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パパと小娘


「いっや~……バッチバチだったねェ~」


 市役所を出たところで加奈子が深呼吸をするように言った。


「ま、楽しかったからいいけど」


 加奈子にとっては他人事だ。


「まったくお前は。いい性格してるよ」


「うん! アタシ結構性格いいって言われるんだ~」


 備前は呆れて閉口する。


「パパ。これでアタシも生活保護が貰えるの?」


「たぶんな」


「たぶん?」


「このあとの財産調査で何も見つからなければ、だ。良くあるのは親が子供のために掛けておいた保険が見つかっての却下だ。本人の知らない財産というのが稀にある」


「なるほどぉ。それはアタシにもわからないなぁ」


「ま、18歳になったばかりの小娘だ。問題はないだろうがな」


「それなら良かったぁ」


「あとは扶養照会だ。手は打っておいたが可能性は0じゃない」


「どうなるの?」


「最悪、親に居場所がバレて連れ戻されるかもな」


「ヤダ! それは絶対にヤダ!」


「なら神にでも祈ってろ」


「アタシ神様キラーイ」


「いい度胸だ」


 備前は呆れた様子で言った。


 加奈子のほうを見ようともせず、まるで興味関心がないようですらある。


 淡々と前だけを見て歩く備前を追うように、時折駆け足を含めて歩く加奈子のほうは対照的に備前の気を引きたそうだった。


「それよりもパパ。パパのこと聞いてもい~い?」


「駄目だ」


「え~!? なんで~?」


「小娘には関係ない」


「か・な・こ! アタシ小娘じゃなくって加奈子って名前!」


「保護を受けきゃならんゴミと馴れ合うつもりはない。小娘で十分だ」


「うっわ! 自分だって申請したくせに!」


「俺は利用しているだけだ」


「それってクズじゃん」


「それがなんだ? こっちはとっくに認めてんだよ。だがな、認めるからには遠慮なく好き勝手言わせてもらうことにすんだ、俺はクズだからな」


「サイアク~! 財産は隠すわ嘘はつくわ、アタシよりよっぽど悪人じゃん!」


「だからどうした? 小娘に俺が裁けんのか?」


「それはムリだけど~」


「ならガタガタ言わねぇで黙って俺の養分になってりゃいいんだよ」


「はぁい……」


「ったく」


 備前は歩くスピードを上げる。


 加奈子もそれに合わせる。


「しっかし、こんなに簡単に生活保護が貰えるなんて、ホント働くのがバカみたいだよ~」


「みたいじゃなく、バカなんだよ」


「ひっど! 働いてる人みんなに謝んなよ~」


 備前はそれを鼻で笑った。


「いいか小娘よく覚えとけ。バカを見るのはバカだけだ」


「あ~……正直者がバカを見る的な?」


「そうだ。そしてその正直者って奴もバカに含まれる」


「……パパも結構、正直にモノをえぐるよね」


「そうだな……俺も正直者だったからな」


「バカを見たってこと?」


「さぁな、小娘には関係のないことだ」


「ふぅん。じゃあ仲良くなったら話してくれる?」


「馴れ合う気はねぇと言っただろ」


「チェッ……出会った時は優しかったのにさ」


「人に聞かれたら誤解を招くような言い方はやめろ」


「はぁい」


 加奈子はそれから黙って備前のあとをついて歩いた。


 2人はやがてアパートの前に辿り着く。


 生活保護には級地毎に住宅扶助の上限額が定められているが、どう見てもその範囲内に収まらないような築年数の浅い綺麗なアパートだった。


「ほれ、じゃああとは支給日まで大人しくしていろ。それから、ちゃんと上前は撥ねさせてもらうから忘れるなよ」


「わかってるって。こうやって安心して待てるのもパパのおかげだもんね」


「わかってりゃいいんだ」


「むしろこれだけでいいのって感じ」


「あまり吹っかけ過ぎるのも良くねぇからな。保護者でも無理のない額で長く絞っていくからいいのさ」


「もうサイアク~! パパって本当に悪人だよね」


 そう言いながらも加奈子は笑っていた。


「小娘に言われるまでもねぇよ」


「あっは! その振り切っちゃってる感じ、悪くないね」


 そう言って加奈子はアパート自室のドアを開けた。


 そのすぐ隣が備前の部屋だ。


 一足先に自室に入った加奈子は思い出したようにドアの影から顔を出して備前に言う。


「パパ。愛してるゼッ!」


 それをまったく相手にせず鼻で笑った備前に対し、加奈子は悪戯な笑みを向けた。


「ったく。警戒心のない小娘だよ」


 備前は独りごとのように呟いて自室へ入っていった。


 それを見送ってから加奈子も自室の扉を閉める。


 人の目のなくなった自室の玄関で、加奈子はドアに背を預け、滑り落ちるように座り込んで言葉を漏らした。


「アタシ、パパと出会えてなかったら、今頃どうしてたんだろ?」


 点いていない部屋の照明の方向へぼんやりと視線を向けて、加奈子は備前と出会ったときのことを思い出していた。


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