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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
前章

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ホームレス(6)


 備前と加奈子が公園に着いたとき、坂下は人目に付きにくい茂みに、顔面から血を流して倒れていた。


 その足の片方には不自然な歪みがあり、その傍らには血痕が付着した野球のバットが転がっている。


「亜人のやろう……バットの片づけを忘れてやがる」


 備前は鼻で笑った。そして苦しみ呻く坂下の前に屈み、睥睨する。


「よぉ坂下。おつかいも満足にできねぇな……預けた金は返してもらうぞ」


「だ、旦那の差し金だろ、あの覆面男は……」


「さぁな、証拠はないんだろ?」


「痛ぇよ、助けてくれよ旦那……」


「笑わせるな。助けたところでお前、金がねぇんだろ? 俺になんの得もねぇ」


「死んじまうよ……」


「それも仕方ねぇだろ。生活保護ってのは最後の手段なんだ。それをバカみたいに使いきったのだから死ねばいい」


「死にたくねぇよぉ」


「なら仕事をしろ。お前にしかできない仕事をさせてやるからよ」


 そう言って備前はスケッチブックとペンを取り出した。そしてそこへ『殴られ屋』と大きく文字を書き込む。


「お前にしかできない仕事だ」


 そしてそのスケッチブックを立て掛けるように坂下の前に仮置きした。


「小娘。メニューくらいは俺たちで書いておいてやろうぜ?」


 加奈子は合点がいったとばかりにスケッチブックを拾ってペンを握る。


「そういうことかっ! それいいねパパ!」


 二人は坂下を笑って睥睨する。


「パパ、どんなメニューにする?」


「例えば基本は……一発殴る、100円。ライター炙り、1秒100円」


「あいあい~」


 加奈子は喜々としてスケッチブックに書き込む。


「お、おい旦那、冗談は止めてくれよ……」


「なんだ、もっと大きく稼ぎたいのか。ならバットの置き忘れがあるしちょうどいい。バット殴打一発、500円」


「ち、違う旦那。俺はそんなこと……」


「黙れ」


 備前は低い声で坂下の言葉を遮る。


「ホームレスの分際で、殺されようが文句を言えると思うな……小娘が助けてやった恩をお前はどうしたんだ?」


「わ、悪かった……俺が悪かったから!」


「謝ったからなんだ? その気があるなら最低でもお前が散財した金額を自分で稼げ」


「そんな。こんな身体じゃ無理だよ旦那。足も折られてんだ」


「ははは。足も折れて流血顔、すでに誰かが利用したあとに見えりゃあ新たな客も買いやすいだろう? その場で痛がるだけの簡単なお仕事だ。……ドライバーひと刺し1000円。指折り1本2000円、骨折り1本5000円」


「ちょ、旦那! それはさすがにシャレにならねぇよ」


「大丈夫だ、医療費は生活保護で出るからな。元手が不要のいい仕事じゃないか」


 備前は坂下に笑い掛けながら続ける。


「指切断1本1万円。眼球くり抜き1つ5万円。四肢切断1本10万円……」


「ちょ、旦那。止めてくれ! それは無理だ! しかも値段! 安すぎる!」


「ちょっとお前うるせぇな。安いも何もお前にゃ価値がねぇだろうがよ……小娘、客にやめろとか言わねぇように口を塞いどけ」


「あいあいさー!」


 備前が取り出した紐状の布を加奈子は受け取って坂下の後ろに回る。


「お、おい嬢ちゃんまで! お、おい……むぐぅ! ……ん~! ん~!」


 坂下はもう呻き声しか発せない。


「小娘、何か他にいいアイデアはないか? 坂下にもできる簡単な仕事を考えてくれや」


「あ! それならいい案があるよ!」


「さすがだ小娘、言ってみろ」


「コイツさ、アタシにセクハラ言ってきて本当に気持ち悪かったんだよね」


「なるほど盲点だったな、大事な1本が残っていたか」


「あはっ! チンコ切断1本1000円で!」


「ははは、お求めやすい価格設定だな」


「んんん~!」


 二人は楽しそうにメニューをスケッチブックに書き足すが、備前はふと何か思い出したように言う。


「そう言えば昔、宦官の小説で切除後には尿道に白蝋の栓を刺しておかないと尿毒症で命を落とすと読んだことがあるな」


「あは、アレ切ると男って死ぬんだ~」


「さすがに現代の医術なら高度な手段もあるだろうが……どうだろう小娘。特別な付加価値を付け、チンコ切断手術体験1万円くらいでどうだ? 小道具なら俺が用意してやるぞ」


