拘束されている状態の酒匂の姿が写真撮影される。


「いやー、パスワードが掛かってなくて助かったわ~! どうせSNSアカウントのパスワードも本体保存されてんだろ~? これが私の末路ですってSNSに晒しとくね~?」


 そこで加奈子はキリっとした表情になって続ける。


「晒していいのは、晒される覚悟のある奴だけだっ!」


 そしてすぐに腹を抱えて笑い出す。


「なーんつって! あっははははっ!」


「いやあああぁっ! 殺すっ! 殺すうううぅっ!」


 病室付近一帯には加奈子の笑い声と酒匂の叫びが響く。


「ちょっと君! 早くその子を摘み出して!」


 そんなカオスな状況で、とうとう医師が怒って安岡に命じた。


「すっ! すみません先生! すぐに立ち去りますから! ほ、ほら、笹石さん! これ以上は無理ですっ! もう行きますよっ!」


「えー? アタシ、まだ煽り足りなぁ~い!」


「め、命令っ! これはCW(ケースワーカー)として生活指導の一環ですからね!」


「ちぇっ……こういうときに強権発動はズルいなぁ……」


 加奈子はしぶしぶ病室に背を向ける。


「こ、こういうところがなければ笹石さん、頼りになる人材なんだけどなぁ……」


 安岡はがっかりと肩を落としつつ加奈子の背を押し、二人はその場をあとにした。




 その後、なんとか落ち着いた酒匂はそのまま入院となり、安岡と加奈子は帰りの車の中にいた。


「いやぁ、今回はめっちゃ面白かったな~。精神病院ってあんなにヤベェんだね!」


「そ、そうですね……」


 安岡はハンドルを握りながらぐったりとしている。


「ツイフェミの精神異常率が高いってのもなんとなく察せた。頭おかしいから男に相手にされずフェミ化するんだろうね! ついでに社会からも相手にされずニート率も高いって訳か。ツイフェミ投稿すると、ものすごくイイネつくけどさ。あれって案外、パパの言うとおり精神異常者の数に近いのかもね~」


「ぜ、全員がそうだとは限りませんが……」


「いーや、きっとそうだよ! イイネしてる奴、全員精神だって!」


「ちょ。もう許してやってくださいぃ……」


 安岡はさらに肩を落とした。


「そういえば笹石さん。俺、さっきようやく笹石さんが俺に協力してくれた理由がわかりましたよ」


「理由なんかあったっけ? 強いて言えば面白そうだったからだけど……」


「スマホですよ、スマホ! 酒匂のSNSアカウントを使って備前さんの汚名返上をしようとしていたんですね?」


「あ、それね。まあ、そう思ってたところも正直あるかな」


「ちょっと感動しましたよ。師匠思いなんだなって」


「どーせパパはノーダメージって気にしないんだろうけどさ。アタシがなんか嫌だったんだよね、パパが悪く言われんの」


「本来だったら他人のアカウントを勝手に使って投稿なんてやめさせるべきなんでしょうけど、今回はかなり助けられましたし、見なかったことにします」


「ありがと安岡さん! どうせすぐ料金未納で使えなくなっちゃうから、早いとこパパの名誉挽回やっちゃうね!」


「いいお弟子さんを持って、備前さんも幸せだなぁ~……」


「だろだろ~ん?」


 加奈子は得意げに胸を張った。


 そんな加奈子を見て、安岡はふと思いついたように言う。


「笹石さん。どうせならもっと備前さんのためになることをしてみたいと思いませんか?」


 安岡の提案に目を光らせる加奈子。


「なぁにそれ?」


「いや、具体的な方法まで思いついているわけじゃないんですけれども、俺が思うに、本来は生活保護なんて受ける必要のない備前さんが生活保護を受けているなんて、不正受給ですし良くないことだと思うんですよ」


