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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
前章

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ホームレス(3)


 アパートまでホームレスの男を連れ帰った備前と加奈子は佳代の許可を貰いつつ、空き部屋の一つを解放して与えた。


「今日からここがおっちゃんの家ね」


「思ってたよりボロいな」


「おっちゃんにはお似合いだって」


「嬢ちゃんも酷ぇなぁ」


 そう言いつつも男は欠けた歯を見せて笑っていた。


「電気とガスは明日からね。生活保護申請はどうする? 今日行く?」


 加奈子は持ち前の明るさによって、帰り道のうちに男と完全に打ち解けてしまっていた。


 もはや備前にすら簡単に口を挟めそうにないほどの加奈子による独壇場である。


「早いほうがいいんだろ? ならすぐ行こう」


 男は下卑た笑みを浮かべて答えた。


「オッケー! ちょうどアタシも診断書を出しに行くとこだったんだ!」


「嬢ちゃん、どっか悪いのかい?」


「うんっ! アタシうつ病なんだ〜」


 加奈子は少しも悪びれた様子なく打ち明ける。


「おいおい、そりゃ嘘ってもんだろう」


 さすがに男も呆れたように言っていた。


「うんっ! 嘘だけど診断書でた」


「嬢ちゃんにも色々あるんだなぁ……なんなら、おっちゃんが慰めてやるよぉ?」


「セクハラとかマヂきもいから、おっちゃんは罰金で月額1000円上乗せね〜」


「嬢ちゃん可愛い顔して小悪魔みてぇだなぁ」


「ほんとっ!? やったぁ! パパとお揃いだ! パパ悪魔だから!」


 備前は呆れて首を振るう。


「小娘お前、そりゃ喜ぶとこじゃねぇだろう」


「アタシが嬉しいんだからいいの〜」


 加奈子はウキウキしながら、続いて隣にある隆史の部屋のドアを勢い良く叩く。


「お〜いキモオジ〜。お風呂貸して〜? 貸せ〜?」


 しばらくして嫌げな顔をした隆史が少しだけドアを開けたが、加奈子はそこへ差し込むように手を挟んで一気に全開までこじ開けた。


「な、なに……? いきなり来てさ……」


 隆史は視線を泳がせながら言った。


「あのさ。今からこのおっちゃん、生活保護申請に連れてくんだけど、ホームレスでクッセェから今日のとこはお風呂に入れたげて」


 隆史は露骨に戸惑う。


「な、なんで俺ん家のを使うの……?」


「だって、汚ぇおっちゃんなんかアタシん家に入れたくないもん」


「お、俺だって嫌だ……」


 隆史は困ったようにドアを閉めようとするが、加奈子がそれを許さない。


「いいじゃん! どうせいつもアタシでシコシコしてんでしょ〜? 少しくらい恩返せ〜!」


「う……別にそんなことしてない」


「嘘つくなって、キョドってんじゃん! はいダメ〜! 嘘ついたから風呂もらう〜!」


 加奈子は隆史を押し退けて隆史の部屋に侵入して行く。


 そしてホームレスの男へ振り返って手招きして言う。


「おっちゃん! キモオジん家ちょっと汚いけど上がって! お風呂入るよ!」


「嬢ちゃんも一緒に入ってくれるのかい?」


「はいセクハラ〜! さらに月額1000円追加〜!」


 備前から見れば予測不能な加奈子の言動はカオスでしかなかった。


 加奈子は勝手知ったる様子で隆史宅の風呂に湯を張り始める。


「小娘よぉ。よくもまぁ本人たちを目の前にズバズバと痛いことを言うもんだな……」


 備前は全開に開いた隆史の部屋の前で呆然と立ち尽くすのみだった。


「パパ知らないの? 言いにくいことを言ってあげないのはね、かわいそうなんだよ?」


 備前の言葉を聞いた加奈子は振り返って言った。


「どういう意味だ?」


「う〜ん……上手く説明するのはアタシ苦手なんだけどさ。じゃあ試しにアタシにブスって言ってみてよ」


「ブス」


「ぐはあっ!」


 と大袈裟に仰け反るリアクションを挟みつつもさほど気にしてない様子で加奈子は続ける。


「じゃあさ、今度はアタシが本当にブスだったと想像してみてからブスって言ってみて?」


「なんだそれは?」


「いいからいいから。もしもアタシがブスだったら! 超ブスの加奈子ちゃんだよ?」


 備前は首を傾げながらも想像をしてみる。


「……なんか、気の毒で言いにくいな」


「でしょ? つまりさ。言いにくいとか、これはタブーだなって思った瞬間、それはその人にとって大体は真実になっちゃうんだよ」


「ほう」


 備前は素直に感心した。


「だからさ、女友達でも敢えてたまに言ってあげたりするんだ。うわ〜ブチャイクだね〜って。本当は可愛い娘にしか言えないもんね」


「なるほど。だから敢えて言ってやるのが小娘なりの優しさって訳なのか」


「そうそう! ま、キモオジの部屋は本当に汚ぇし、おっちゃんは本当にクッセェけど」


「今のくだり全部ブチ壊しじゃねぇか」


 備前すら意味もわからず振り回される加奈子の暴れぶりである。


「あれ? てことはパパ。本当はアタシのこと可愛いって思ってくれてたんだ?」


「……まぁ好きに言ってろよ」


「嬉しいな〜! アタシもパパがあと20歳若かったら、たぶん好きになってたよ? わりと好みの顔なんだ〜」


「黙れ。もう俺のことはいいから、ホームレスのほうをどうにかしてろ」


「はぁい」


 加奈子は一度満面の笑みを備前に向けてから隆史や男のほうへ向き直る。


「おら〜! ボサッとしてねーで早く動かねーかー!」


 加奈子は隆史や男に檄を飛ばす。


「アニキぃ。こりゃあいったいなんの騒ぎですかい?」


 そこへ騒ぎを聞きつけて、さらに石田までもが顔を覗かせた。


「亜人か。実は小娘のやつが変なホームレスを拾いやがってな……養分にするってんで隆史ん家の風呂を乗っ取って暴れてんだ」


 それを聞いて石田の顔も引きつる。


「やっぱりアネゴですかい……まだ若いのに、アニキに似てとんでもない人っすよね、アネゴは……」


「そういや亜人もなぜか小娘には逆らおうとしねぇな……威勢のいいお前らしくもない」


「そりゃあアニキのツレだからってのもありますがね……なんかこう、アネゴには逆らうなって俺の本能が言ってるんですわ」


 石田は自分の後頭部を擦りながら言った。


「亜人が言うんじゃ、やっぱタダモンじゃねぇよな小娘のやつ……」


 備前も石田も玄関の外で呆れたように苦笑いを浮かべる。


 そしてそんな二人をまったく意に介することなく、加奈子はさらに傍若無人に振る舞い続ける。


「おら〜! おっちゃんは早く風呂に入れ〜! キモオジは着替えくらい貸してやれよ〜!」


 加奈子はホームレスの男を足蹴にして風呂場に押し込み、隆史を下僕のように威圧していた。


 年上の男たち4人の中心にいてなお場の空気を完全に掌握している加奈子はケラケラと軽い笑みを浮かべ、堂々と独壇場を展開していた。



 いつもお読みいただきありがとうございます。


 新しい年度がそろそろですね。

 CWさんを始め、社協、地域包括、施設やケアマネさん……その他福祉に関わる多くの部署にも新米さんが入って来ます。

 その志しに敬意を表しつつ、利用者さんとかには暖かく見守っていただけるよう、ご理解をお願いしたいと思います。

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