「パパ天才かっ!? しかも10倍の価値にしてあげるとか、やっさしぃ~!」


「んんっ! んんん~っ!」


 坂下は叫ぶが二人は文化祭の出し物を相談しているかのように和気あいあいとスケッチブックを彩っていく。


「ねぇパパ。これ、文化祭の準備みたいで楽しいねぇ~!」


「おぉ。小娘お前、絵がすげぇウメェな」


「ありがとっ! ポップで買いやすいイメージにしてあげないと! 学割入れちゃう?」


「いいな! そろそろ高校生の下校時間になるだろ。売れるぞ、これは」


「んんん! んんん!」


「手術体験用の白蝋はどうするか……ま、駄目だろうがコンビニでロウソクでも買ってくるか」


「あはっ! むしろそれがいいよ! 火をつけたらキャンドルみたいじゃん!」


「すげぇな。お前の発想には脱帽だ小娘」


「えへへ~! あ、大丈夫だよおっちゃん! ちゃんと同意のうえだって書いといてあげるから!」


「んんっ! んんんん~っ!」


 坂下は涙や鼻水を流しながら、額を地面に擦りつけて二人に許しを乞う。


 備前はそんな坂下を鼻で笑って言う。


「なんか勘違いしてねぇか坂下。俺たちを悪人みたいな目で見るなよ……俺たちがいったいお前に何をしたって言うんだ?」


「あ……そう言えばアタシたち、小道具とスケッチブックを忘れて帰るだけで、コイツには何もしてないよね」


「そうだ。俺たちには、お前に止めてくれなんて懇願される覚えはねぇなぁ……」


 備前の顔は邪悪に歪む。


 坂下の顔は興奮のせいか赤黒い色に変色を始めていた。


「ははは、落ち着け落ち着け。その顔色は高血圧か? どうせお前、路上生活で何か病気抱えてんだよ。自律神経が乱れての急上昇とかだとしたら最悪、高血圧緊急症とかで脳血管プチンと死ぬんじゃねーのか?」


「うわ、すげパパ……マジ指1本触れずに実は殺そうとしてる?」


「それでも構わんが、どうするよ坂下?」


「んんん~っ!」


 備前は屈んで坂下の髪を鷲掴みにし、坂下の顔を自分の眼前にまで持ち上げた。そしてその顔面にツバを吐き掛けて、冷静さを取り戻すための手伝いをしてやる。


「ホームレスってのは儚い存在だな……何をされても誰も困らねぇ、気にも止めねぇ」


「んん! んん!」


「お前が勝手に逃げ出したせいで小娘は気を揉んだ……失った信用を取り戻すためには、お前は相応の代償を払わねばならん」


 坂下は備前に従順の意思を示すように首を縦に振っていた。


「助かりたければ、残った片足で自室まで歩け。そして残った足は自ら砕くんだ……そうすれば俺たちはもうお前が勝手に抜け出せねぇと信用できるかも知れねぇ」


 その条件を聞いて坂下は逡巡した。


「言っておくが今までお前が浪費してきた人生のように潤沢な時間はねぇぞ。俺たちは今すぐにでもこのスケッチブックを忘れて帰る」


「んん……」


「しかもだ。俺たちが去れば覆面男もバットを回収に戻って来るかも知れんな?」


「……」


 坂下が大人しくなったのを確認して、備前は坂下の口を塞ぐ布を外す。


「無理だよ旦那、折れた足が動かすだけで痛ぇんだ。歩くなんてとても無理だ……」


「構わんよ。ただし、俺たちはここまでだな」


 備前は坂下を突き飛ばし、睥睨する。


「俺たちはお前に何もしていない。お前は覆面男の正体を知らない。やるせなかろうが、それがお前が選択したホームレスの末路だ。生活保護も失踪で取り下げておいてやるよ……どうなるかは知らんが、この先は自分で頑張ってくれや」


