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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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閑話休題(擬似婚姻制度)・絶望家族(10)


 その日の夜、備前は無悪を自宅に招いて酒を振る舞っていた。


「聞いたよ無悪君。あの元妻からやり直しを持ちかけられたんだって?」


「そうなんですよ。でも、今さら腐った生ゴミを近くに置いておきたくないじゃないですか。正直に自殺してほしいと要望を伝えたら諦めていきました。ははは」


「それはずいぶんと重いね……」


「だけど備前さん。こういうケースだと、俺と同じように考える男性がほとんどだと思うんですよ。昔からこういう言葉もあるじゃないですか。『覆水盆に返らず』の語源のとおりです」


「そうだな……最近はそういう相談も多くなってきたよ」


「あ、やっぱり僕のほかにも同じような男性は多いんですね。どんな感じなんです?」


「それで復縁してしまう男性も実際にいるんだがなぁ……バカを見る前にやめておけと言いたいよ。そういうのに限って変な条件をつけたがって相談してくるんだ」


「条件をつけたがる?」


「いわば再婚にあたっての婚前契約みたいな感じだな。基本的に離婚時は男性側が不利になるから、その後、妻子が困って縋ってきた場合は報復的な条件を考える」


「離婚時にやられたぶんをやり返すような条件ってことですよね……?」


「すごいもんだぜ? ツイフェミが真っ赤になるような面白い奴隷契約さ」


「で、でもそういう公序良俗に反する契約って民法とかで無効にされるんじゃ……?」


「お! さすがは無悪君だね。ほかにも愛人契約や殺人契約、自殺契約など普通に考えて度が過ぎる契約は強行規定といって民法90条で無効とされている。例えばそれを合意のうえだと公正証書などに残したとしても、公正証書は契約の有無を保障するだけで、契約の有効性を保障するものではないので無効な契約はどこまでいっても無効となる」


「ちなみに、どんな条件が相談されるのか参考までに聞いてもいいですか?」


「いいぜ? 今から言う条件を聞いて驚くなよ? 最初に断っておくが、どちらの性別がAかBかは言わないでおくから勝手に誤解してギャオオオンしないでくれよ?」




・Aは下記条項に違反のない限りBの生活費を一部負担し、A所有住宅への居住を許可する。


・掃除、洗濯、料理、Aの親の介護、その他家事、育児はすべてB負担する。


・Aが食事、飲料、入浴、睡眠、着替え、買い物、親の介護、子の送り迎えなどの生活上の要望・指示をした場合、Bはただちに行動に取り掛からなければならない。


・BはAの親族からの要望に対してもAに準じて行動しなければならない。


・Aが得た財産はすべてAに帰属する。


・Aの収入が減少した場合、その範囲内でBは自身の収入をAに手渡す。(現金で記録に残さない)


・Bが得た財産は家賃または生活費繰り入れとして月◯万円をAに手渡す。(同上)


