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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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ボケ老人(5)


 備前たちは歩いて特養の前までやってきた。


「へえ。けっこう大きい施設なんだねぇ」


「それなりに個室もあるからな。だが、今回はあえて多床室の前を通っていく」


「お金がある人は個室。ない人が多床室って考え方でいいんだよね?」


「基本的にはな。空き部屋の都合などで多少は違うケースもあるが、料金も変わってくるから経済力の差が出る」


「そこはしょうがないよね」


 二人は淡々と建物に入ってスリッパに履き替えた。


「さて、ばあさんのとこに行く前に、特養の見学でもしていくか」


 受付を済ませた。備前は、慣れた足取りで廊下の先へと歩み出す。


「待ってよぉ~」


 加奈子もそれに続いてスリッパを鳴らした。


 施設内を縦断する広い廊下の両端にそれぞれ多少室が並んでいるところに通りかかったとき、それは聞こえた。


「エエエエエエエ……」


 亡者の嘆きのような声に、加奈子は身をすくめた。


「な、なに!?」


「気にすんなよ。ただのうめき声だろ」


 備前は気にしたふうもなく淡々と歩き続ける。


「そっかぁ。うめき声か~……って、普通うめき声って気になんね?」


「ウウウウウウウ……」


「アアアアアアア……」


「うわっ!? なんか共鳴しだした!」


 廊下の左右から響き出す低い声。


「なんか苦しそうじゃね?」


「どうだろうな。行き着くところまで行き着くと、もう本人の意思なんかわからねえからな」


「ちょっと様子を見ていってもいいかな?」


「ん? まあ構わねぇが、面白くはねぇぞ?」


「どんな人がこういう施設に入るか気になるんだよぉ」


 そう言って加奈子は近くにあった部屋の扉を少しだけ静かに開けた。


 そこは六人部屋であり、まるで病院の一室であるかのように、規則正しくベッドが並べられている。


 そしてそのベッドにはもれなく老人が横になっていた。


 眠っているのではない。ただ横になっているのだ。


 しかし、そこに意識があるのかないのか、扉から覗く加奈子に反応する者はいない。そこにいる誰もがすでに骨と皮だけになった枯れ木のような存在である。


「オールドウィロウ。西洋のホラー作品にあるだろう?枯れ木のモンスターで、人間の生気を吸い取る奴が。今のこの国はまさにそんなオールドウィロウの樹海なんだよ」


「こんなのを生かしてどうなんのさ」


「さあな、お命大事なんで生かしておくしかないんだろう?」


「マジこの光景を若者に見せてやったほうがいいって」


「見せたところで何か変わるとは思えねぇがな。なぜなら思考停止してる奴らが多すぎんだろ。生気を吸われる者が見るという、甘い幻にでも酔いしれてんじゃねえの?」


「ヒデェ……」


「いつか若者がキレて、老人を無差別に大量虐殺する事件が起こると考えていた時期が俺にもありました……ってとこだな」


「起こせよっ! 起きてもいいだろうがよー」


「ハハッ。小娘、お前。悪魔みたいなことを言ってるぞ」


「オールドウィロウよりマシだろうがよー」


 そんなことを話しているうちに、室内に異音が響く。


 ビュルルルと肛門から緩い便が飛び出すような音だ。


「うわ。これ、絶対に漏らした音だ!」


「は。小娘お前、運がいいな。うめき声も聞けたし、排便現場にも立ち会えたじゃねぇか」


「こんなんで運を使いたくねーわ!」


 加奈子はピシャリとドアを閉めた。


「アアアアアアア……」


 閉めたドアの向こうからもうめき声が聞こえる。


「最悪だぁ~」


「ははは、な? 培養液に漬けておいたほうがいいだろ? おむつを替える手間がないもんな」


