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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
オムニバスパート

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更年期サイマー女(1)


 その日も加奈子は備前の部屋で教えを請うていた。


「パパってさ。こないだの見つかんない口座の件もあるし、もしかして逃げようと思えば税金の取り立てからも逃げられる人?」


「どうかは知らんが、敵を知り己を知れば百戦危うからずって言葉があるくらいだからな。俺は税金の世界にも明るいぞ」


「さっすが! 実はそんなパパを見込んでお願いがあるんだよ~」


「なんだ?」


「実はね、今アタシが連絡を取ってる新たな相談者さん、借金まみれなんだって」


「借金は税金じゃねーし、税金は借金じゃねーぞ」


「わかってるけど、もう相談者さん自身がわけわからなくなっちゃってるみたいで、わかっているのは税金にも借金にもいっぱい残っているってこと」


「なんでそんなことになってんだ。いや、聞かんでもパターンが思い当たるが一応な」


「最初は気晴らしの買い物でリボ払いにしちゃったのが始まりなんだって。次第に際限がなくなってアッチから借りてコッチへ払って、コッチから借りてソッチへ払って……って感じらしいよ。そこへソシャゲの課金も重なって……」


「最もスタンダードな多重サイマーだな」


「サイマー?」


「債務のer(イーアール)形だ」


「さいむ? いーあーる?」


 備前は頭を抱えた。


「小娘よぉ……教えたこと以外は本当に何も知らねーバカだな」


「あはは~! うん! アタシまだめっちゃバカ!」


「褒めてねぇよ」


 備前はとうとう目を瞑った。


「シング! 歌を歌う奴をシンガーとか言うだろ。その変化の形がerだ。正式名称じゃねぇが伝われよ」


「あ~ね~」


「んで債務ってのは、相手に対して何かしてやる義務のことだ」


「何かしてやるってナニ?」


「金を借りたら返す義務があるだろ? それが債務だ……どうした小娘、驚いたような顔をして」


「パパならきっと借りた金は返さなくてもいいとか言うかと思った……って、いったぁい!」


「ったく、フザけやがって」


「わかってるよぅ。アタシはパパに恩を返す義務がある! だね!」


「お、おう……わ、わかってんじゃねーか小娘」


「あ! パパちょっと照れてる……って、いったぁい! またぶった!」


「くそ……俺の手のほうがイテェ」


 備前は右手の拳をさすった。


「とにかくそいつは少し頭が足りねーか、狂っちまったスタンダード()サイマー()ってことだ」


「課金してたら自分がSSキャラ化しててワロタ」


「で? そいつをどうしたいんだ?」


「アタシも詳しい話はまだ聞いてないんだけどさ。生活保護も考えてるみたいだから、パパさえ良ければ一緒に話を聞いてもらいたいなーって。どう?」


「そうだなぁ……ほかになにかわかっている情報はないのか?」


「40代の女性だって」


 備前は露骨に嫌な顔をした。


「あぁ、もうお察しだ。吐き気がする」


「そんなに!?」


「独身、実家暮らしじゃねぇか?」


「そ、そこまではまだ知らないよ。まだ何通かのメッセージだけだもん」


「なるほどな……ま、生態は予想できたよ。素質はありそうだからな、一応は会って話を聞いてやるか」


「うんっ! パパがいれば百人力だぁ!」




 相談者との面接に向かう前に備前は玄関の前で加奈子と待ち合わせをした。


 加奈子は備前のスーツ姿を見て驚いた。


「パ、パパどうしたの? そんな気合が入った格好をして……」


 備前はスーツ姿に髪型も綺麗に整え、見事に磨かれた革靴を履いていた。


「良く見ればお髭も眉も整ってる……いつものパパじゃないみたい」


「ん? まぁ俺も人並みの格好をするときもある」


「そんな格好をつけてどうする気? あ! もしかして相談者さんの前でいいカッコしたいんだな!? 佳代さんに言いつけてやる!」


「40代のババァに興味なんざねぇんだよ!」


「じゃあなんでカッコつけてんだよ~! いつもはダラダラしてるくせに~!」


 そこで加奈子は備前の左手の薬指に指輪まで填められていることに気づいた。


「うわっ! 離婚して独身のくせに既婚のフリまでしてやがる」


「こいつは小娘にゲンコツ落とすためのメリケンサックなんだ」


「うわ~っ! ウソですごめんなさいっ!」


 加奈子は頭を抱えて蹲った。


「ま、これはちょっと見栄えを整えるためだ。ちょっとしたクソ女センサーだな」


「意味わかんなすぎワロタ」


 備前は鼻を鳴らした。


「誰もが小娘みてぇにバカ正直に生きてるわけじゃねーんだ。むしろ腹の中に何かを隠して会話をしているほうが普通なんだ」


「あ~……まぁそうだよね」


「俺の見立てでは、今日の相談者はそういう傾向が今までよりも顕著だろう」


「アタシにはケンチョの意味がわからないケド」


「今日の話は一見すると相談者の悩みを聞きだしたりと、腹を割って話をしているように聞こえるかもしれん……が、たぶん色々なところに矛盾を含んでしまうだろう」


「そなの?」


「見栄やプライド、または損得……そういった理由から何かを隠したがる人間ってのは多い。そしてその人間が何に重きを置いているのかは本人にしかわからない。ゆえに何を隠しているのかまではわからない。が、隠したいがあまりにそのほかの部分に歪みとなって表れることがある……もしかしたら話の辻褄が合わないこともあるだろうし、ウソも含まれるかもしれない」


「自分から相談を持ちかけておきながらウソをつこうとはフテェやろうだ」


「場合によっては辻褄が合わないのみならず、表面上の会話が噛み合ってないように聞こえることもあるだろう……だが、それも裏で心理的なやり取りがあって成り立つちゃんとした会話なんだ。こういうことは良くある。相手の心理背景も予想しながら聞いてろよ」


「む、難しそう……」


「ちゃんとあとで解説はしてやるつもりだが、いちいち細けぇところまで全部網羅できんかもしれないからな。相談中、小娘は何が本当で何が嘘か自分なりに考えてみるんだ」


「わかった!」


「だが、たとえ相談中にそれに気づいても、決してその場で指摘するなよ? お前はそういうところでトラブルを起こしそうだからな」


「パパ良くわかってんじゃん」


「偉そうに言ってんじゃねぇ」


 備前は呆れたように言った。


「とにかく、相手がそうくるかもしれんから俺も身構えておく。身なりもその一環だ。例えば既婚のほうが堅く見られるだろうが、なにも独身者が左手の薬指に指輪をしてはいけないルールはないだろ。俺の予想としては誤解させておいたほうが得だと踏んだんだ」


「あ~……ウソは言ってない(・・・・・)ってことだよね?」


「そういうことだ。ま、場合によってはウソもつくがな、今日は」


「今日はって、パパいつもウソついてるくせに……って、いったぁい! わざと指輪のところでぶったぁ!」


「これはメリケンサックだと言ったろう?」


「ウソだろクソが~」


 そんな会話をしながら二人は待ち合わせのファミレスに向かった。


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