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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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更年期サイマー女(5)


「まだある!」


 加奈子は叫んだ。


「あ? なにがだよ」


「聞きたいこと、まだある!」


「いい加減、説明に疲れてきたな」


「そ、そんなこと言わないでよ~。ほ、ほら。ちょっとおっぱい触ってもいいから」


「マジでウゼェんだよな~ガキが」


「そ、そんなぁ~……アタシ、そんなに魅力ない?」


「いい加減にしねぇと、もぎ取るぞ」


「も、もぎ……!? それはちょっと」


「ったく、ウゼェからとっとと聞け」


「うわぁい! パパありがとー!」


 加奈子は備前の腕に飛びついたが、備前はそれを即座に振り払った。


「残る破産と税金滞納のことか?」


「うん! 社会福祉の勉強にはちっとも含まれてなかったよ?」


「そうだろうな。だが覚えておけ? と言うよりも考えてみろ。滞納者、破産者、生活保護者……それぞれの範囲を円で表したとき、それが深く重なり合ってることくらい想像にかたくないだろう?」


「そりゃあね」


「ほかにも犯罪者や障害者など、この重なりに混じってくるものもあるから、何度も言うように生活保護以外の分野も覚えておいて損はねぇ。だから今の小娘みてぇになんでも興味を持って聞いてくる姿勢は褒めてやる」


「うわぁい! パパに褒められた!」


「だがな……」


 加奈子の頭にゲンコツが落ちた。


「いったぁい! いきなり何するんだよぉう」


「お前、自分をもうちょっと大事にしろよ」


「触ってもいいって言ったこと? まるでパパみたいなこと言うなぁ……まぁ、わかったけど」


 加奈子は口を尖らせた。


 備前は鼻を鳴らしてから改まって言う。


「そうだな、まずは管轄から教えてやろう。破産は裁判所。所得税や消費税は税務署、普通自動車税は都道府県税事務所、軽自動車税と住民税と固定資産税と国民健康保険税は市区町村の役所。あと税金じゃねーが似たようなもんで年金は年金事務所だ」


「うおぅ……お、覚えるよ? もちろん!」


「あれ? そういや小娘の年金免除申請ってしたっけか?」


「パパ? アタシまだ19歳。年金は二十歳から?」


「お、おう。そうだったな。すまん、小娘の歳を忘れてた」


「ていうか、パパ、本当にアタシに興味ないんだなぁ……ちょっとショック」


「ま、まぁ下心があるよりいいじゃねーか」


「持てよ! 下心! こんなかわいい加奈子ちゃんが目の前にいんのに……自信なくすわ」


「お、おう……まだ根に持ってんのか。仕方ねぇ、少し揉んでやるから」


「もぎ取るからヤダ!」


「どっちなんだよ手に負えねぇな……」


 備前は肩を落とした。


「仕方ねぇ……20万の臨時収入が入ったからな。なんかウメェもんでも食って帰るか。それで許せ」


 それを聞いた途端に加奈子の顔は華やぐ。


「うんっ! 許す!」


「ったく、毎度こんなのに付き合ってたら俺が破産しちまうよ」


 備前はげんなりした顔で言った。


「そういや破産についての話が途中だったな。あとで裁判所に行くとき小娘もついてくるか?」


「もち! 行くっきゃないっしょ!」


「必要なのは住民票や戸籍、所得証明書など役所で取る証明書類」


「だからさっき証明書申請の委任状を貰っておいたんだね」


「あとは収入のわかる明細書や通帳等のコピー。住居の賃貸契約書や水道光熱費などの居住実態がわかる書類。本人由来のものだ」


「これはあとで用意しておくよう言ってたね。あとでアタシが取りに行くやつ!」


「残るは破産申立書と陳述書。それから資産目録だ。ちょっとしたコツを掴めば個人でもできるが、これは俺が作っておいてやる」


「そういえば、資産とかがあっても破産ってできるの? 持ち家でしょ?」


「だからまだ登記されてねぇってことを聞き取ったんだろうが。まぁ本当は相続済みだから良くはねぇんだが、本人も把握してなかったってことで俺が上手く手続きしてやんだよ。バレたらバレたときにサーセーンってすればいいんだ」


「そうだった……パパ、クソ悪人だった……」


「懸念事項とすれば債権者の存在もあるが……ま、あとのことは知らん。どうせ何か知ったところであの女はもう生活保護になってるだろうからな、手を出す意味を失ってんだろうよ」


「意味がわからないけど、パパがクソだってことはわかる」


「現実ってのは案外ルールを緩~く扱ってんだよ。仕方ねぇだろ? 誰にだって間違いや見落としはあるんだからな。手順どおりルールどおりにいかねぇこともある。だが手続きは進む」


