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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
前章

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8050問題(4)


 結局、隆史はそのまま佳代のボロアパートまで引きずり込まれて半ば強制的に賃貸借契約を結ぶことになった。


「隆史、今日からここがお前の家だ」


 備前の言葉とその古い建物に隆史は言葉を失っていた。


「何か言いたげだが、自分の価値を考えてものを言うんだな。屋根があるだけありがたいと思え」


 そう言って備前は部屋の鍵を開け、中に隆史を放り込む。


「ク、クリーニングしてあるのかよ、この部屋」


「さぁな。自分で掃除したらどうだ?」


「そ、それでさっきの契約書みたいな入居費用を取るのかよ」


「どうせお前の金じゃなくて生活保護から出る金だろ。大体、1円すら稼げないお前が金のことに口を出せんのか?」


「ザコすぎワロタ」


 備前のうしろから加奈子も顔を除かせる。


「ここにゃお前のママはいねぇんだ。メシも勝手には出てこねぇ。掃除洗濯も自分でするのが当然だろう」


「その歳でママ頼みワロタ」


 加奈子は備前の背中から左右にピョコピョコ姿を見せて隆史を煽っていた。


 そこへ隣の部屋から石田が姿を見せる。


「アニキ、誰スか? そいつ」


 どう見てもいかついチンピラ風の石田は隆史にとっての天敵だろう。


「おぅ亜人か、いいところに出てきた。お前の隣に住むことになった俺の同級生、小森隆史だ。面倒を見てやってくれ」


「わかりやした……しかし平気なんですかい? 今にも死にそうな顔してるじゃないですか」


「この歳までひきこもりだったからな、たぶん家事なんかひとつもやったことねぇんだよ」


「げぇ〜!? アニキ、もしかしてそんなザコの面倒を俺に押し付けるんですかい?」


「必要以上に面倒見てやる必要はねぇよ。何か足りねぇところがあればボコボコに殴って無理にでもやらせればいい。死んだら死んだで構わねぇから」


「なぁるほど、俺は現場監督って訳ッスね」


 石田はニヤリと笑った。


「お前さん、俺に迷惑が掛かるようなら容赦なくブン殴るから、最低限自分のことは自分でやってくれよな?」


 睨みを効かせる石田から目を逸らして隆史は俯いた。そしてその下を向いた隆史の顔を無理やり持ち上げて備前は追い打ちを掛ける。


「隆史も自分の母親をサンドバッグにしてたんだ、これから自分がどう扱われようと文句はねぇな?」


「……うぅ」


 隆史に抗う術はなかった。


「よし、じゃあ最後に俺との契約だ。なぁに、バカなお前の代わりに俺が金銭管理をしてやろうってことだな」


「ででで、でた〜! パパの養分契約だ〜!」


「駄目っスよアネゴ、笑っちゃあ」


 加奈子はとても楽しそうにケラケラと笑い出した。これには下僕の石田も苦笑いである。


「養分……? やだよそんなの」


 だが言葉に反応して隆史は拒否反応を示す。


 すると備前の顔つきはとたんに険しくなった。


「は? お前、住む場所を与えて、生活保護まで手続きしてやり、生活の面倒すら気にかけてもらえるよう頼んでやったんだぞ俺は。……それがタダで済む訳ねぇだろう?」


 備前は隆史の首に腕を巻く。


「お前は、俺に感謝の気持ちを込めて、その分を毎月の保護費から金で払うんだよ」


「い、いくら巻き上げようって言うんだよ……?」


「そうだなぁ。お前に出る保護費は住宅費を別に約7万円弱ってところか……なら、一日1000円で生活すれば残りの4万円は俺に上納できる計算になるなぁ」


「ぶほっ! アニキィ……」


「パパ、それエグすぎぃ!」


 それを聞いていた、同じく備前の養分である加奈子と石田すら驚愕する金額である。


「何言ってんだ。一日1000円。実際にどこかの自治体ではそれで生活させてたっていうからな、やりゃあできる。やれ」


 備前の目は少しも笑っていない。


「か、金の管理くらい自分でできるし……俺には必要ない……」


「あ?」


 備前は巻き付けた腕に力を込めた。


「お前さぁ。まだ自分の立場わかってねーのか?」


 隆史は言葉を発することもできない。


「お前の母親。これから俺が施設にブチ込むことになってんだが、お前、それがどこの施設だか知ってんの?」


 隆史はおそるおそる首を横に振る。


「俺と仲良しの施設にブチ込むんだよ。それがどこかもわからねぇお前には助けらんねぇよ。でもって、その母親の金銭も俺が管理することになる……これってさぁ、お前の母親の生活、俺が握ってるってことにならねぇかなぁ?」


 それを聞いて隆史はハッと息を飲む。


「お前のために家すら手放す覚悟をしたのに、母親は報われねぇなぁ……」


 そう言って備前は放心状態の隆史に軽く頭突きした。


「お前さぁ。今まで散々、親に迷惑を掛けてきたのに、最後くらい俺が守ってやろうとか思わないわけ?」


「ううぅ……」


 隆史は涙と嗚咽を漏らし始めた。


「残念だが、もはやお前の母親も立派な俺の養分だよ。それは変わらねぇ。だがな、お前が頑張ればその分、母親はラクになるんじゃねぇのかなぁ……?」


「うああぁ……ううぅ……」


「泣いてんじゃねぇよ!」


 備前はさらに強く腕を締め上げ、強面で隆史に迫った。


「泣けば済むようなガキじゃねぇだろう。そろそろハラを決めろや。お前は、俺に毎月いくら上納できんのか……テメェの母親の命の価値を! 今ここで決めろ!」


「う、ううぅ……。うううわあぁぁぁっ!」


 隆史は絶叫の果て、備前に言われるがまま従うしかなかった。


「パパ、悪魔すぎぃ……」


「俺ぁ、絶対アニキにゃ逆らわねぇぞ……」


 そしてその二人の様子を見ていた加奈子と石田も、ただ呆然と立ち尽くしていた。




 その後、老婆も既に備前が査察指導員をしていた頃から繋がりのあった有料老人ホームに即日入居が決まった。


 生活保護者を数多く扱っている施設のため、生かさず殺さず飼い慣らす予定である。


 そして両者とも当然のように即日申請。


 保護費は基本的に申請日から日割りで算定されるので一日でも早い申請がお得だ。


 こうして、8050問題でもあるこのケースは親子共々養分としたばかりか、後日、住宅の売却が成立した際にも備前は大きく収入を得ることになる。


 追い詰められた人間は、その困窮のあまり視野が極端に狭くなってしまう。


 簡単に欺かれ、利用されてしまうのだが、それは決して騙す人間だけが悪い訳ではない。


「バカを見るのはバカだけだ」


 備前ならそう言って笑うだけだ。


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