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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
前章

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精神異常を装う時点で異常なのでフリじゃない


 備前と加奈子は市内の心療内科を有する病院へと来ていた。


「パパ。心療内科と精神科って何が違うの?」


「両方とも心の病が通院理由だが、簡単に言えば心療内科は身体へのケア、精神科は精神そのものへのケアだ」


「で、どうしてアタシは心療内科に来たの?」


「小娘は最初に働こうとしたら心身の異常に気づいたと主張して保護申請をしたからだ。働きたいけど無理なんです。治せるなら治したいんです。そういう建前が必要だ」


「で、アタシはどうすればいいの? ゾンビみたいなイメージでセンセと話せばオケ?」


「ゾンビ? どうするつもりだ? 俺にはどんなもんか判断つかんから、ちょっと実際にやって見せろ」


「わかった! 加奈子ちゃんの名女優っぷりをとくとご覧あれ〜」


 そう言って加奈子はひと呼吸おいて、一旦静かな雰囲気を作ってから演技をしだした。


「グ……ガ……オデ、オマエ、クウ……」


 それは漫画やゲームにありがちなカタコトのキャラクターのようだった。


「ばっかやろうが!」


 備前のゲンコツが当然のように落ちる。


「いったぁい!」


 加奈子は涙目で備前を見た。


「そんなギャグみてぇなうつ病があるか!」


「だってアタシわかんないもぉん!」


「いいか? うつ病ってのは憂鬱な気分がある程度長く続いてる状態で、食欲や何かをする意欲が薄れたり、不眠症状などが出るもんだ」


「つまりどうすればいいの?」


「別に変に暗いフリをする必要はねぇ。むしろリアリティが薄れても詐病を疑われるからな。淡々とうつ病と診断される症状を医師に伝えていけばいいんだ」


「そ、そんなこと言われても難しいよ」


「安心しろ。隣人の様子が明らかにおかしいから連れてきたというテイで俺が隣からサポートしてやる」


「パパならなんとかできる?」


「医師は頭のいい奴が多いからな。こちらが正しく道筋を辿ってるのに気づいた時点で、付き合っても時間の無駄と悟って狙いどおりに診断してくれる医師もいる。反対に徹底的に粗を探してくる医師もいるが、今日見てもらう医師は前者のタイプだ、安心しろ」


「そ、それならなんとか……」


「念のため小娘もうつ病の症状を覚えておけ。そんなものはネット上にありふれているからな、バカでも簡単に調べられる」


「オケマル!」


「間違われやすい症状との違いを把握して医師を迷わせないよう主張するのも大事だぞ。代表的なものは適応障害、双極性障害、統合失調症などだ」


「ラジャー!」


「それから事前にネット上で診断テストをやっておけ。傾向と対策が大事だ」


「学校のテストみたいでワロタ」


「素人が実情と比べて変な遠慮をすると軽度うつとされがちだからな、遠慮なく振り切っていけ」


「ヒャッハー! アタシ異常者だぜぇい?」


 こうして新たな精神異常者が爆誕した。


 それから加奈子はスマホで備前に言われたとおりのことを調べた。


「アタシ天才かも。とんでもないことに気づいちゃった……」


 何度かネット上の無料診断テストに挑戦した加奈子はそう呟いた。


「なんだ、言ってみろ」


「これさぁ。今のアタシの正直な回答を全部まるっと反対にすればいいだけだったぁ!」


 備前は驚いた顔をしたあとすぐに呆れた顔になって言った。


「小娘よぉ……お前が普段どこまで能天気な奴だか今ので丸わかりじゃねーか」


「えへへ~」


「褒めてねぇけどな」


 備前は軽くため息をついた。


「んじゃ、診察前に俺が医師代わりになって練習してやる」


「面接練習みたいでワロタ」


「ニコニコしてんじゃねー」


「そうだった。表情は動かさず、淡々と……良しっ!」


 加奈子は両手で頬を軽く叩く。


「準備はいいな? 始めるぞ……本日はどのような症状で来ましたか?」


「えと……わかりません。なんか辛かったらお隣さんが連れてきてくれました」


「お、無気力感が出てていいぞ。それなら俺がフォローしてやれるしな。だが小娘、今は練習だからな、自分の言葉でも答えてみろ」


「わかった!」


「では、調子が悪いことを教えてください」


「まったく眠れないし、ご飯も食べられない。何をしても楽しくないし、身体もダルくて何もできません」


「今、何か心配ごとはありますか?」


「わかりません……なんにも考えられないから……」


「普段はどのように過ごしていますか?」


「大体いつも横になってます。眠れないけど、動けないから布団に包まってる感じです」


「死にたいと思うことは?」


「そんなのいつもです」


「逆に、元気になって活動できるときとかはありますか?」


「……思いつきません。いつもダルいです」


「何か不思議なものが見えたり、声が聞こえたりはしますか?」


「そういうのは……ないと思います」


「辛い症状はどれくらい前からですか?」


「もう半年くらい前だと思います……」


 などと問答をしたあと、備前は満足そうに頷いた。


「良し。基本的なことはできているな。事前の問診票にもその調子で書いとけよ」


「うんっ!」


「これならあとは俺がなんとかしてやれる」


「ありがとっ! パパ!」


 飛び上がろうとする加奈子を備前は抑えつけるように窘める。


「それから最後にだ。診察や検査が終わっても気を抜くな。中には詐病を疑って診察以外の場所での様子を傍から見ている医師もいる」


「うげ……ツラいフリ、ツラいフリっと……」


「できれば病院を出てからもしばらく周りの目を気にしておけ。因みにこれは福祉事務所でも同様だ。建物を出たとたんにスタスタ元気に去って行くゴミどもを俺は大勢見てきた」


「アホ過ぎてワロタ」


「私は車に乗りませんと宣言した直後に役所の駐車場に堂々と停めた車を運転して帰る頭のおかしい奴もいるんだ、本当に信じられんが」


「アタシもいい加減わかってきたよ。生活保護者ってのは本当にバカばかりなんだね」


「そうだ。そもそも人並みの能力がねーから落ちぶれるんだ。もはや同じ人類と思うな、馬鹿なんだ」


「あはっ。アタシもパパも、バカばっかだね」


「そうだな」


 備前は無表情で言う。


「冷静に考えて、こんな小娘になにを教えてんだって我ながら思うぜ……精神を病んだフリまでさせてよ」


「ダイジョーブダイジョーブ!」


 加奈子はケラケラ笑って言う。


「うつ病を装うって時点で精神異常者だからフリじゃないっしょ!」


 備前は呆気に取られたあと自虐的に鼻で笑った。


「ちげぇねぇ」


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