「ひっど! 良くわかんないけど、ひっど!」


「知ってる奴だけが知ってりゃいいんだよ……あとで小娘にも教えてやる」


「あうぅ~……アタシまたパパに汚されそうになってるぅ……」


 加奈子は少し備前から距離を取った。


「でだ。破産には二種類あって、無一文で即時終わる同時廃止事件ってのと、財産を処分して債権者などに配当して清算する管財事件ってのがある」


「事件!? 犯人がいるの!?」


「言うと思った……が、いねーよ。そういうもんなんだ」


「なぁんだ」


「で、同時廃止と管財では、もちろんかかる費用も違う」


「どのくらいちがうの?」


「費用的には主に手続きに必要な印紙代が同時廃止事件なら申立手数料込みで1万3500円、管財事件だと最低約20万円。あと即時で終わんねーから色々面倒だ。ほかには両者とも債権者とかに通知を出すようなので数千円分の切手を預けておく必要があるな」


「パパは費用が安い同時廃止でやっちゃおうとしてるの?」


「まぁな」


「でもさ。パパ、良く人に破産しろだなんて勧められるよね。アタシびっくりしちゃったよ。破産って言葉、あまりいいイメージがないから」


「あまり縁がない人間だとそんなイメージを持った奴もいるよな。だが合理的に考えれば債務者を救済する側面が強い。先入観にとらわれず、借金がチャラになるメリットを考えろ」


「あ! アタシ超天才かもっ! お金を借りまくって破産、借りまくって破産って繰り返せば……うっへっへ」


 その瞬間、備前のゲンコツが落ちた。


「いったぁい!」


「最後まで聞け! そんな借りパクしホーダイの夢のような制度があるわけねーだろ!」


「ど、どんな良くないことが……?」


「まず破産後7年間は破産手続きできねーよ。それに信用に傷がついた人間にポンポン貸す奴がいるかよ。ローンが組めなくなったり、特定の職業に就けなくなる」


「ど、どうして……? 破産したのを黙ってればワンチャン……」


「官報に載るんだよ」


「カンポー?」


「国がやってる公報。それが官報だ」


「そんなのに載っちゃうの!?」


「名前や住所がな。事件名に記号がついていてな。(フ)が破産で、(ケ)が競売とかだ。意外と近所の人間が載ってたりしてて面白ぇ。過去のもネット検索できるしな」


「うわぁ……晒されまくりじゃん」


「誰か破産者情報をマップに落とし込んだアプリ作ってくんねーかなぁ。某スマホゲーみたいに位置情報と合わせたりしてさ」


「ハサンシャGOなんて誰もやんないよっ!」


「俺はやりてーけど?」


「……そうゆー人だった」


「あ! 野生のモンスターが出てきた! って石を投げればいいんだっけか?」


「ボールだよっ! じゃなくて、サイアクだな!」


 備前は鼻で笑った。


「ま、メリットとデメリットを比べて破産するかを判断しろってことだよ」


「はぁい……アタシ、そうなんないようにする」


「良し、いい子だ」


 備前は加奈子の頭に手を置いて撫でた。


「じゃあさっきの人は、こんなデメリットと天秤に掛けてまで破産を選んだんだね。たった50万円の借金のために」


「たった50万か、50万の大金か。人によって違うことも覚えておけ。数万のために人を刺しちまうような奴もいるんだからよ。……なかには放火しちまうような奴もな。実際に俺は見てきた」


「……はぁい」


 加奈子は重く頷いた。


「でも、これであの人は借金から解放されて、心穏やかに暮らせるようになるんだよね」


「ま、破産しても税金は残るけどな」


「そ、そうなのっ!?」


「あの女自身も言ってたじゃねーか。破産じゃ税金は消えねーんだよ。ほかにもギャンブルの借金は破産できねーとか、なんでもかんでもチャラってわけにはいかねーのも破産だ。しかも破産のほかにも似たような制度があってだな」


「マ、マヂ!?」


「あとはそうだな……破産したあと、自ら依頼した弁護士等への支払いに困窮する奴らも意外と多い。笑えるよな」


「だ、だからパパは今回、ソッコーで回収したんだな?」


「追々詳しく教えてやるが、ま、これで残る疑問はひとまず税金だけになったな……じゃあ続いて残る税金滞納をどうすればいいのかだが……」


「ちょっ! ちょっと待ってパパ!」


「ん? どうした小娘」


「ごめん。教えてもらっておいてなんだけど……アタシ今、頭ン中、破産しそうなんだよね」


「そうか。あの女の話もまとめておかなきゃならんし、ちょっと詰め込み過ぎたか」


「うん……ちょっと整理しておきたいかも」


「なら、今日は約束どおりウメェもんでも食って、さっさと帰ろうか。何が食いたい?」


「今日はファーストフードにする……ハンバーガーがいい」


「なんだ珍しい。寿司や焼肉じゃなくていいのか?」


「い、今覚えたことを忘れないうちにまとめたいんだよぉ」


「なんだ、そういうことか。感心だな」


「もうアタシ、頭パンパン」


「なるほど、それでハンバーガーなのか。パンとパンでハサンだな」


「あああああああああああああ!」


 加奈子の絶叫に備前は驚いて飛び退いた。


「今ので全部、吹っ飛んぢゃったよぅ……」


「ぐぅ……」


 備前は強烈に顔をしかめたあと。


「こんのバカ娘がっ!」


「あぶぅ!」


 両手で加奈子の顔をはさんだ。


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