・Bの財産はすべてAが管理できる。


・BはAの防犯上の都合による居宅内設置のウェブカメラ撮影・監視をいかなるときも承認しなければならない。


・Bはいかなる場合も携帯端末を所持し、Aに対し位置情報を提供しなければならない。


・Bは所有するスマホ等端末の全情報、所有財産情報のすべてをAに公開する。


・BはAの寝室ほか◯◯へ侵入することができない。


・Bの動物飼育行為を禁止する。


・妊娠時はDNA検査必須。


・Bは必要に応じ、自身のすべての交友関係をAに開示しなければならない。


・BはAに対し、Aから求められた場合を除き話し掛けない。


・BはAに対し、Aから求められた場合を除き視界に入らぬよう努力する。


・BはAの気を妨げてはならない。テレビ、スマホなどで音を立ててはならず、Aから注意された場合は速やかにその行為を中止する。


・Bはその他生活上の都合によるAの決定には従わなければならない。


・AとBは婚姻も内縁関係も持たない。


・Aの人間関係、生活態度に異論を述べない。


・BのAに対する要望を禁止する。


・BはAに対し当契約条件の緩和を求めることはできない。


・Bは世帯内外を問わずAへの不満等を漏らしてはならない。


・Bは世帯内外を問わずAの代弁、代理行為等をすることができない。


・Bは自身や親族によってAに不利益な行為をすることができない。


・Bは自身の親族との関係を断つ、または親族がAに接触することを防がなければならない。


・Bは当契約の内容の全部または一部を他言できない。


・Bの違反行為に対しAは新たに罰則規定を設けることができる。


・AはBに対し外出を禁止することができる。


・当契約の解消時は両者すべての財産をAが自由に配分できる。


・上記に違反した場合Aは即刻Bへの居住許可を取り消せることとしBは異議を申し立てない。




「完全に奴隷契約じゃないですか。奴隷という言葉を使ってないだけで」


「だがこれの本質は、男性たちはこれを本当に実現しようとしていないということなんだ。ツイフェミのように、ああしろ、こうあるべきと言うわけではなく、あくまで『嫌ならどうぞお帰りください』というスタンスであることだ」


「誰だって元妻なんか死んだほうが清々するくらいですからね」


「そう。そして自立している男性にとってはこれくらいの条件でないとメリットどころか同居のデメリットのほうが大きくなることすらある。元妻の存在自体が不快なのだから」


「なるほど……要するに男性は、離婚して立ち直した生活が再び荒らされそうになるのを拒絶、守りたいだけなんですね」


「そう。契約が無効になることなんかわかりきっていても、回れ右をしてほしくて無理難題な条件を出している側面が強い」


「強行規定は元妻のほうが不利益に合意していても無効になりますからね」


「だから俺が男性に言うのはいつもこうだ。全力で逃げろ。もはやこういうクソ女から自分を守るためには男は逃げるしかねーんだ。ルールは守っちゃくれねーぞ。無悪君も元妻からの関係修復を求められるままに受け入れていたら、さらなる悲劇が待ち受けていただろうな」


 無悪は苦笑いだった。


「男性には救いがないんですか?」


「強いて言えば、世間一般的に公平に見える程度の内容なら契約は有効だ」


「でもそれじゃあ、あまりに男性側にメリットがなさすぎる」


「だな。強いて言うならこんな規定は有効だってのを挙げよう。『Bは離婚時の財産分与においてAに対し不公平な利益を得たと認識しており、その一部または全額としてAに対して○円を贈与する意思を有する。Bはこの合意に基づき、Aに対して当該金額を○年○月○日までに返却または贈与するものとする』という一文は少なくとも有効だろう。ただし贈与の場合は贈与税に注意が必要だがな」


「なるほど……」


「ここまで男女分裂が進むと、正直もう法改正を検討する以外に解決策がないようにすら思えるよな……これ、離婚した男女以外にもわりと当てはまってしまう部分もあるから」


「マジで自分の生活ですら切羽詰まっている人が多くなってますからね、最近」


「と、いうわけでだ。ここからは法律のプロでも意見が分かれる領域に踏み込んでいこうぜ? 自分を守りたい男を保護する観点と、不利益な条件でも飲んでもらえないと困る女を守る観点、その両方からだ」


「たしかに。女性からしたら回れ右されたら困るから少しくらいの不利益な条件なら了承するって人もいるかもしれません。それを無効とされたら逆に男性から見向きもされませんし」


「そう。だから俺は、どのくらいの不利益なら有効と判断されるのかの目安を作っていきたいと思っている。合法的かつ公平な条件を模索することは男女両方にとって有意義なはずだ」