「ア、アタシのなかの人権がどんどん崩壊していくぅ……」


「ここまでになると、死なせて『あげる』って考えも必要かもな」


「そんなこと言ったら炎上案件だけどね」


「だが、いったいこの国はいつまで見て見ぬふりをするんだろうな」


「目をそらしたって、状況は悪くなるのにね。アタシ、ちょっと何かあると、すぐ炎上っての、どうかと思う」


「枯れ木に火をくべるなら大賛成だけどな」


「例え上手すぎてワロタ」


 加奈子はまた元気を取り戻したようにケラケラと笑った。


「さて、見学もこの辺にして婆さんのとこにでも行くか」


「うん!」


 二人はまた廊下を歩き出した。


「ねーねー。パパのおばあちゃんってどんな人?」


「ひとことで言えば、セコいババァって感じだな。だからこそ、たんまりと溜め込んだんだ

ろうとは思うが……」


「どっか身体が悪いの?」


「さすがに90歳過ぎだからな。まだ頭は冴えてるようだが、身体がツレェようで、子どもらに迷惑かけたくねえと、自分から最近入所したんだよ」


「子ども思いのいいおばあちゃんじゃん」


「そうだといいがな」


「でも、そんないいおばあちゃんが、お金もあるのにどうしてオールドウィロウと同じ施設に入ってるの? 一緒にはされたくなくね?」


「まあ、同じ施設に変わりはねぇが住んでるところはまるで別物だからな。それも含めて見学していけや」


 二人は廊下の先にあるエレベーターで二階に上がった。


 心なしか、日当たりも良く、明るく清潔感のある廊下が続いている。


 うめき声もなく、穏やかな空間である。


 そんな廊下を少し歩いて、二人はある部屋の前で止まった。


「ここだ」


 備前はドアをノックする。そこには桜辺と書かれた名札があった。佳代と同じ苗字だ。


「ばあさん、俺だ。正義だ」


「正義かい? 入りな」


 中からの返事を待って、備前は引き戸を開けた。


 そこには六畳ほどのフローリングのリビングが広がり、ベランダへつながる大きな窓から暖かい日差しが差し込んでいる。


 簡易キッチンも備えつき、別室にはバストイレ、さらには四畳半の和室にクローゼットまでもが備わっている。


 そんな豪華な一室のリビングで、背の高いこたつに車椅子で入ってテレビを見ている老婆が一人。


「よう、ばあさん。顔を見に来た」


「ふん。用もないのに来るような、あんたでもないだろうに」


「は。そんなふうに言えるんじゃ、まだまだ平気だな」


「バカを言っちゃいけないよ。……それよりあんた、その子は誰だい」


「弟子みてぇなもんさ。元は養分として拾ったんだが、意外と使えるんでな。利用してんだ」


「言い方! パパ、言い方!」


 加奈子は備前の隣で不満そうな顔をしている。


「まさか愛人でも連れてきたんじゃないかと思ったよ」


「そんな暇人じゃないんでね」


「佳代だっていい女じゃないか。なぜ佳代をもらってやらん」


「一人が気楽なもんでね」


「その割には、その子にだいぶ気を許してるみたいだがね?」


「そう見せてんだよ。俺は人を信用させるのが上手いんだ」


 そんな言葉の応酬をしながら、備前はシレっと入室し、ドアを閉めた。


「まあ、安心しろよ。ボロアパートには養分になりそうな奴を突っ込んどくからよ。佳代なら心配はいらねえ」


「なにも金だけの話をしてるんじゃないよ。あんたが佳代をもらってくれさえすれば、私も

すぐあの世に行けるんだ」


「俺になんのメリットもねえ話だ」


「あんないい女が抱けるじゃないか」


「ばあさんの時代とは違うんだよ。今や若い女が安く買える時代。アラフォー女に価値なんかねぇのよ」


「だからそこの女に手ぇ出してんのかい」


「勘違いすんな。この小娘は本当にただの弟子だ。上手くいきゃ、俺がいなくなったあとも佳代の助けになるんじゃねぇかと仕込んでるところさ。今日だって施設ってもんを見学させるために連れてきただけだ」