「うん。まぁそうだろうけど、そこをパパはあえてやってるようなところもあるよね。気分的な問題で」


「笹石さんは備前さんと仲良しですし、もしかしたら何か理由があるのをご存知なのかなとも思いまして……」


「ダメダメ! 知ってるけど、アタシはパパのこと、売らないよ!」


「でも、悪いことをしてるのをやめさせるのは備前さんにとってもプラスになると思うんですよ」


「プラスって……気分的なもの以外にメリットあるの? 毎月なにもしなくても十万円以上も入ってくるお金がなくなる以上のメリットなの?」


「そ、それは……」


「たしかにアタシはまだまだバカだけどさ。少なくとも今はそんな口車に乗っちゃうような世間知らずの小娘じゃないよ?」


「でも、お二人のやってることはハッキリ言って、悪です」


「悪でけっこうコケコッコー!」


 ケラケラと笑い飛ばす加奈子に、安岡は肩を落とす。


「残念です。笹石さんもだいぶ備前さんに染められちゃいましたね……だんだん俺の手に負えなくなってきてるのを感じます……」


「えー? 今日は実質アタシに助けてもらいながら、よくそんなこと言えんじゃん?」


「そういうところなんですよ~……」


 安岡はさらに肩を落とす。


「ここのところ、笹石さんの成長は目を見張るものがあります。だからこそ、真っ当な道に戻ってほしかった……」


「それは考え方の違いだね。アタシは今、真っ当に生きるために、自分にできる最善を学ぼうとしているんだよ?」


「でも……」


 安岡はそこで言葉を止めた。


「でも?」


 加奈子は聞き返す。


「あ、いえ……ただの俺の推測ですので」


「えー! 気になるじゃん! そこまで言ったら言いなよ!」


「まぁ……はい」


 安岡は逡巡のあと、言った。


「笹石さんがこのまま成長を続けたら、備前さんの手にも負えなくなるんじゃないかなって思いまして。……俺の手に負えなくなったように」


 そう真面目な顔で言う安岡を見て、加奈子は一瞬沈黙した。


「なにそれ? 弟子が師匠を超える的な? 無理ムリぃ! アタシとパパじゃ元が違いすぎるわっ! あんな天才の裏をかける気なんかしないって!」


「そうでしょうか……?」


「さては安岡さん、アタシたちが悪事の限りを尽くすから、さっきからアタシとパパを仲違いさせようとしてんな? やめときなよ。あんな悪魔みたいなパパを敵にするの」


「ち、違いますよ! 俺はただ、備前さんにも真っ当な人間に戻ってほしくて……」


「そこはすっげーわかる! パパに真っ当に生きてほしい気持ちだけはアタシも同じだからね~!」


「だったら……!」


「でもダ~メ! パパのことは売らないよ~っだ!」


 加奈子はそう言ってケラケラと笑った。


 そんな加奈子を見て安岡は少し不審な目を向けた。


「もしかして、笹石さんと備前さんって……デキてます?」


「あっは! それはないって! だってアタシ全然相手にされてないもん!」


「ってことは、少なくとも笹石さん的にはアリ……?」


「ねぇわ!」


 加奈子は即答する。


「でも最近ようやく自分の価値がわかってきたところもあるというか……パパから受けた恩に対して、アタシの返せるもんが本当に無価値だって痛感しちゃったってゆーか……」


 加奈子は少し寂しそうな顔をした。


「だからたぶん、今パパがアタシを求めてきたら、正直、一回くらいは許しちゃいそうな気がする……」


「……マジすか」


「でも実際にはパパ、内心アタシのことめっちゃ大事にしてくれてるから絶対にそんなこと言ってこないって確信してるし、でもだからこそアタシもよりパパのこと信頼しちゃうってゆーか……あ、あれ? これアタシ、けっこうヤバいスパイラルじゃね……?」


「あ……あの、もうけっこうです……すみません、変なこと聞いちゃって……」


 安岡が慌てて会話を閉じると、加奈子は困ったように少しはにかんだ。


「ともかく、マジで今のアタシはパパに対して無力なの……だから、パパのお役に立つことなんてできないんだ~……あははっ! 残念っ!」


 加奈子は少し落ち込んだ雰囲気を立て直すように明るく笑った。


「そ、そんなことないですよ! 笹石さんは頼りになります! それは俺が保証します」


「そう?」


「現に俺、今回の件ではすっごく助けられちゃいましたし……」


「あっは! なら、お礼は次のアタシの養分をすんなり申請通してくれたらそれでいいからさ~!」


「も、もうマジで勘弁してくださいよ~!」


 最後まで加奈子にいいようにやられる安岡だった。


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