「そのあたり、誰も表立って自分の意見を言いませんもんね。炎上が怖すぎて」


「だが、勇気をもって踏み込むことも必要だと思うんだ……どうだろう? 先に挙げた条件の中で、気に入った条件はあったかい?」


「どうでしょう……? どれも人権に関わってそうですからね」


「ははは。人は人権を殺せないが、人権は人を殺してくるいい例だな」


「酷い言葉ですね」


「幸い、最近の俺には妖精さんが憑いているようなんでな。いろんな妖精さんの意見を集めながら少しずつ形にしていけたらと考えているんだ」


「じゃあ僕から……AとBは婚姻も内縁関係も持たない。これなんかどうです? 不公平じゃないですよ? 婚姻関係がなくても事実婚と看做されてあとから年金折半なんてされるケースもあるから、あえて明言しておく必要はあるかもしれないですね」


「お、いいぞ。そうなると、ほかの条件もたとえ無効になっても、あえてここまで関係が破綻していると記録しておく意義が出てきそうだ」


「ほかには……掃除、洗濯、料理、Aの親の介護、その他家事、育児はすべてB負担する。これは役割分担ですから、公平に見えるよう調整すればいけますよね」


「だろうな。家事は1,000万円相当の仕事なんて言ってるバカがいるが、家事なんざ一円の生産性もねーよ。どうしても価値をつけたいなら年収200万円くらいの弱男だって自分で全部家事をやってるんだから年収1,200万円とみなせってところだな。正直、俺は全部やらせても公平だと思ってる。嫌ならどうぞお帰りくださいで解決できる部分だ。ちゃんと明文化しておけ」


「ほかには……そうですねぇ。逆に備前さんの考えを聞いてもいいでしょうか?」


 無悪が聞くと備前は笑って答えた。


「俺かい? 俺なら合法的にこの奴隷契約を全部押しつける方法を考えるね」


「マ、マジすか……? いまさっき民法90条で無効って言ったばかりじゃないですか」


「だから、俺ならそれを回避する方法を考えるってことだ」


「ど、どうやるんです?」


「一方的な契約がダメなら公平な契約にすればいいんだ」


「でも公平な条件にしたら。結局は婚姻制度のぶん男性が不利じゃないですか」


「だから婚姻制度は使わずに、擬似的に婚姻状態に近い状態を作る」


「……僕には意味がわかりません」


「何も一つの契約で奴隷契約を結ぶ必要はないのさ。要するに一つ一つは公平に見える契約を複数合わせて、実質の隷属状態を構築する」


「……た、例えば?」


「1.賃貸借契約。男が女に自分の部屋に住まわせる家賃として、例えば月10万円を受け取る契約。不履行なら退去可能となるように定期更新にすると良い。公平だよな?」


「普通に大家さんと入居者の関係ですね」


「2. 業務請負契約。女が家事をする対価として、男が女に月10万円を支払う契約。家事をサボったら減額する条件つければ微妙に家賃が足らなくなる。公平だよな?」


「家事の業務請負……家政婦さんは合法ですね」


「3. 金銭貸付契約。足りない家賃は借用書を書かせる。なんなら女の親族に連帯責任を負ってほしい。嫌なら出て行けばいい話で強制はしない金の貸し借りだ。公平だよな?」


「ま、まさか……」


「4. 財産管理契約。女の財産を男が代わりに管理する契約。すでに多くの家庭では逆バージョンが浸透しているだろ? 公平だよな?」


「要するに、合法的に公平なルールを適用して追放できるようにするんですね……?」


「5. 強制執行認諾契約。約束不履行があった場合は裁判を経ずに強制執行できるようになる契約。なぁに、女がルールを守ってれば問題にならないんだ、公平だよなぁ?」


「……たしかに、一つ一つの契約は公平なので無効化できない……」


「だが、公平な複数契約の裏でさっき挙げた隷属ルールを決めておき、逆らったら業務請負契約不履行で対価を払わない。すると家賃が払えない。大家が家賃滞納者を追放するのは当然のルールだ。それを裁判を経ずに強制的に叩き出す」