「ふん、そうかい」


 そう言って老婆は加奈子を見据えた。


「正義、あんた、いつかこの子に足元をすくわれるよ」


「は。俺がこんなアホな小娘に? バカを言ってくれるなよ。ばあさんもとうとうボケちまったのか?」


「ア、アタシもパパを裏切ったりなんかしないし!」


 老婆の言葉に備前ばかりか加奈子までもが反論した。


「だが、これでも私ぁ人を見る目だけは自信があってね」


「意地汚ぇ生き方の産物じゃねえか」


「そうさ。だが、だからこそわかるもんがある。正義。あんたは私によく似ているよ。だからこそ、どんなものにつまずくのかもよくわかってんだ」


「俺がこんな小娘に? そんなわけねぇだろ。気持ち悪い」


「アタシも同感! むしろ引っ掛けようとしたって、軽く蹴っ飛ばされるのがオチだし、そんな場面想像できね~……」


「まあ、今のままじゃそうなんだろうねぇ」


「小娘が化けるとでも言いてぇのか」


「さてね」


 そう言って老婆は湯飲みのお茶を一口飲んだ。


「せいぜいそうならんよう、今のうちに上手く手懐けとくんだね」


「いや、そうなる前に放流しちまおうか」


「い、嫌だよ!私を捨てないでよ~!」


 加奈子は必死に備前にしがみつく。


「ははは、心配すんな。何も変な気を起こさなきゃ生かしておいてやるよ、変な気を起こさなきゃな」


「うん! うん! うん!」


 加奈子は忠犬のように頷いた。


「てな訳でな。ご覧のとおり、俺は小娘に刺される道理はねぇんだよ。さすがのばあさんもやっぱ歳みてぇだな」


「そうかいそうかい」


 老婆は余裕と呆れのこもった表情で小さく頷いていた。


「ま、せっかく来たんだ。ゆっくりしていきなと言いたいところだが……すまないね。今日はちと病院に行くことになっているんだ。そろそろ迎えが来る頃でね」


「構わんよ。こっちもただ顔を見に来ただけだ。連絡もせず、急に悪かったな」


「またいつでも来な」


「いいのか? こういう施設じゃ、親族と顔を合わせた直後にぽっくり逝っちまう老人が多いって聞くけどな」


 病院や施設では本当にあると言われていることで、親族の顔を見て思い残すことがなくなったかのように息を引き取るケースが不思議とあるという。


「私ぁそんな情の深い人間じゃないよ。ふざけないでほしいね」


「なら、安心してまた来るよ」


「ふん」


 そう不機嫌そうに視線を切った老婆に背を向け、備前はドアを開ける。


「そうだちょっとそこのあんた」


 老婆が、加奈子を呼び止めた。


「アタシ?」


「そうだよ。あんた名前はなんて言うんだい?」


「加奈子。笹石加奈子だよ」


「そうかい。もしよかったら、私とホンの少しだけ、お話でもどうだい?」


「え? 私が?」


「そうだよ。病院の迎えが来るまででいいさね」


「アタシ、おばあちゃんのことをなんにも知らないけど?」


「それでいいんだよ。私もあんたのことは何も知らないしね」


「でもそれじゃあどうして?」


「こんな施設にいるとね。若い者と話す機会なんてそんなにないからね。私だってボケないために若い者と話をしておきたいのさ」


「あ~なるほどぉ~」


 加奈子は手を打った。


「じゃあいいよ~!」


「やめとけやめとけ。どうせろくなことを言われんぞ」


 備前は呆れた様子で言った。


「正義。あんたはとっとと出ていきな」


「へいへい。……小娘とって食われんなよ?」


「パパはもうちょっとおばあちゃんに優しくしなよ~」


 加奈子の言葉を背中で聞いて、備前は部屋を出ていった。


 残された加奈子が適当な話を切り出そうとすると、老婆がまず先にと口を開いた。


「お前さん、正義のことをどこまで知ってるね?」


「パパのこと? 公務員だったとか?」


「病気のこととかさ」


「え!? パパどっか悪いの?」


「いいや、そういうわけではないんだけどね」