 立ち上がって踵を返した備前に食い下がるように坂下は手を伸ばす。


「わかった、わかったよ旦那。アンタの恐ろしさは良くわかった……大人しく従うよ……足も、自分で……砕くよ。それで勘弁してくれ……」


 備前は鼻で笑う。


「なら早く立て、自分で歩け。遅ければ置いて行く。その痛みは、お前が今まで逃げ続けてきた分に追い付かれただけだ。我慢して歩け」


 坂下は歯を食い縛って両手を地に突き立て、身体を奮い立たせる。


「あがっ!」


 しかしその折れた足は僅かに衝撃が響くだけでも激痛が走ると見えて坂下の顔は歪む。


 片足で飛び跳ねるように歩いても激痛が走れば坂下はとたんに崩れるように倒れてしまう。


 その様子を備前は呆れたように笑う。


「どうした? 置いて行くぞ坂下」


「ま、待ってくれ旦那! 今起き上がる!」


 坂下は慌てた様子で再度立ち上がろうとする。


「ははは、頑張れ頑張れ。文化祭から体育祭に変更だ」


 嘲笑われようが坂下は不格好に歩く以外にない。少しでも痛みを和らげるよう、手でズボンを絞って僅かな固定効果を持たせながら、坂下は必死に歩いた。


「おいゴミ、アタシが肩貸してやるよ」


 その見苦しい姿を見兼ねた加奈子が坂下の肩の下に身体を滑り込ませて言った。


「じょ、嬢ちゃん……どうして……?」


 坂下は不思議そうな顔を見せるが、加奈子は無表情に前を向いたままだった。


「勘違いすんな。お前が歩くの遅ぇとパパに迷惑が掛かるから肩貸すんだ……余計なとこ触ったら蹴り殺すぞ」


 加奈子の睨みを受けて坂下は言葉を失う。


 そして加奈子に支えられながら帰路に就くなかで、徐々に冷静さを取り戻した坂下は涙を流し始めた。


「嬢ちゃん、ありがとう。ありがとう。こんな俺を拾ってくれて、本当にありがとう」


「うるせぇ。耳障りだ」


 加奈子は嫌悪の横顔を隠そうともせずに言った。


 そこへ備前が思い出したように加奈子へ言う。


「そうだ小娘、コイツはたしか捨て猫の代わりに拾ったんだったな。なんか名前付けてやったらどうだ?」


「え~……? じゃあポチでいいや」


「適当だな小娘。しかもそれ犬っぽくねぇか?」


「どっちでもいいよ……おいゴミ、今日からお前はポチな。ハウスから出んじゃねーぞ?」


「わ、わかった……って言うか、両足を折るんだ、出られねぇよ……」


 それを聞いて備前は鼻で笑う。


「なんなら足は切り落として障害者加算でも貰おうか。しっかり欠損しておけば、より金額の大きい上位の障害者加算が貰えるはずだ」


「だ、旦那。それだけは勘弁してくだせぇ」


「はは、根性ねぇな」


 備前は笑って加奈子を見る。


「小娘、ポチの世話はお前に任せたぞ。その代わり保護費は全額お前が貰っていい。ペットには最低限のエサを与えてりゃあそれでいいからな、たまに日持ちする保存食でも投げ込んでやれや」


「え~……? まぁ仕方ないか、元はと言えばアタシが拾ったんだもんね。生き物を拾うって、責任が必要なんだねぇ」


「今回はいい勉強になったな小娘」


「うんっ! アタシ頑張るから、これからもいっぱい教えてね、パパ!」


 こうして備前と加奈子は新たなペットを迎え、和気あいあいと帰路に就いた。



 いつもお読みいただきありがとうございます。


 今日はとても恐い話を聞きました。

 生活保護の不適切運用で渦中にあるK市の実態を暴き、要望書を出したりと活動をされてきた司法書士の中心的立場の方が最近亡くなっていたとか。

 そんな話がガチにあるのっ!?


 私は真相を知れる立場にはありませんが、どなたか事情を知ってる方は教えてほしいです。


 おや、誰か来た……?

 ガチャリ。

 どうやら君は知り過ぎてしまったようだ……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 恐らく投稿系の小説でも、群を抜いて自分の為になる小説だと思います。登場人物の背景や社会風刺なども分かりやすくコンパクトに纏まり、要点はしっかりと抑えて読み手に理解しやすい&楽しみやすい作品…
[一言] 現実は小説よりも... 俺は知りません、知らないったら知らない
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