「……だ、大丈夫なんですかそれ?」


「たしかに総合的に考えて隷属的な条件と看做されるリスクはある。だが、あくまで個々には公平で合法的な契約だ。これを簡単に無効化しちまうと法治国家の信頼が揺らぐ、慎重に判断をしなければならないから時間はかかる。その時間をすでに追放されたあとの女が耐えられるかどうかって話になる」


「そ、そうか。男側の目的はあくまで追放。合法か違法かは問わず、追放した時点で目的は完遂されてるのだから女側には時間を掛けて争ったところで……ということですね?」


「これが婚姻状態だと別居中の生活費も男が負うリスクが出てくるが、このやり方ならそもそも婚姻じゃねぇ。すでにクビ切ったあとの社員に給与払う必要があるかよって話だ」


「そ、そこまで考えて……」


「しかも仮に勝訴しても関係修復は絶望的だ。わずかな慰謝料を求めたとしても男側には公平なルールで貸し付けた債権が残っている……」


「マジすか……公平なルールの積み上げで奴隷契約を作っちゃえそうですね……」


「ほかに候補となるのは、債務引受契約、定期借家契約、雇用契約、負担つき贈与契約、金銭消費貸借契約……などか。このあたりは好みで調整すればいい」


「さしずめ、複数の契約を合わせてパッケージ化した『擬似婚姻制度』ってとこですね」


「ああ。子どもを産めない女、無職女、無悪君のケースのように再婚を求めてきた女に対しては既存の婚姻制度を用いては損をするからな。メリットのない女にはこの擬似婚姻制度を叩きつけろ」


「そっか……これで回り右してくれれば男もラク。受け入れたとしても奴隷ゲット」


「条件をもっとマイルドに調整すれば初婚同士でも真の意味で公平な婚姻関係を模索することができるというわけだ……これからの時代、擬似婚姻制度は男側の新しい選択肢となる」


「……実際、結婚なんかしたくないって男、増えてきてますからね……」


「来るぜ、時代の反動が」


「これ以上に男女分断が進んだら少子化が……国が滅んじゃいますよ」


「だが、滅んじゃいけない理由なんかないぜ? 特に弱者男性にはな……むしろ滅べ、地獄に落ちろとさえ思ってんじゃねーのかな」


「どうせ自分の代で終わりだからって精神ですね」


「どのみち少子化するんだから、どうせなら徹底的に男女分断を煽ってやろうぜ。なんなら俺の発言を君が炎上させてくれたって構わないよ」


「それすら備前さんの思惑に含まれてそうですね」


「国が滅ぶ直前ともなれば、安楽死制度とかワンチャン狙えそうだしな」


「あー……備前さんはそっち狙いでしたか……」


 備前は軽く鼻を鳴らして笑った。


「話が逸れたが、ともかく俺はこの議事婚姻制度の考えをもっと拡散すべきだと思っている。そしていろんな人の知見を持ち寄り、男性の利益を保護するために、より良い制度構築を目指して意見を集めていきたいと思う」


「妖精さんとやらにも意見をいただきたいですね」


「男側の合言葉は、『嫌なら消えろ』だな」


 男たちの酔った勢いによる議論は白熱し、夜も更けていった。




 ※フィクションです。



 いつもお読みいただきありがとうございます。


 個人的な話をすると中立的な立場でどっちでもいい問題なんですが、子どもたちの世代が気の毒なので、できれば少しでもいいカタチの社会を残したいんですよね。

 もしかするとこの閑話休題の部分は改稿を繰り返したり削除もありえそうです。


 コメントを求めると大荒れしそうですが、もともと作品自体が殺伐としそうな生活保護テーマをあえて取り扱ってる部分もありますので、他の人の意見を批判しない条件でご意見がある人はコメント寄せていただけると嬉しいです。


 ※あまりに酷いツイフェミ的意見は勝手に削除することもありますが。

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