「あ、もしかして死にてぇって言ってること?」


「ほう。どうして死にたいんだい?」


「なんかね、頭良すぎて誰にも理解されないんだって。つまらないみたいだよ? 世のなか」


「なるほどね、そういうことだったのかい。……公務員『だった』に、『死にたい』ときたかい……」


「あれ? おばあちゃんも知ってたんじゃないの?」


「あの子はそういうのを話したがらないからねぇ」


「うわ! もしかしてアタシ、しゃべらされた!?」


「平気さ。お前さんの口ぶりから、私が勝手に察しただけさね。仕事は辞め、大きな病気はないけれど、深く絶望して死にたがってところかい……?」


「あ、あの。このことはパパにはナイショに……」


「もちろん言わないよ」


「よ、よかったぁ」


 安堵する加奈子を老婆は優しそう微笑んで見た。


「そうかい。お前さんにはそんなことまで話したのかい」


「でも、アタシとパパとは本当に変な関係じゃないよ? ほら、アタシってけっこう隙だらけなんだけど、それ以前にパパには全然相手にされないって感じ」


「そうかい。じゃあ、少なくともあの子のことを好いているんだね?」


「え? いやー、そう言われるとどうなのかなぁ。パパみたいだなって思うけど、アタシからしても全然そういう対象じゃないし……」


「ふふ。まあ、そんなことは見てればわかるがね」


「お! さっすがおばあちゃん!」


 加奈子は相変わらず物怖じしない様子で笑った。


「ねーねーおばあちゃん。アタシからもいっこ聞いてい~い?」


「なんだい?」


「パパさ、どうやったら死ぬのをやめてくれると思う?」


「そこは難しい問題だねぇ……」


 老婆は少し間を置いた。


「女でも作ればどうかと思ったが、佳代でダメとなるとねぇ……」


 そこで老婆は加奈子を見た。


「そうだ。お前さんが咥え込んでしまうのはどうだろうか?」


「咥え込む? 何を?」


「あの子のイチモツだよ」


「いっ!?」


「寝込みでも襲ってやりゃあ一発さ」


「い、嫌だよ! アタシそんなのできないよ!」


「そうかい、残念だねぇ。お前さん、まだ乙女なのかい」


「い、いいんだよ。そんなことは!」


「ふっふっふ。困ったねぇ佳代もお前さんも。最近の若い女は男を転がすって気概がありゃしない」


「も、もしや、おばあちゃん、ボケてんだな!?」


「ボケ……か。そうなのかもしれないねぇ……」


「うそ! うそうそ! ボケてないよ。ごめんね。ちゃんとお話できるもん」


「お話ばかりができてもねぇ……」


 老婆は自虐的に笑った。


 そして、車イスをこたつから出し、加奈子に正面から向かって、深く頭を下げた。


「私ぁ、あの子や佳代が気がかりでね、一つよろしく頼めないかね」


「ア、アタシに?」


「そうさ」


「無理だよ。アタシ馬鹿だもん」


「そんなことないさ。私は人を見る目に自信があると言ったろ?」


「で、でも……」


「私の最後の頼みさ。特に正義は、私に似てる、あの子の悩みはよくわかる。なんせ私もさっさと死にたいぐらいだからね」


「おばあちゃんまで……?」


「そうさ。でもだからこそ、あの子を助けてやれないのさ。悔しいねぇ。心残りだねぇ」


「そりゃアタシだって、できるならパパを助けてあげたいけどさ~……」


「そう言ってもらえると、お前さんと話ができてよかったと思えるよ。


「ほんと!? じゃあ長生きできる?」


「クックック。それを面と向かって聞けんのかい。お前さんは面白い娘だね」


「ああ、アタシそれよく言われるやつ」


 老婆はさらに笑った。


「家族に迷惑をかけたくない。なのに、どうして死なせてもらえない世のなかになっちまったんだろうね……死にたい奴は死ねばいい。生きたい奴は生きればいい。価値のない奴は死ねばいい。価値のある奴は生きるべきだ。そういう本当のところを、お前さんならあの子に伝えられるかもしれないね」


「どうだろ? もう分かってんじゃね? パパ頭いいから」


「そんなことないのさ。死にたいと思わされている。それはバカだからさ。バカを見るのはバカだけさね」


 その言葉を聞いて加奈子は少し驚いた顔をした。


「ああ、それおばあちゃんの言葉だったんだ」


「お前さん、死にたいなんて微塵も思っとらんだろ?」


「そりゃあね」


「なら、お前さんのほうがよっぽどあの子より賢いのさ」


「うーん……そうかも! アタシ、天才かも!」


「クックック……だからお前さん、いつかあんたがあの子の足元をすくってやっておくれよ」


「あー、なるほど足元をすくわれたパパはビックリして、死ぬのをやめる。つまり、アタシに救われるってわけだな……?」


「クックック。私にゃ、お前さんの考え方はわからないがね……?」


 老婆は呆れながらも嬉しそうに微笑んだ。


「うん! ならわかった! パパのことなら、いつか私がやっつけておくから、おばあちゃんは安心してて!」


「こりゃあ愉快だね。ガツンとやっておやり」


「任せて! これでもアタシ、パパのこと蹴っ飛ばしたこともあっから!」


 加奈子は得意げに胸を張り、老婆は嬉しそうに笑うのをこらえていた。


「さて、時間を取らせてしまって、すまなかったね。お前さんはもうお行き。私は少し笑いすぎて、苦しくなってしまったよ。すまないが帰りがけにでも誰かに伝えていってくれないかね?」


「た、大変じゃん! 苦しくさせちゃってごめんね。すぐに人を呼んでくるからね」


「ああ、頼んだよ」


「それとアタシ、また来てもい~い?」


「ああ、待ってるよ」


「よかった。じゃあちょっと待っててね、おばあちゃん」


 そう言って加奈子は部屋を飛び出し、スリッパを鳴らして廊下を駆けた。




 その後、加奈子が職員に声を掛けたりと忙しなく動いてるうちに、備前は施設での必要

な手続きを済ませていた。


 そしてそれを終えて事務室から離れたところで、ちょうど戻ってきた加奈子と合流することになった。


「あれ? パパ何か手続きしてたの?」


「まあな。そもそも今日ここへ来たメインの理由は、小森の廃棄先を探すためだぞ」


「あ、そういえばそうだったね」


「どうだ? 少しは勉強になったか?」


「うん! 人生いろいろあるんだなって」


「なんだそりゃ?」


「パパのおばあちゃんみたいにゆったりしてる人もいれば、タコ部屋に突っ込まってる人もいるし、人生の終え方もピンキリだな~とか」


「人生の終え方か。悪くねぇ言い回しだな。できりゃあ穏やかに眠らせてほしいもんだ」


 そんなことを言う備前の足に加奈子の蹴りが入っていた。


「死ぬとか言ったら、蹴るって前に言ったよね、アタシ」


「くそうぜぇガキだぜ」


「別にいいもん。アタシ、おばあちゃんと約束したもんね!」


「あ? 何をだよ?」


「パパをボコボコのケチョンケチョンにしておやりって頼まれた!」


 備前のコメカミに青筋が浮かぶ。


「上等だ。やってみろや」


 備前はすかさず両拳で加奈子のコメカミを挟んでグリグリした。


「ぐわぁ~! やーめーろー!」


 加奈子は悶絶して膝を屈し、手を地につけた。


「ちょ、お客さん、そういうことは外でやってください!」


 施設の職員に怒られる二人。


「あ、すみません。すぐ帰りますんで……」


 慌てて謝る備前。


「ちっ! 小娘のせいで怒られちまったじゃねぇか」


「アタシのせいじゃないもん!」


「こういうときは全部バカなほうが悪いって決まってんだよ」


「あー! バカって言うほうがバカなんですぅ~!」


「は? お前、頭は大丈夫か? 要介護認定調査を受けたほうがいいぞ?」


「アハッ! パパもボケたんじゃね? 要介護は65歳からだっての~」


「お前こそ知らねえのか。生活保護には、みなし二号ってのがあんだよ」


「うっせー。バーカバーカ! お前の母ちゃん、ツイフェミー!」


「小娘もとうとう廃棄処分か……精神病院だな」


「ギャオオオオン!」


 そんなくだらない口論をしながら肩をぶつけ合うように施設を去っていく二人。


 そんな二人の様子を、老婆はベランダで微笑みながら見ていたのだった。


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